はいくる

「あしたの君へ」 柚月裕子

法曹界を舞台にした作品って面白いですよね。有名なところでは横山秀夫の「半落ち」、海外ならジョン・ディクスン・カーの「火刑法廷」やジョン・グリシャムの「評決のとき」、ゲームですが「逆転裁判」シリーズなどがそれに当たります。複雑な司法問題と、絡み合う人間模様に、手に汗握らずにはいられません。

そして、法廷での攻防戦を描いた作品以外にも、面白いものはたくさんあります。今日取り上げるのは、「家庭裁判所調査官」という職業を扱った作品です。「このミステリーがすごい!」大賞受賞者である、柚月裕子さん「あしたの君へ」です。

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家裁調査官に採用された後、家庭裁判所調査官補―――――通称「カンポちゃん」として九州に配属された主人公・望月大地。見習いとして日々奮闘する彼の前に現れるのは、一筋縄ではいかない案件ばかり。なぜか動機について不明瞭な態度を取る窃盗犯の少女、元交際相手へのストーカー容疑で逮捕された男子高校生、一見完璧な夫との離婚を切望する妻、親権争いをする両親を淡々と見つめる子ども・・・・・相談者たちとともに悩み、もがく大地は、果たして一人前の家裁調査官になれるのか。

 

実は私、家裁調査官を扱った作品を読むのは本作が初めて。ドラマや映画に出てきたな~という程度の知識しかありませんでしたので、とても興味深かったです。さすが法的機関を扱った小説がお得意の柚月さん、「家庭裁判所」の役割について、私のような初心者にも分かりやすく描写してくれていました。

 

未成年者の貧困問題、親の過剰すぎる愛情、モラル・ハラスメント、親権をめぐって泥沼化する離婚訴訟など、取り上げられるテーマはどれも重く苦しいものばかり。登場人物たちの心の叫び一つ一つがとても切なく、胸を締め付けられました。とはいえ、短編集であるということ、文章が柔らかく読みやすいこともあり、あまり陰鬱さは感じません。この手のジャンルが苦手な方でも抵抗なく読めると思います。

 

何より、主人公である望月大地のキャラクターが良いです。どちらかというと見た目は厳ついのですが、新人らしい打たれ弱さや優柔不断さがあり、相談者の真意を読み取れなかったり、先輩から叱責を食らうこともしばしば。大地が自分の欠点を認め、一歩一歩成長しようと奮闘する様に、なんだか勇気をもらえた気がします。

 

一話一話のボリュームが短いこともあり、読みやすい反面、やや物足りなさも感じました。大地の同僚である見習い調査官たちもなかなか魅力的ですし、これはぜひともシリーズ化してほしいですね。一回り大きくなった大地たちの活躍を、今後も見続けていきたいものです。

 

主人公の成長ぶりが爽やか度★★★☆☆

弱者が犠牲になる社会はダメ度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

・前向きなお仕事小説が読みたい人

・家庭裁判所の仕事に興味がある人

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コメント

  1. しんくん より:

    検事、検事、弁護士の法律家の目線でなく家裁調査官という一般人に近い立場からのリアルな目線のストーリーは共感させられました。昔、片岡鶴太郎と仙道敦子が出演していた「家裁の人」を思い出しました。続編を期待したいですね。

    1. ライオンまる より:

      昔見たドラマに似てるけどタイトルが思い出せない・・・と思っていましたが、まさに「家裁の人」でした!
      弁護士や検事主役の話は多いけれど、家裁調査官というのはなかなか珍しいですよね。
      キャラクターも魅力的だし、シリーズ化してほしいです。

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