最近すっかりご無沙汰ですが、私はけっこう演劇が好きです。限られた舞台空間の中で、役者たちが物語を紡ぎ出す。それは、映画鑑賞や読書とはまた違った楽しさがあります。
演劇界の悲喜こもごもを扱った小説もたくさんありますね。「舞台という閉ざされた世界」「人間が別人になりきって演技する」などといった状況の特殊さが、作家の創作性をかき立てるのかもしれません。私が今まで読んだ中では、綾辻行人さん「霧越邸殺人事件」、近藤史恵さん「演じられた白い夜」などが印象的でした。その中でも白眉はこれ。数多くの賞を受賞し、国内でもトップクラスの知名度を誇る人気作家、東野圭吾さんの「ある閉ざされた雪の山荘で」です。
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今までブログに投稿してきた読書レビューを見れば何となく分かるかもしれませんが、私はイヤミスが好きです。読み進めるうちにイヤ~な気分になり、たとえ謎が解けても登場人物たちは幸せにならない。その後味の悪さに、どうしようもなく惹かれてしまいます。
とはいえ、楽しく笑えるユーモア小説も大好きなんですよ。そんな私が、久々に「これはヒット!」と思える作品に出会いました。かつて「セーフティ番頭」というコンビ名でお笑い芸人として活動していた、藤崎翔さんの「こんにちは刑事ちゃん」です。
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私は正社員・派遣社員の両方で就業経験があり、どちらのメリット・デメリットも経験しました。どちらが良い悪いと言い切れるものではなく、人それぞれの生活スタイルやライフプランに合わせるべきものだと思います。ですが、言い切れることが一つ。それは、当たり前の話ですが、正社員の立場の方が安定しているということです。
これは何も就業形態に限った話ではありません。人間関係にせよ、住居問題にせよ、安定した立場と不安定な対場の二つがあります。あえて不安定ながら自由な立場で暮らしたい願う人もいるのでしょうが、私個人としては、しっかりした足場のある生活を送りたいものですね。先日、人生における足場について考えさせられる小説を読みました。垣谷美雨さんの『農ガール、農ライフ』です。
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子どもの頃からホラー好きだった私が、いつかやりたいと思いつつ未だに実現できていないことがあります。それが「百物語」。参加者たちが合計百話に達するまで怪談を語り合うというお遊びですね。付き合ってくれる怪談好きがなかなか見つからず、いたとしても、合計百話になるまで怪談を語り続けるというのも結構難しいため、実行できる日は通そうです。
言い伝えによると、百話目の怪談を語り終えると、本当に怪奇現象が起こるのだとか・・・真偽のほどはともかく、人が思いを込めて語った話には、何らかの力があるのかもしれません。今日は百物語をテーマにした小説をご紹介します。この方の歴史小説に外れなし、宮部みゆきさんの『三鬼 三島屋変調百物語四之続』です。
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年を重ねたら、周りからどんな呼ばれ方をしたいですか?女性相手に「おばさん」と呼びかけることが失礼だとはよく言われますが、男性だって、軽々しく「おじさん」と呼ばれたくはないですよね。皆から慕われ、年相応の敬意を払われる呼称―――――「姉御」「兄貴」なんて、けっこう嬉しいんじゃないでしょうか。
でも、不思議なもので、そうやって皆に頼られている人が、要領良く幸福になるとは限りません。むしろ、面倒見が良く賢い人だからこそ、貧乏くじを引いてしまうケースも多いはずです。今日はそんな女性をヒロインに据えた一冊、直木賞受賞作家である林真理子さんの「anego」をご紹介します。
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「そんな悪い子はお化けにさらわれちゃうよ」。子どもの頃、そういう脅し文句を耳にした人は少なくないでしょう。「お化け」が「鬼」「幽霊」「人さらい」に変わることはあっても、基本的な構造はどれも同じ。どこからともなく現れ、人間を遠くへ連れ去る怪異の存在は、古今東西たくさん語られています。
もしそんな化け物が現実に現れたら・・・自分や家族が狙われるようになったら・・・考えただけで背筋が寒くなりそうですね。というわけで、今日はこの作品をご紹介しましょう。二〇一五年に日本ホラー小説大賞を受賞した澤村伊智さんのデビュー作、「ぼぎわんが、来る」です。
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暖冬だ暖冬だと言われ続けてきましたが、ここ数日で一気に寒くなりました。この辺りはさすがに積もりこそしないものの、一日に何度か雪がちらつき、風の冷たさも痛いほど。寒いのが苦手な私は、すっかりコタツに根を生やしてしまっています。
こういう寒い日、欧米では家族や友人と怪談話に興じるんだとか。日本では「ホラー=夏」というイメージがありますが、ただでさえ昼が短い冬の間、怖い話で夜を楽しく過ごすというのもオツなのかもしれませんね。先日、背筋の寒さに拍車をかけるようなホラー小説を読んだのでご紹介します。櫛木理宇さんの連作短編集、「209号室には知らない子供がいる」です。
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戦争について考えたことのない人は、恐らくいないと思います。かくいう私自身、それこそ小学生の頃から平和学習を受けてきましたし、戦争を取り扱った映画やドラマ、小説も手に取りました。今この瞬間でさえ、戦火が上がり、人々が犠牲になっている戦場は山のようにあります。
大多数の現代日本人にとって、戦争とは非日常そのものの世界でしょう。ですが、たとえ戦地だろうとなんだろうと、人間が生きている以上、そこには毎日の生活があります。今日ご紹介するのは、そんな戦場での「日常」を描いた作品です。「このミステリーがすごい!」で二位にランクインした、深緑野分さんの「戦場のコックたち」です。
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噂話は好きですか?たとえ嫌いな方でも、人生で一度や二度、何らかの噂話を耳にしたことがあると思います。昔からある有名どころでいえば、口裂け女や人面犬、赤マントなどでしょうか。
本来なら、ただのお喋りの一環であるはずの噂話。では、もしそれが真実となったらどうなるのでしょう。そんな噂の恐怖を扱った作品といえばこれ、直木賞作家である荻原浩さんの「噂」です。
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ストーカー。この言葉が日本で一般化したのは、二〇〇〇年前後からだと言われています。特定の相手を狙い、執拗につけ回し、心身に危害を加える。想像しただけで、身の毛がよだつような犯罪行為です。
ストーカーをテーマにした小説はたくさんありますが、国内のものでは、山本文緒さんの「恋愛中毒」、五十嵐貴久さんの「リカ」などが有名ですね。ですが、それより遥か以前、まだ「ストーカー」という言葉が定着していなかった頃に、ストーキングを題材にした作品が書かれていることをご存知でしょうか。得体の知れない相手につけ狙われる恐怖を味わえること間違いなし。直木賞受賞作家である、小池真理子さんの「間違われた女」です。
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