はいくる

「指名手配作家」 藤崎翔

芸能人が小説を書くケースは多いです。その際、「芸能人に小説が書けるのか」という批判が巻き起こるのはお約束。特に、その芸能人が華やかな経歴の持ち主だった場合、批判が激しくなる傾向にあるようです。

ですが、芸能人に小説が書けないと決めつけるのは偏見というものでしょう。文学史上の例を挙げると、『クリスマス・キャロル』などで有名な世界的文豪チャールズ・ディケンズは、役者としての顔も持っていました。現代日本にだって、優れた小説を書く芸能人、あるいは元芸能人は大勢います。その中で私のお気に入りは藤崎翔さん。最近読んだ『指名手配作家』も、スピード感に溢れていて面白かったです。

 

こんな人におすすめ

コメディタッチの逃亡劇が読みたい人

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行き違いが原因で担当編集者を突き飛ばし死なせてしまった小説家・大菅賢。逃亡生活はたちまち行き詰まり、自殺を図るも、ひょんなことから同じく自殺志願者だった桐畑直美に匿われることになる。ただの居候になるわけにもいかず、賢は自分が書いた小説を直美に出版させ、ゴーストライターとして生きて行くことを決めるのだが・・・・・前代未聞の二人三脚は、果たして成功するのだろうか。行き先不明のスリルがあなたを待つ!

 

<犯罪の容疑をかけられ逃亡する主人公>という設定だと、ハリソン・フォード主演の映画『逃亡者』などが有名ですし、小説なら伊坂幸太郎さんの『ゴールデンスランバー』があります。これらと本作の違いは、例に挙げた作品の主人公の容疑は冤罪だったのに対し、『指名手配作家』の主人公は本当に罪を犯している点でしょう。そんな主人公に共感できるのか・・・と最初は思いましたが、いつの間にか彼が逃げ切れるよう応援している自分にびっくりしました。

 

主人公の大菅賢は、なかなかヒット作を書けずに行き詰まる小説家。ある日、担当編集者の添島と口論になった大菅は、弾みで彼を突き飛ばし、なんと死なせてしまいました。パニックを起こして逃走するものの、ホームレス同然の暮らしは長く続かず、ついに自殺を考えるまでに。しかし、自殺しようと向かった川で同じく自殺志願者の桐畑直美と出会い、なりゆきで彼女に匿われることになります。直美は認知症だった父親を殺したと疑われ、近所中から村八分に遭っていました。その話を聞き、これは面白い小説になると確信する大菅。しかし、指名手配中の大菅に小説を出すことはできません。そこで考えたのは、大菅が書いた小説を、直美が書いたことにして出版するという案。かくして、前代未聞のゴーストライター作戦が決行されることになったのです。

 

このゴーストライター作戦がとにかくスピーディでスリリング!幸い小説は大ヒット、後に大きな賞を獲るまでになるものの、日陰者にならざるをえない大菅が拗ねたり、二人の間に子どもができたり、その子どもが書いた作文のせいでゴーストライターがバレそうになったり、不審なシングルマザーから恐喝されたり、急に福祉精神に目覚めた直美が金を湯水のように寄付し始めたり、偶然にも刑事と関わる羽目になったり・・・そのトラブル一つ一つに対して話し合い、知恵を絞り、壁を乗り越えられないならぶっ壊してしまえとばかりに困難を突破していく大菅&直美の姿にハラハラドキドキさせられっぱなしでした。

 

何よりこの二人、決して手放しで褒められる善人ではありません。大菅は事故とはいえ人を死なせ、「逮捕されるのは嫌」と逃亡した身。直美に匿われてからは、何かというと彼女と体の関係を持ちたがる上、表舞台に立てない立場を僻む始末です。一方直美はというと、冤罪で白眼視されるという憂き目には遭うものの、ゴーストライター作戦が成功してからはその名声と大金に有頂天。大菅を時効成立まで逃がそうと、むしろ主導権を握って次々アイデアを出すようになります。

 

そんな生臭さ全開のカップルですが、だからこそ人間味が感じられるというのもまた事実です。二人の間に子どもが生まれ、その成長に幸せを感じる場面。あるいは、生まれた子を大菅の母にこっそり会わせようと画策する場面にはジーンときてしまいました。こんな破天荒でいい加減な二人なのに、いつの間にか「大丈夫?正体バレない?さっさと逃げればいいのに」と思っているのが不思議・・・これも藤崎さんの作品が持つ吸引力のせいなんでしょうね。

 

基本的に大菅&直美の逃亡・潜伏生活を描いた作品ですが、最後にはちょっとしたどんでん返しがあります。しんみりさせたと思ったら、エピローグでこんなオチ!でも、よく考えれば、ちゃんと読者が違和感を感じられるような描写になっていたんだよなぁ。ただの人情話で終わらせないところもまた藤崎節ですね。二人がゴーストライターで書いた作品、どれもなかなか面白そうなので、いつかきちんとした形で読んでみたいです。

 

逃げちゃダメなのは分かっているんだけどね度★★★★☆

最後にみんなが大活躍!度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

    藤崎翔さんは「神様の裏の顔」以来です。
    小説家の逃亡劇、潜伏生活~出会った女性との成り行き、ゴーストライターとしての生活など大変面白い設定で是非とも読みたくなりました。
    ドタバタな展開にミステリーに人情話まであり~楽しみです。

    1. ライオンまる より:

      設定のユニークさと、勢いのある文章が藤崎さんの魅力ですが、本作ではそれが遺憾なく発揮されていたと思います。
      主人公があんまり同情できない性格というところも、いいアクセントになっていました。
      何も考えず、テンポ良く読書を楽しみたい時にお薦めです。

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