怪談にぴったりの季節はいつ?と聞かれた場合、日本なら夏、イギリスなら冬を挙げる人が多いそうです。前者はお盆が、後者は暖炉の周りに集まって怖い話を楽しむ文化があるせいなんだとか。こういう些細なことにもお国柄があるって、なんだか面白いですね。
これがアメリカになると、秋をホラーの季節として扱うことがしばしばだと聞きました。これは恐らく、ハロウィン文化の影響でしょう。夜の時間が長くなってきた季節、死者の魂の訪れを感じながらホラー作品を味わう・・・想像しただけでワクワクしてきます。今回は、そんな秋にぴったりのホラー小説をご紹介したいと思います。澤村伊智さんの『靴と自転車』です。
こんな人におすすめ
後味の悪いホラー短編集が読みたい人
小学校に伝わる怪談話の恐ろしい顛末、イタズラ心が招いた罪と罰、都市伝説が巻き起こす奇妙な結末、一枚の写真から浮かび上がる戦慄の運命、廃墟に踏み入った者たちを待つ恐怖の連鎖、幸せな一家が迎えた残酷な末路、一人の男が語る転落の記憶、長年に渡って町に巣食う怪異の正体・・・・・恐怖が、不安が、一息ごとに這い寄ってくる。身の毛もよだつホラー小説短編集
じと~っとした怪談を書かせたら、相変わらず天下一品の澤村伊智さん。本作はノンシリーズ短編集ですが、どれもこれも長編と比べてもそん色ないほど怖さの濃度が高いです。アンソロジー収録作品が多いので、初読みにこだわる方は、事前にチェックしておくことをおすすめします。
「みてるよ」・・・ある時、小学生の主人公は、見知らぬ少年が廊下から教室内を覗き込んでいる場面を目撃する。不審に思っていたところ、覗き込まれた教室で女生徒が倒れ、そのまま正気を失うという事件が発生。その後、くだんの少年は校内に何度も出没して室内を覗き込み、覗き込まれた先では必ず異変が起こる。少年はドアから頭を突っ込み、室内を覗き込む姿勢を取っているため、誰にも顔が分からない。とある教師は、どうやらこの少年の正体に心当たりがあるようで・・・・・
ホラー作品にはしばしば『主人公が絡む前、容赦なく怪異の犠牲となるモブ』が登場します。澤村伊智さんの小説の場合、こうしたモブ的ポジションのキャラクターが主役を務めることが多いので、読んでいて精神をザクザク削られるんですよ。この話も例外ではなく、不運にも怪異と出くわし、恐らくとんでもない目に遭うであろう少年が哀れ・・・教師が語る怪異の正体が真実なのか否か、最後まで分からないところも不気味でイイ感じです。
「靴と自転車」・・・中学校に進学した主人公は、そこで三田という少年と仲良くなる。三田やその家族には、なぜか子ども用の靴を自転車スタンドの傍らに置くという習慣があった。移動中は前かごに靴を入れ、外出先まで持ち歩くのだ。三田曰く、この靴は死んだ弟のものだそうで・・・・・
『怪異に課されたルールを破った者は報いを受ける』という展開は、ホラー作品のお約束。この話の場合、そこで終わらず、さらにもう一歩進むところが印象的でした。こういうジュブナイルホラー必須『怪異に詳しそうな年長者』も出てくるものの、根本的な対処は何一つしてくれない辺り、いかにも澤村ワールドらしい残酷さです。亡き弟を子どもなりに受け入れていた三田君が気の毒だよ・・・
「すなばおじさんと、としょかんおじさん」・・・かつて神童と謳われながら、成人後はすっかり凋落してしまった智紀。唯一の楽しみは、図書館をぶらつき、蔵書の内容にケチをつけることくらいだ。そんなある日、智紀は、偶然居合わせた少年に本の内容について聞かれ、気まぐれで教えてやる。これを機に自身に懐き、本についてあれこれ質問してくる少年とのひと時に安らぎを感じる智紀。と、そこで少年は智紀に対し、「町に現れるという<すなばおじさん>の噂は本当か」と尋ねてきて・・・
落ちぶれた智紀が、少年と交流を重ねるにつれて、かつての聡明さを取り戻していく様子は実に爽やか。まあ、澤村ホラーなんだからものすごい転落があるんだろうなと思っていましたが・・・ああ、やっぱりね(汗)智紀が立てた『すなばおじさん』成立の仮設は説得力があり、都市伝説好きとしては読んでいて楽しかったです。何かが少し違えば、この賢さを前向きに活かせただろうになぁ。
「行かなかった遊園地と非心霊写真」・・・怪談話を集める語り手は、飲食店で知り合ったサラリーマン・山田から奇妙な話を聞く。彼は子どもの頃、島崎という同級生に懐かれていた。この島崎、鈍感で空気が読めないため、クラスでは浮き気味。山田が親しい同級生数名と遊園地に行く計画を立てた時も、誘われてもいないのに一緒に行く気満々だ。島崎が来たら、絶対に白ける。山田を含む同級生たちは、こっそり行先をボウリング場に変更、島崎を待ちぼうけさせてやることにするのだが・・・・・
子ども特有の恐ろしさが胸に迫ってくる話でした。異分子を排除しようとする子どもたちはすごく残酷。と、ここで島崎をただの被害者にせず、『怪異と化す前も後も人の都合をまるで考えない不気味さ』を描写するところ、本当に澤村伊智さんですね。山田の「僕と島崎は一派だと思われている。ここで島崎をハブにしておかないと、自分まで巻き添えになる」という焦り、子ども時代を過ごした身としては、分からなくもないなと思ってしまいました。
「赤い霧」・・・様々な事情により廃れ、今や廃墟と化しているニュータウン。そこを、オカルト系サイトを運営する三人組が訪れた。このニュータウンには神隠しの噂があるため、取材しに来たのだ。分かれて探索する彼らの前に現れる、あるはずのない電話の音や、いないはずの人影、謎の赤い霧。やがて三人の内、一人が姿を消し・・・・・
無人のニュータウンを探索し、不気味な怪現象と対峙する三人組の様子は、さながらホラーゲームのよう。実際、訪れる人間の不安や罪悪感に合わせて怪異が変化する様子は、有名なホラーゲーム『サイレントヒル』を彷彿とさせます。ただ、徐々に明らかになってくる三人組の背景が薄暗いせいで、あまり救われなさは感じませんでした。まあ、強いて言うなら、主人公格の園部が一番マシなのかもしれませんが・・・ラストの描写を見るに、見逃してはもらえなかったようですね。
「頂戴」・・・理想的な土地を見つけ、家を建て、子どもも生まれ、満ち足りた暮らしを送る三人家族。幸せなはずの暮らしに、ナニカが忍び込んでくる。唐突に倒れる鉢植え、訪ねてきた友人の奇行、正体不明の人影。徐々に追い詰められている妻が、ついに目にした戦慄の光景とは・・・・・
澤村伊智さんのホラー(特にノンシリーズ短編)には、怪異の正体も成り立ちも因果も不明のまま、関わってしまった人間が訳も分からず恐怖のどん底に突き落とされるという展開が少なくないです。この話は、まさにそれ。『比嘉姉妹シリーズ』のように強力な霊能者が出てくるわけでもなく、あれよあれよという間に異常な事態に巻き込まれていく一家が哀れでした。ラストの後、この家族が味わう地獄を思うと鳥肌が立ちそうです。
「さぶら池」・・・とある飲食店店主が語る、あまりに奇妙な体験談。両親の後を継いだ店主は、家族や常連客の支えもあり、順調に店を切り盛りしていた。そんなある日、体から長い物を垂らしたナニカが、店の郵便受けを覗き込むという変事が起こる。そこから続く、異様な事態の数々。それは次第に家族にまで及び・・・・・
語り手である店主が口にする店舗運営や家族関係のあれこれは、まるでドラマか何かのように順調そのもの。澤村伊智さんだし、絶対に裏があるんだろうなと思っていましたが・・・想像以上でした。単純に「人間が一番怖いですよ。おしまい」ではなく、怪異の恐怖もしっかり描いてくれるところが嬉しいですね。家族にとっては、むしろ今の方が幸せなのでは?と思えるところが一番恐ろしいです。
「墓」・・・とあるマンションの複数の世帯で、住人がふと気づくとベランダの鉢植えやプランターの土が盛り上がり、小さく平たい棒が突き刺さっているという事件が発生。まるで墓のようだが、住人にそんな物を作った覚えはない。気になった住人たちが調べた末、同じ町にある『なぜか他人の墓を敷地内に建てている家』との関係が浮上して・・・
これまた澤村伊智さんの十八番『まったく意味不明の怪奇現象』系ホラー。この話の場合、どうやら土着的な因縁があるらしいと仄めかされています。できればこの設定は『比嘉姉妹シリーズ』で、がっつり謎解きまで行ってほしかった気もします。知らない間に自分の家に墓ができて、片付けると謎の体調不良(異様な臭気が消えない、嘔吐が止まらない、短期間でげっそり痩せるetc)に見舞われるって相当辛いんですが・・・
本作は序盤に<はじめに>という章があり、澤村伊智さんご本人が各話の執筆経緯を語ってくれています。これがものすごく怖くて面白い!!特に「さぶら池」の解説にはゾッとしたのですが、これって本当・・・?図書館派の人は、未読のまま返却しないよう、くれぐれもご注意ください。
怪異がすぐ傍に潜んでいそう度★★★★★
最初の二話は児童向け・・・トラウマが心配です度★★★★★







