はいくる

「トゥインクル・ボーイ」 乃南アサ

サスペンスやホラーにおける子どもの役割は、大抵二分されます。登場人物達に未来や希望を感じさせる清涼剤的存在か、子ども特有の残酷さや凶暴さを発揮する恐怖の対象か。どちらも面白いですが、イヤミス大好きな私としては、後者の子どもに惹かれてしまいます。

とはいえ、いつもいつも映画『オーメン』のダミアンのように超自然的な力で大人を殺害していく子どもばかりでは食傷してしまうというもの。冷酷さや大胆さだけでなく、幼稚さや浅はかさがあってこその子どもです。そんな子どもの恐ろしさを描いた作品といえばこれ、乃南アサさん『トゥインクル・ボーイ』です。

 

こんな人におすすめ

子どもが抱える闇をテーマにした短編集が読みたい人

スポンサーリンク

愛らしい少年が夢中になる禁断の遊び、幼女に懐かれた男を待つ残酷な運命、友人の家への憧れが招いた悲しい結末、悲惨な環境で生きる子どもが知った恐ろしい秘密、傲慢な両親を待ち受ける驚きの罠、仕事で悩む保育士が陥った戦慄の落とし穴、命の存在について考える少年が起こしたとある行動・・・・・取返しのつかない一歩を踏み出す子ども達を描いた、危うく恐ろしい短編小説集

 

あらすじを読んでなんとなく想像すくでしょうが、非常に後味の悪い作品です。フィクションには、しばしば非現実的なほど早熟で頭の回る子どもが登場しますが、本作の子ども達の残酷さはどれも現実的。だからこそ、余計に胸糞悪さが高まりますね。子ども達がこうなった原因が、恐らく生育環境にあるんだろうな・・・と推察できるところも、なんともイヤ~な感じでした。

 

「トゥインクル・ボーイ」・・・誰もがつい微笑みかけてしまうほど愛らしい少年・拓馬。拓馬の最近の楽しみは、母親とその彼氏と一緒に競馬場に行き、落ちているカードを拾うことだ。一度、とても貴重なカードを拾った時は、母親も彼氏も大喜びしてくれた。そして、拓馬は気づく。場内に落ちているカードより、人のポケットや鞄の中のカードの方が綺麗だということに・・・・・

幼い拓馬目線では<カード>ですが、要するに馬券です。シングルマザーの母親と彼氏に喜んでもらいたい一心で、自覚なく窃盗を重ねる拓馬の姿はひどく哀れ。ただ、盗みは犯罪ですが償いきれないわけではないし、ここでガツンと罰を食らって反省すればやり直せるでしょう。収録作品中、これが比較的救いのあるエピソードと言えるかな。

 

「三つ編み」・・・新居に引っ越してきた萩原は、家の隣の飲み屋に通うのが習慣になる。店主には幼い娘がいて、普段は人見知りな割になぜか萩原にはよく懐く。なりゆきで子守を引き受ける萩原だが、ある時、半裸で自宅にいるところを娘に見られてしまい・・・

主人公を哀れと取るか隙がありすぎと取るか、娘を無知と取るか計算づくと取るかで感想が変わりそうですね。でも、主人公もいらんこと言ったせいとはいえ、今後払うであろう代償が大きすぎるよなぁ・・・今後、主人公の社会的生命はどうなるか、すごく気になります。

 

「さくら橋」・・・梨沙と昌幸の姉弟の家には、タケシという少年がよく遊びに来る。タケシは芸者の息子で、母親が多忙のため、梨沙の家で面倒を見てあげるのだ。家庭的な梨沙の家に憧れたタケシは、この家の子どもになりたいと望むようになり・・・・・

作中の子ども達の親は、無責任だったり傲慢だったりと結構問題ありそうなタイプが多いのですが、このエピソードのタケシの母は、文章を読む限り息子のことをちゃんと考えているように思えます。その分、終盤でタケシが起こした行動、そこから今後どれだけの愁嘆場が繰り広げられるかを想像すると、重苦しい気分になりました。何一つ悪いことしてない子どもが辛い目に遭う展開は、やっぱりキツいですね。

 

「捨てネコ」・・・勝は、身勝手な母と血の繋がらない継父との三人暮らし。家でも学校でも理不尽な暴力を受け、憂さ晴らしに子猫を虐待するのが日課だ。やりすぎて子猫が死んでしまうと、自宅の床下に放り込んでおく。そんな中、すべてが明るみに出る日がやって来て・・・

<性犯罪><児童虐待>に並んで卑劣さが高い(どんな犯罪も卑劣ですが)動物虐待。ただ、このエピソードの場合、加害者である勝自身、悲惨な環境で育っており、行き場のない怒りや悲しみを動物にぶつけています。やったことは許されないけど、もっと落ち着いた環境で暮らしていれば、こんなことは起こらなかったのでしょう。最後の最後、床下から出てきたものが示すのは・・・・まあ、そういうことなんだろうな。

 

「坂の上の家」・・・とあるレストランにいつも閉店間際にやって来る四人家族。各自好き勝手に漫画や雑誌を読み耽り、料理にろくに箸も付けない一家は、店員にも不人気だ。実は両親はどちらも教師であり、保護者達に教育論を語ったりしている模様。だが、子ども達は友達もおらず、学校では孤立しているようで・・・・・

レストランの店員目線で語られる一家の寒々した様子がすっごく嫌!殴る蹴るの暴力などないにも関わらず、この家庭に愛は皆無、親は子どもを放置しっぱなしというのがびんびん伝わってきます。親が教師というのも、エピソードの冷えた空気感を盛り上げていました。最後の子ども二人の会話が怖すぎます。

 

「青空」・・・自身を子ども好きと信じて保育士になるも、仕事に行き詰まりを感じる主人公・早苗。特に、転園してきたばかりの巧太という少年はとてつもない問題児で、早苗は心身ともにくたくただ。そんなある日、早苗は巧太の家に家庭訪問することになるが・・・

意思が弱く流されやすい早苗は、読者の反感を買いそうですが、私は性格がそっくりなせいもあり彼女を嫌いになれません。辛いながらも真っ当に保育士をやっていたわけだし、基本的に真面目な女性なんでしょう。その真面目さの結果があんなこととは・・・取返しのつかなさ度合で言えば、収録作品中トップクラスではないでしょうか。

 

「泡」・・・パパが弁護士の仕事を辞めて以来、ママは祐一郎の教育に必死。「パパのようになっちゃだめ」「あなたはママの命」そう繰り返し、過剰な勉強を押し付ける。でも、命って一体何だろう?疑問に思った祐一郎は、命を見てみたいと望むのだが・・・・・

昨今でも話題の教育虐待を扱ったエピソードです。この母親に悪意は一切なく、本人主観ではあくまで我が子を愛するがゆえ、というところが怖かったですね。黙って耐えていた夫の予想外の姦計にもゾッとさせられました。祐一郎が成長し、自分のやったことの意味を理解した時、一体どれだけショックを受けるかと思うとやりきれないです。

 

なお、最終話の「泡」は、一九九三年に国生さゆりさん・うじきつよしさんでドラマ化されています。けっこう昔だし、単発ドラマだからDVD化もされていないようだし、今後視聴できる可能性は低いかな。もしご覧になった方がいれば、ぜひ感想を聞かせてほしいです。

 

育つ環境って大事だよね度★★★★★

子どもは罪を理解していない・・・?☆☆☆☆☆

スポンサーリンク

コメント

  1. しんくん より:

    湊かなえさんんと同世代の自分としては辻村深月さんも湊かなえさんも乃南アサさんの影響を影響を受けている?と読んでいて思います。
    うじきつよしさんと国生さゆりさんのドラマは確かに観た記憶がありましたが、短編ドラマで息子にお受験させる国生さゆりさんと弁護士を諦めたうじきつよしさんの夫婦のストーリーで良い終わり方だったので、それとは違うみたいです
    最近湊かなえさんのイヤミス路線から変更した印象を受けるので乃南アサさんの作品が読みたくなりました。
    まだカレーライフも読んでいないので読み終わってから借りようと思います。

    1. ライオンまる より:

      映像化すると、えてして原作より後味良いラストに改変されたりするので、ズバリそれかもしれませんよ。
      乃南アサさんが描く、決して現実離れしない苦々しさが大好きです。
      どんな悪人も、超人的な能力や悪運の強さを発揮するわけではないところが面白いんですよね。

      しんくんさんのカレーライフの感想も楽しみです♪

しんくん へ返信する コメントをキャンセル

*

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください