はいくる

「放課後の音符(キイノート)」 山田詠美

「学生時代の内、一番楽しかったのはいつ?」と聞かれたら、私は「高校時代」と答えます。中学時代はぎすぎすしていて大変なことの方が多かったし、大学時代は格段に自由が増えた分、密度は薄まったかな、というのが正直な感想。その点、高校時代はそれなりに濃密ではあったけど、中学校ほど息苦しくなく、振り返ってみると楽しい思い出の方が多いです。

中学生ほど子どもではないけれど、まだ大人には程遠い。高校時代を扱った小説は、そんな不安定さをテーマにしたものが多いです。ジャンルも幅広く、部活動を題材にしたものなら平田オリザさんの『幕が上がる』や誉田哲也さんの『武士道シックスティーン』、ミステリーなら今邑彩さんの『そして誰もいなくなる』や辻村深月さんの『名前探しの放課後』、ホラー寄りなら秋吉理香子さんの『暗黒女子』や恩田陸さんの『六番目の小夜子』などなど、映像化された作品も少なくありません。当ブログではミステリーやサスペンス系の作品を取り上げることが多いので、今回は少し趣向を変え、恋愛小説をご紹介したいと思います。山田詠美さん『放課後の音符(キイノート)』です。

 

こんな人におすすめ

女子高生の恋愛模様を読みたい人

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物静かな外見とは裏腹に大人びた恋愛経験を持つカナ、片思いの男の子に一途な視線を送り続けるリエ、辛い経験を乗り越えて強くなった雅美、耳の聞こえない少年とひと夏の恋をしたマリ、彼氏を年上の女に奪われたと悲しむカズミ、派手なの立ち居振る舞いせいで周囲の顰蹙を買うヒミコ、音楽教師と密やかに愛を育むカヨコ先輩・・・・・時に甘く、時に苦い。揺れ動く少女たちの恋愛小説集

 

山田詠美さんの小説を読んだのはこれが最初でした。それまで読んだことこそなかったものの、『蝶々の纏足』や『風葬の教室』のあらすじから、山田さんと言えば、少女たちの生々しく痛々しい感情を描く作家さんだと思っていました。ところが本作は予想に反し、切なくも甘い恋愛小説です。それなりに苦い思い、苦しい思いも出てきますが、表現がとても甘く綺麗なので、終始どきどきしっぱなしでした。

 

「Body Cocktail」・・・・・<私>のクラスメイトのカナは、お淑やかで物静かな女の子。だが、そんな見た目に反し、当たり前のように男と関係を持っている。ある日、カナは<私>に、恋人の子を妊娠したから学校をやめると打ち明けた。

身も蓋もない言い方をすると<将来のことを考えているんだかいないんだかよく分からない女子高生がデキちゃったから退学を決める話>なのですが、そういう浅さを感じさせないのは、山田さんの筆力ゆえでしょう。短いエピソードから、カナのとにかく一途で真摯な気持ちが伝わってきますし、前述した通り描写がめちゃめちゃ綺麗!<シーツの上でさらさら揺れる金のアンクレット>なんて、想像するだけでうっとりです。

 

「SweetBasil」・・・リエは、どうやら<私>の幼馴染である純一のことが好きらしい。<私>と純一は恋人でも何でもないが、二人がくっつくのは嫌だ。ついリエに素っ気なく接する<私>だが、ある時、純一はリエから向けられる視線に気づいてしまい・・・

これと、最終話の「Keynote」は、語り手の女子高生<私>が主人公です。<私>と純一が恋人同士なら単純な(?)三角関係となるのですが、ただの幼馴染というところがミソ。ずっと前から彼のことを知っているという優越感、でも恋人じゃないから恋愛に口出しはできないという焦り、リエに冷たく接する自分が嫌になる気持ちなどが巧みに表現されていました。

 

「Brush Up」・・・<私>のもとを、中学時代の友人で、今はアメリカンスクールに通う雅美が訪れる。帰国子女の雅美は、しばらく見ない内に華やかになり、<私>はびっくり仰天。おまけにその恋愛経験もかなり刺激的なもので・・・・・

雅美の大胆な恋模様が主題なんでしょうが、私は中学時代に雅美が経験したいじめの話の方が印象的でした。日本語が下手だといじめられ、泣きながら日本語を勉強してバイリンガルになるや否や「かっこいい」ともてはやされた雅美。そんな彼女が、卒業する時、同級生達を汚い英語で罵倒する場面はすっきり爽快です。どうでもいいんですが、他の話の少女達の名前が片仮名なのに、雅美だけ漢字なのは何か意味があるのかな?

 

「Crystal Silence」・・・・・クラスの中でも飛び抜けて大人っぽい少女・マリ。夏休み明け、マリと会った<私>は、彼女が夏の間に経験した恋の話を聞かされる。それは、沖縄に住む、耳の不自由な少年との恋物語だった。

映像化したら一番映えるエピソードではないでしょうか。夏の日差しが降り注ぐ沖縄と、島で暮らす耳と口の不自由な少年、そんな彼とひと夏の恋をする大人びた少女。少年の障碍のため、気楽にお喋りを交わすことができない二人の恋模様がきらきらと眩しいです。本作はどのエピソードにもキーとなる小道具が登場するのですが、中もこの話に出てくるジントニックの使い方が一番好きでした。

 

「Red Zone」・・・同じクラスの彼氏を他の女に奪われたと嘆くカズミ。相手の女はなんと二十八歳だという。なんでそんな年上の女なんかに。どうしても納得できないカズミは、ある時、相手の女を目にする機会を得てしまい・・・・・

失恋したカズミが嘆き悲しむのは当然なんですが、個人的には、プライベートであるはずの恋愛沙汰で女生徒たちから糾弾される彼氏がちょっと可哀想に思えたり・・・でも、相手の女性が予想とは全然違うタイプなことに驚き、その良さを認めた上で「自分もいい女になる」と決意するカズミは素敵ですね。現実はこんなに美しくはいかないんでしょうが、恋愛小説ならこれでOKです。

 

「Jay-Walk」・・・クラスのルールは守らず、他人の彼氏にも平気でちょっかいをかけるヒミコ。当然のように女子から蛇蝎の如く嫌われているが、<私>はひょんなことからヒミコと出かける羽目になる。そこでヒミコの意外な一面を見ることになり・・・

収録作品中で唯一、恋愛が絡まない話です。気が強く、迫力があり、嫌われようと我が道を進むヒミコの姿勢はなかなか天晴。そんな彼女が、年上の女性から諭されて拗ねるところは可愛いですね。あと、<群れない女子は嫌われる><三角関係の当事者ではなく、周囲の女友達の方が「あいつ、許せない」と騒ぐ><でも相手は黙っていじめられるようなタマじゃないから陰口止まり>など、いかにも女生徒っぽいノリに苦笑してしまいました。

 

「Salt and Pepa」・・・放課後の音楽室で、音楽教師の松山と三年生のカヨコ先輩が抱き合うところを見た<私>。その後、カヨコ先輩と親しくなった<私>は、二人の恋について教えてもらう。羨ましいと素直に口にする<私>だが・・・・・

今までのエピソードは、早熟ながら<私>と同い年の少女達が主役でしたが、この話のカヨコ先輩は一歳上で、相手はなんと教師。学生時代は、たった一つの年の差がすごく大きく見えるもの。二人の大人の恋愛に憧れ、うっとりする<私>の描写が初々しくて可愛いです。そんな<私>に対するカヨコ先輩の言葉も含蓄がありました。確かに、人と人との付き合いで、甘いだけということはあり得ませんからね。

 

「Keynote」・・・三年生に進級し、再び同じクラスになった<私>と純一。純一は結局リエとうまくいかなかったらしい。<私>との関係は、またただの幼馴染に戻るかと思われたが、純一は違う思いがあるようで・・・・・

最終話にして、再び<私>が主人公となります。これまで様々な少女たちと接し、その話を聞いて、少し成長した<私>の姿が瑞々しいったら。それでなくても思春期は女の子の方が早く大人びるものですし、純一が<私>に惹かれる気持ちも分かります。ただ、ちょっと引っかかるのは<私>の父親の描写。他人が相手なら<理解ある大人な男性>になるんでしょうが、自分の娘にこの台詞言う父親っているのかな・・・?

 

初版が一九八九年ということもあり、言葉遣いなどはけっこう堅苦しいと感じる箇所もありますが、ティーンエイジャーのアンバランスさや輝かしさはたっぷり堪能できました。そういえば、高校時代、すごく大人っぽかったあの子はどうしているのかな。連絡してみたいな。読了後、そんな気分にさせられる作品だと思います。

 

誰かを恋しく思う気持ちは尊いもの度★★★★★

アイテムの使い方が素晴らしい!度★★★★☆

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コメント

  1. しんくん より:

    学生時代~中学と大学時代が充実していましたが、一番楽しいと感じたのは高校生の頃でした。
    女子高生をテーマにした作品はイヤミス、スクールカーストなど取り上げられるストーリーが多く読みましたが、恋愛模様の短編集も良いですね。
    高校時代、予備校時代と理系だったこともありあまり女の子と話すこと少なかったので余計にストーリーに入り込んでしまいそうです。

    1. ライオンまる より:

      最近、ティーンエイジャーを主役にしたミステリーやサスペンスばかり読んでいたので、恋愛小説がすごく新鮮に感じられました。
      100%女性目線の話ですから、男性読者にどう受け取られるか、気になるところですね。

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