はいくる

「波乱万丈な頼子」 真梨幸子

年を取るにつれて、悲しいかな、本のタイトルとあらすじだけでは既読か未読か判断できないということが増えました。「好きな作家さんの著作一覧に、覚えのない本がある!新刊の時に気づいていなかったかな?」と思い、図書館でウキウキ借りたところ、実はもう読んでいたということもしばしばです。二十代くらいまでは、こんなことなかったんだけどなぁ・・・

ただ、こういう形で予期せず再読するのも、悪いことばかりではありません。オチを知った上で最初から読むと「なるほど、この台詞が伏線だったのね」「あ、実は序盤に犯人がちらっと登場してた!」というような面白さがありますし、読む時の年齢や生活環境次第で感想が変わることもあり得るでしょう。この作品も、既読だということを忘れて再読しましたが、それはそれで面白かったです。真梨幸子さん『波乱万丈な頼子』です。

 

こんな人におすすめ

インターネット文化と絡んだイヤミスに興味がある人

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ねえ、こいつ、ヤラセじゃない?---――<頼子>という高齢女性が自身の波乱の人生を語るVlog「波乱万丈な頼子」。その動画を見た主人公・莉々子は、あまりの荒唐無稽さにヤラセ疑惑を抱く。多くの視聴者が多額の課金をしている以上、もしヤラセだとしたら、将来とんでもないトラブルになるのではないか。他人事ながら気になって仕方がない莉々子だが・・・・・一方その頃、「波乱万丈な頼子」の大ファンである千栄子は、チャンネルへの課金がやめられずにいた。どれだけ生活費を削ろうと、暮らしが困窮しようと、「波乱万丈な頼子」があれば大丈夫。ところが、ある日突然「波乱万丈な頼子」はチャンネル閉鎖を宣言してしまう。推しの喪失を前に、千栄子はパニックを起こして・・・・・あなたはこの嘘を見抜けるか。イヤミスの女王が贈るノンストップ・サスペンス

 

前述の通り、すでに読んでいたことをすっかり忘れ、図書館でタイトルだけ見て借りてしまいました。ただ、私は初回読了後、偶然ですがVlog(日常生活を動画で記録し、SNS等で配信するコンテンツのこと)と関わる機会があったんです。最初に読んだ時は「Vlog?ふーん、そういうのもあるんだ」程度の感想でしたが、システムを知ってみると、文章だけの投稿とは違う持ち味があることが分かり、より臨場感を感じました。

 

本作の主人公は複数います。そのうちの一人・莉々子は法律事務所で働く事務職員。ひょんなことで視聴したVlog「波乱万丈な頼子」がどうにも気になって仕方ありません。それは、<頼子>と名乗る高齢女性が料理をしつつ自らの半生を語るチャンネルなのですが、その内容があまりにドラマチックすぎるのです。莉々子は職業柄、詐欺事件を見聞きする機会が多いため、「波乱万丈な頼子」も課金集め目的のヤラセではないかと勘繰っていました。その疑念を、同僚・藤村に話してみる莉々子。ここで、なんと藤村は、「波乱万丈な頼子」に一瞬映った映像から、撮影場所のアパートを突き止めてしまいます。これも何かの縁かもしれない。莉々子と藤村は好奇心に駆られ、くだんのアパートを見に行くことにしました。ところがこのアパート、後に惨たらしい事件の舞台となってしまい・・・・・

 

莉々子達の物語と並行して、もう一人の主人公・千栄子の物語も進行します。千栄子はカツカツの生活を送るアラフィフ女性。暮らしは困窮しているにもかかわらず、「波乱万丈な頼子」への課金をやめることができません。彼女は幼少期の経験から、お金こそが人間関係を築くと信じていました。課金を続ける限り、私と頼子の縁も続くはず。そう信じる千栄子ですが、ある日、「波乱万丈な頼子」終了のお知らせを耳にしてしまいます。あまりのショックにパニック状態の千栄子。ところで、千栄子は「波乱万丈な頼子」視聴の他にもう一つ、<幼い頃にお世話になったタナカさんという元家政婦を探し出す>という生き甲斐があって・・・・・

 

主軸となるのは莉々子・藤村・千栄子の三人なのですが、その他にもなんだか訳アリらしいアパート大家や、次々と死体で発見される<頼子>という名の女性たち、予想外の形で騒動に巻き込まれる莉々子の母親等、裏があるのかもと勘繰ってしまう人物が目白押し。こういういい意味での<わちゃわちゃ感>が真梨ワールドの持ち味なんですよね。人間関係や時系列は相変わらず込み入っているものの、後半、矢継ぎ早に謎の答えが明かされていくので、だれることはありませんでした。あれ、真梨作品にしては珍しくハッピーエンド?・・・と思わせてからの一ひねりも良かったです。

 

加えて、ジェットコースターさながらの派手な展開のせいでつい忘れてしまいそうですが、世間の怖さや陰湿さがしっかり描写してあるところも、本作の魅力の一つです。例を挙げると、インターネット文化の恐ろしさ。Vlogにちらりと映った光景のせいで撮影場所がバレる下りなんて、同じような映像を配信した経験のある方はゾッとしてしまうのではないでしょうか。また、莉々子はちょっとした好奇心から、ある動画を某企業に送信しますが、結果として大がかりな犯罪に関わる羽目になります。どんなに後悔しようと、たとえ元となった動画を削除しようと、一度インターネットの海に流れてしまった情報を抹消することはできません。現実世界にも存在する落とし穴を見せられているようで、うすら寒いような気分になりました。

 

なお、作中では毒々しい扱い方がされていますが、シニア向けのVlogというものは現実にもたくさん存在してします。いくつか視聴してみましたが、高齢の方達が丁寧な暮らしぶりや介護・終活といったテーマについて真摯に語る、いたって前向きなものばかりでした。疲れている時に見ると癒されるので、ご興味がある方はチェックしてみてください。

 

ブラックさが過ぎてもはやコミカル度★★★★★

犠牲者の数が多すぎ・・・度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

     たまたま図書館で目に止まり読んだことがあると途中で気が付く場合や最近は読み終えてレビュー書こうとして自分が書いたレビューがあり初めて気が付きレビュー読んでも内容を思い出せないことすらありました。
     真梨幸子さんで波瀾万丈とはジェットコースターどころか宇宙船に乗っていると思うほど極端な展開を予想しますが、意外にどぎつくなく読みやすそうだと感じました。
     『アルミーテスの采配』が1冊目だったので真梨幸子さんの作品は構えてしまいそうです。

    1. ライオンまる より:

      「アルテーミスの采配」「殺人鬼フジコの衝動」といった強烈な真梨作品と比べると、本作は比較的マイルドな部類だと思います。
      タイトルに違わず、激動に次ぐ激動の展開が繰り広げられますが、意外とすんなり読み終えることができました。
      最近は、ずいぶん前に読んだ本のレビュー記事を書く場合は、投稿履歴を確認するようにしています。
      実は同じ本の記事をとっくの昔に投稿していたということがしばしばありまして・・・これも年を取ったということかなと、ちょっと複雑な気持ちです。

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