「あなたが一番好きな料理は何ですか?」という質問があり、結果をランキングにするとしたら、どんな答えが集まるでしょうか。さぞかし多くの回答が出るでしょうが、恐らくトップ5の中にはカレーが入っていると思います。ビーフ、ポーク、チキンにシーフード等、種類が豊富な上、辛さを調節したりスパイスで味を変えたりもしやすいので、老若男女問わず人気がある一品です。
しかし、どれだけ人気があろうと、料理一品をテーマに長編小説を書くのは至難の業。それはカレーとて例外ではなく、カレーをテーマにした小説と言えば、橋本紡さんの「ココナッツミルクのカレー(『今日のごちそう』収録)や山口恵以子さんの「うちのカレー」(『うちのカレー』収録)というように短編小説が多いです。それももちろん面白いけれど、たまには頭のてっぺんから爪先までたっぷりどっぷりカレーに浸りたいという方には、これなんてお勧めですよ。竹内真さんの『カレーライフ』です。
こんな人におすすめ
カレーをテーマにした青春成長小説が読みたい人
さあ、約束を果たす旅を始めよう---――祖父の死後、「大人になったら一緒にカレー屋をやろう」と誓い合った五人の従兄妹たち。成長後、約束を覚えていたケンスケは調理師免許を取得するものの、他の四人はてんでばらばら。このままでは、あの日の約束が果たせない!一念発起したケンスケは、真っ先に合流できたワタルとともに、従姉弟達を探す旅に出る。静岡、アメリカ、インド、沖縄。国境すら超え、仲間と美味しいカレーを探すケンスケらの旅の行方は如何に・・・・・?
こんなことを言うのもなんですが、私はカレーが大好物というほどではありません。美味しいと思うかと聞かれればイエスだし、出されれば喜んで食べるけど、手間暇かけて作ったり高い代金を払って食べに行くほどではない、というレベルでしょうか。私にとってカレーとは、いつでもどこでも手軽に用意することができて、誰が作っても一定の味になる便利なメニューでした。レトルトカレーが簡単に手に入る環境だから、余計にそう思うのかもしれませんね。それが、本作を読んで考えが変わりました。カレーというメニューの奥深さや複雑さ。それを探求する内に分かってくる、家族の絆について。ありふれていて、いつでも手軽に食べられるカレーに家族のルーツが詰まっていたという展開がすごく面白くて、超長編にも関わらずぐいぐい読まされました。
主人公のケンスケは、専門学校卒業後、飲食業に就職を決めたばかりの青年。幼い頃、祖父の死後に従兄妹達と交わした「全員でカレー屋を開こう」という約束を今でも覚えています。ところが、晴れて調理免許を取得したにも関わらず、従兄妹達は国内外にばらばらになっていて、とてもカレー屋をやるどころではありません。ひとまず約束を交わしたメンバーの一人、大学生のワタルと合流したケンスケは、他の従兄妹達と会うため、アメリカのバーモント州に渡ります。さらに、インド、沖縄と旅は続き、その過程で、ケンスケ達は祖父のカレーに込められた意外な秘密を知ることになるのです。
このあらすじを読んで、世界各国回るのにノリ軽っ!と思った方はいるでしょうか。その感覚は、基本、読書中ずっと続きます(笑)若さのせいもあるでしょうが、ケンスケらの行動は良く言えば積極的で行動力抜群、悪く言えば軽率で向こう見ず。子どもの頃に約束をしたから。ただそれだけの理由で、約束を覚えているかすら分からない従兄妹に会うため国内外を飛び回り、トラブルに巻き込まれつつちゃっかり現地のカレーを堪能し、時には現地の人達に日本のカレーを教えたりしながら珍道中を続けます。現実にこんなノリで海外旅行などしようものなら相当痛い思いをしても仕方ないですし、実際、作中で危ない目に遭うこともあります。海外で素性不明な人間を信用しすぎちゃダメだよ、君達・・・
でも、そういう若さゆえの無鉄砲さや勢いが、読み進めるうちに不思議と爽やかに感じられるんですよ。それは、主人公であるケンスケが、真っ当な環境ですくすく大きくなった、いい意味で育ちの良い子だからかもしれません。いい加減だったり無分別だったりする面はあれど、ケンスケは基本的に素直でまっすぐですし、従兄妹達が「これこれこういう事情でカレー屋はできない」と言えば、その気持ちを尊重します。また、亡き祖父をはじめ、ケンスケの家族も善人ばかりで、あちこちで「あの人の身内ならば」と協力してくれる人間が現れます。適当に作っているのになぜか滅茶苦茶美味しい料理に仕上がるワタル、作家志望のヒカリ、世界各地を放浪して回るサトルなど、ケンスケを取り巻く登場人物達も個性豊かで、彼らがカレー屋開業の約束を通じ(実際に店をやるかはともかく)、自分の現状や将来について考える流れは瑞々しく爽快でした。
そして、忘れちゃいけないのが、四六四ページをフルに使って描かれるカレーの数々!普通の日本のカレーはもちろん、バーモント州にバーモントカレーはないとか(当たり前?)、インドで食べる具が全然ないカレーとか、沖縄のラフテーカレーとか、ご当地ネタをふんだんに取り込んだカレー描写がすごくすごく美味しそうなんです。個人的には、バーモント州の人間にバーモントカレーを振る舞ったら絶賛され、逆に作り方を教える羽目になるエピソードが好きでしたね。調べたところ、バーモントカレー誕生時、日本には<バーモント健康法>という林檎酢と蜂蜜を使った民間療法が流行しており、それが語源になったとのこと。作中、「バーモント州なら本場のバーモントカレーが食べられる」と期待していたケンスケ達が肩透かしを食らう場面がありますが、私も結構びっくりしました。
本作の否定的意見を見てみると、そのほとんどは「飲食業をやる上でリアリティがない」というものでした。実際、行く先々でなんやかんや言いつつ力になってくれる人が現れるし、資金面その他の面倒なことを熟慮している様子はないし、ビジネス目線で見たら甘すぎると言わざるを得ないでしょう。ただ、若者の成長物語としては間違いなく良作だと思います。途中、祖父のカレーにまつわるちょっとしたミステリーもあったりして、質量ともにボリューム満点でした。さて、今夜はバーモントカレー作るかな。
未熟だからこそのパワーが凄い!度★★★★☆
カレーをすぐ食べられる環境で読むべし度★★★★★
カレーはラーメンやナポリタンと同じく日本人がアレンジしたもはや日本料理だと思います。海外ドラマでラーメンを食べている場面はあってもカレーを食べている場面は観たことがありません。
カレーが漫画や小説に出てくることはいくらでもありますが、カレーだけで400ページ以上の長編とは大変興味深いです。
図書館で借りてきた「美味しんぼ」24巻カレー勝負を読んだばかりです。
GW明けの図書館に行って探してみようと思います。
カレーがテーマの青春白書~未読の作家さんですので楽しみです。
大長編と言っていいレベルのボリュームですが、調理シーンやカレーの蘊蓄も多く、小難しさはゼロ。
わくわくし、最後はすっきりほっこりできる良質な青春小説でした。
カレー色の表紙からして、実に食欲をそそります(^^♪
大変楽しく読み終えました。
2段の460ページの大長編ですが飽きずに美味しいカレーとケンスケ、ワタルの無鉄砲さ~若さ故の勢いを感じました。
至るところで探している人が見つかったり探していた材料や祖父との繋がりがあっさり見つかったり出来過ぎだと感じました。
ケンスケが入社する前に会社を辞めてしまった場面、ヒカリの心鏡を語った小説、コジロウのルーツ、ワタルの複雑な心理にアメリカ、インド、沖縄の珍道中~。
昔「猿岩石」が大陸横断していた話を思い出しました。
その有吉弘行がいくつもの冠番組を持ちアナウンサーと結婚したことを思うと時代の流れを感じます。カレーのルーツも漫画「美味しんぼ」と重なる部分もあり共感出来ることも多かったです。
彼らのカレー屋がどうなったか?続編が読みたくなりました。
彼らならコロナ禍の今でも工夫して上手くやっていると思います。
確かに、ちょっとうまくいき過ぎなところはありますよね。
ですが、ただでさえ殺伐としたニュースが多い昨今、こういう爽快で前向きな小説の方が楽しいです。
タフでバイタリティーある彼らのことですから、このご時世でもきっとへこたれず店をやっていることでしょう。