はいくる

「幸せな家族 そしてその頃はやった唄」 鈴木悦夫

名作、傑作、凡作、駄作、迷作・・・すべて、作品の出来を評価する言葉です。こういうことに唯一絶対の正解はありませんから、ある人にとっての名作が、ある人にとっては駄作となることも決して珍しくありません。レビューサイトなどで十人十色の感想を読み比べるのも、なかなか楽しいですよ。

こうした作品の評価に、<怪作>というものがあります。王道を行く大傑作とは言えないかもしれないけれど、独特の世界観で読者に強いインパクトを残す作品がこう呼ばれます。<怪>という字が付いているだけあって、不気味だったり不穏だったりすることも多いようですね。先日読んだ作品は、まさに怪作と言うにふさわしい衝撃度でした。鈴木悦夫さん『幸せな家族 そしてその頃はやった唄』です。

 

こんな人におすすめ

連続殺人が出てくるサスペンスが好きな人

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彼らは、幸せな家族のはずだった---――CMのテーマである<幸せな家族>に選ばれた五人家族・中道家。ところが、いざ撮影が始まろうとした矢先、大黒柱である父親が不審死を遂げる。悲しみから立ち直る間もなく、次々死にゆく家族たち。その背景にちらつく不気味な歌。これはまさか、歌詞に見立てた連続殺人なのか。翻弄される少年が最後に見たものとは果たして・・・・・子ども達のトラウマ必至と言われた長編ジュブナイル・サスペンス

 

平成元年に出版され、半ば伝説と化していた作品が、令和になって復刊されました。噂によると、某書店の店員さんが書いたPOPがじわじわと広がり、大ヒットに繋がったのだとか。SNS全盛期の現代にこういう話を聞くと、私のようなアナログ派は嬉しくなってしまいます。

 

保険会社で<幸せな家族>をテーマにしたCMが制作されることになり、そのモデルとして中道家が選ばれます。カメラマンの父、専業主婦の母、元気な三人の子ども達。中道家にはスタッフ達が集い、いざ撮影開始・・・・・と思いきや、父親が死体となって発見されました。時置かずして、長男も、そして母親も、異様な形で死を遂げます。彼らの死に方は<その頃はやった唄>という歌の歌詞にそっくりでした。何者かが、歌詞通りに見立て殺人を行っているのか。だとしたら、誰が、一体何のために?残された子ども達は、やがてあまりに惨い現実と直面することになるのです。

 

<怪作>だと前述した通り、本作は十人中十人が手放しで傑作だと絶賛するタイプの作品ではないような気がします。「歌詞のおかげで次の標的が予測できるにもかかわらず、なぜか全然警戒しない警察」だの「心配を理由に、いつまでも中道家に滞在し続ける関係者たち」だの、よく考えたら不自然な設定がちらほら。犯行にも無理がある部分が多く、リアリティあるミステリーかと問われれば、正直、首を傾げざるを得ません。加えて、連載開始が一九八三年だからか、登場人物たちの言動も現代人から見ると違和感があります。ティーンエイジャーの長女が大真面目に「お母さま、あたくし~ですのよ」と話す場面など、「あれれ?」と思う読者も多いのではないでしょうか。

 

しかし、そういう点を差し引いても余りあるほど、本作のリーダビリティは高いです。幸せな家族と言われつつ不穏なぎこちなさ漂う中道家とか、家族が一人ずつ異様な死を遂げていく様子とか、ぞくぞくするような怪しさてんこ盛り。本作が「一連の事件を体験した次男が、レコーダーに吹き込んだ一人語り」という形式で進むのも、サスペンス好きとしてはポイント高いです。子どもの未熟な語り口調とサスペンスやホラーって、どうしてこうも相性が良いのでしょう。

 

面白いなと思ったのは、作中で重要なキーワードとなる歌の歌詞が、終盤まで読者には全文明かされない点です。この手の見立て殺人モノって、大抵は前半で歌詞が掲載され、「次の犠牲者は溺死するのか・・・?」というように推理できるパターンが多いです。対して本作の場合、読者が歌詞全文を知るのは終盤も終盤。それもそのはずで、歌詞を知ってしまうと、事件の犯人も一発でバレます。序盤から怪しさ満載だったので分かるだろ!!というツッコミもありそうですが、それはひとまず置いておくとして・・・クライマックスで、犯人判明と同時に歌詞全文が掲載されることで、その残酷さ、その不気味さがより一層強調されたように感じました。本作をぱらぱらめくってみる際は、終盤の歌詞を見ないよう注意した方がいいと思います。

 

なお、この歌ですが、てっきり創作かと思いきや元ネタとなった詩があります。詩人・山本太郎さん(元俳優・元政治家の山本太郎さんとは別人)『覇王紀』に収録された詩で、これがものすごく不気味!本作の特設サイトでは、この歌をフルバージョンで視聴することまでできるのですが、予想外に明るいメロディと地獄のような歌詞のギャップが凄まじかったです。聞くためには作中のとあるワードを入力する必要があるので、ぜひ読了後に視聴してみてください。

 

歪みゆく人間心理の描写が強烈です度★★★★★

子ども向けと信じて読むとトラウマになるかも度★★★★★

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