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「我ら荒野の七重奏」 加納朋子

学生時代、何か部活動をやっていましたか?私の場合、部活参加が半ば義務だった中学校ではパソコン部でしたが、高校では三年間通して帰宅部部員。当時は特に何も思わなかったものの、今になって振り返ると、何かやっておけば良かったかもと思います。

そんな私は知りませんでしたが、十代の部活動って、親の役割がすごく大きいんですね。時には子どもとは無関係な部分で、親がシャカリキにならなければならない場面もあるんだとか・・・今日は、そんな部活にまつわる保護者の奮闘記をご紹介します。当ブログでも紹介した『七人の敵がいる』の続編、加納朋子さん『我ら荒野の七重奏』です。

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「沈黙の町で」 奥田英朗

最近、棚の整理をしていたら、中学時代の文集を見つけました。何気なく眺める内、当時のことを色々思い出したんですが・・・あの時代は、社会人とはまた違う厳しさと残酷さがあったと、つくづく思います。体の成長に心がついていかず、行き場のないパワーを持て余す。中学生って、人生で一番不安定な時期なのかもしれません。

中学生たちの人間模様をテーマにした小説といえば、映画化もされた宮部みゆきさんの『ソロモンの偽証』などが有名ですね。ですが、リアリティという面を重視するなら、私はこちらの方が好きです。海外でも多くの作品が翻訳されている、奥田英朗さん『沈黙の町で』です。

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「あなたには帰る家がある」 山本文緒

結婚してもときめきを忘れたくない。恋する心を持ち続けたい。ふと、そう夢想してしまう瞬間ってあると思います。その相手が配偶者なら問題なし。ですが、相手が他人となると、それはすなわち「不倫」になります。

現実で不倫をする人間は軽蔑の対象となりますが、不倫をテーマにしたフィクションは面白いもの。それこそ『源氏物語』の時代から、人の配偶者と関係する作品はたくさん創られてきました。そんな中、一番私の印象に残っている不倫小説はこれです。直木賞受賞作家である山本文緒さん『あなたには帰る家がある』です。

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「リバース」 湊かなえ

私は昔からコーヒー党でした。子どもの頃は砂糖とミルク、今はミルクだけを入れて、ホットで飲むのが好きです。美味しいコーヒーがお供だと、読書の楽しさも三割くらい増す気がします。

作中にコーヒーが登場する小説もたくさんありますよね。有名なところだと、ドラマ化もされた吉永南央さんの『紅雲町珈琲屋こよみ』シリーズ、「このミステリーがすごい!」大賞にノミネートされた『喫茶店タレーランの事件簿』シリーズなどが挙げられます。そんな中、私のお薦めはこれ。「イヤミス」というジャンルを世に広めた、湊かなえさん『リバース』です。

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「ある閉ざされた雪の山荘で」 東野圭吾

最近すっかりご無沙汰ですが、私はけっこう演劇が好きです。限られた舞台空間の中で、役者たちが物語を紡ぎ出す。それは、映画鑑賞や読書とはまた違った楽しさがあります。

演劇界の悲喜こもごもを扱った小説もたくさんありますね。「舞台という閉ざされた世界」「人間が別人になりきって演技する」などといった状況の特殊さが、作家の創作性をかき立てるのかもしれません。私が今まで読んだ中では、綾辻行人さん「霧越邸殺人事件」、近藤史恵さん「演じられた白い夜」などが印象的でした。その中でも白眉はこれ。数多くの賞を受賞し、国内でもトップクラスの知名度を誇る人気作家、東野圭吾さん「ある閉ざされた雪の山荘で」です。

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「こんにちは刑事ちゃん」 藤崎翔

今までブログに投稿してきた読書レビューを見れば何となく分かるかもしれませんが、私はイヤミスが好きです。読み進めるうちにイヤ~な気分になり、たとえ謎が解けても登場人物たちは幸せにならない。その後味の悪さに、どうしようもなく惹かれてしまいます。

とはいえ、楽しく笑えるユーモア小説も大好きなんですよ。そんな私が、久々に「これはヒット!」と思える作品に出会いました。かつて「セーフティ番頭」というコンビ名でお笑い芸人として活動していた、藤崎翔さん「こんにちは刑事ちゃん」です。

 

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「農ガール、農ライフ」 垣谷美雨

私は正社員・派遣社員の両方で就業経験があり、どちらのメリット・デメリットも経験しました。どちらが良い悪いと言い切れるものではなく、人それぞれの生活スタイルやライフプランに合わせるべきものだと思います。ですが、言い切れることが一つ。それは、当たり前の話ですが、正社員の立場の方が安定しているということです。

これは何も就業形態に限った話ではありません。人間関係にせよ、住居問題にせよ、安定した立場と不安定な対場の二つがあります。あえて不安定ながら自由な立場で暮らしたい願う人もいるのでしょうが、私個人としては、しっかりした足場のある生活を送りたいものですね。先日、人生における足場について考えさせられる小説を読みました。垣谷美雨さん『農ガール、農ライフ』です。

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「三鬼 三島屋変調百物語四之続」 宮部みゆき

子どもの頃からホラー好きだった私が、いつかやりたいと思いつつ未だに実現できていないことがあります。それが「百物語」。参加者たちが合計百話に達するまで怪談を語り合うというお遊びですね。付き合ってくれる怪談好きがなかなか見つからず、いたとしても、合計百話になるまで怪談を語り続けるというのも結構難しいため、実行できる日は通そうです。

言い伝えによると、百話目の怪談を語り終えると、本当に怪奇現象が起こるのだとか・・・真偽のほどはともかく、人が思いを込めて語った話には、何らかの力があるのかもしれません。今日は百物語をテーマにした小説をご紹介します。この方の歴史小説に外れなし、宮部みゆきさん『三鬼 三島屋変調百物語四之続』です。

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「anego」 林真理子

年を重ねたら、周りからどんな呼ばれ方をしたいですか?女性相手に「おばさん」と呼びかけることが失礼だとはよく言われますが、男性だって、軽々しく「おじさん」と呼ばれたくはないですよね。皆から慕われ、年相応の敬意を払われる呼称―――――「姉御」「兄貴」なんて、けっこう嬉しいんじゃないでしょうか。

でも、不思議なもので、そうやって皆に頼られている人が、要領良く幸福になるとは限りません。むしろ、面倒見が良く賢い人だからこそ、貧乏くじを引いてしまうケースも多いはずです。今日はそんな女性をヒロインに据えた一冊、直木賞受賞作家である林真理子さん「anego」をご紹介します。

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「ぼぎわんが、来る」 澤村伊智

「そんな悪い子はお化けにさらわれちゃうよ」。子どもの頃、そういう脅し文句を耳にした人は少なくないでしょう。「お化け」が「鬼」「幽霊」「人さらい」に変わることはあっても、基本的な構造はどれも同じ。どこからともなく現れ、人間を遠くへ連れ去る怪異の存在は、古今東西たくさん語られています。

もしそんな化け物が現実に現れたら・・・自分や家族が狙われるようになったら・・・考えただけで背筋が寒くなりそうですね。というわけで、今日はこの作品をご紹介しましょう。二〇一五年に日本ホラー小説大賞を受賞した澤村伊智さんのデビュー作、「ぼぎわんが、来る」です。

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