堂々と言うようなことではありませんが、私は料理が苦手です。食べることは大好きなんですが、自分で作るとなると無頓着かつ大雑把。料理本やインターネットで調べた簡単なメニューを機械的に作ることがほとんどで、皿に移せばいいだけの惣菜をスーパーマーケットで買ってくることもしばしばです。
料理上手になるための努力方法は人それぞれですが、中には料理教室に通ってスキルアップを計る人もいるでしょう。もしこんな料理教室が現実にあれば、私のような根っからのズボラ人間でも、料理の楽しさに目覚められるのではないでしょうか。大人向けの小説だけでなく、ジュニア小説の名手としても名高い藤野恵美さんの『初恋料理教室』です。
遅い初恋に身を焦がす若手建築家、夢のカフェ作りに向けて奮闘するフランス人パティシエ、過食症の姉と二人暮らしを送る大学生、妻から料理教室の受講を言い渡された熟練の職人・・・・・はんなりした老婦人・愛子先生が京都の長屋で開催する料理教室。そこに集う人々の人間模様を描いた、心が満腹になるハートフルストーリー。
読んで良かった!読了後、心からそう思えました。何が良いって、作中の出来事一つ一つ、登場人物一人一人を見つめる作者の優しい目線が最高に良い!京都という情緒溢れる町の情景も、物語のふんわりした世界観にぴったりです。この優しい雰囲気と平易な文章のおかげで、登場人物たちの悩みやトラブルも「必ず好転するはず」と信じて読むことができました。
料理教室に集う四人は、それぞれ悩みを抱えています。若き建築家は司書の女性へのままならない恋心を持て余し、フランス人パティシエは念願のカフェ開店を目前にして思わぬトラブルに悪戦苦闘中。性別不明の大学生は過食症の姉と暮らしながら身勝手な実母との関係に行き詰り、頑固な職人は唐突に料理教室受講を勧めた妻を怪しんでいる・・・彼らが料理教室での経験を通じて食べること・前向きに生きることの大切さを実感し、少しずつ前進していく様子に、読んでいるこちらまで励まされているような気になりました。
彼らの背中を押し、勇気づけてくれる料理の数々が、これまた全部美味しそうなんですよ。生麩を入れた大根と鶏肉の煮物、梅酒や甘酒を使ったデザートの数々、銀杏と小豆を入れた萩ご飯に胡麻豆腐、甘鯛のかぶら蒸しetcetc。巻末にレシピが掲載されている点も親切ですね。余談ですが、西日本で生まれ育った私は、煮物を「炊いたん」と表現している所が、なんとなく嬉しかったです。
恋、仕事、家族関係に夫婦仲、どれもこれも一日やそこらでどうこうなる問題ではありません。短編集ということもあり、どの話も希望と幸せを予感させたまま終わります。とても素敵な締めくくり方なのですが、やっぱり今後の展開が気になる!ここはぜひ、藤野恵美さんに続編を書いてもらい、愛すべき登場人物たちのその後を見せてほしいものです。
料理をしてみたくなるよ度★★★★☆
食事制限中には読まないで度★★★★☆
こんな人におすすめ
・食に関する小説が読みたい人
・心温まる連作短編集が好きな人
「ときどき旅の出るカフェ」のように料理で解決する面白そうなストーリーですね。
料理をテーマにしたミステリーはいろいろありましたがこれも読んでみたいです。
漫画「美味しんぼ」は今でも読んでいるので、その小説版のようで楽しみです。
前向きになるような希望を見出す展開も興味深いです。
心温まるコージ―ミステリ―でした。
食をテーマにした話はたくさんあるけれど、「料理教室」というのはあまり読んだことがなかったので新鮮でしたよ。
ちなみに私も「美味しんぼ」好きです(^^)