はいくる

「カーテンコール!」 加納朋子

昔、偶然ですが、某有名劇団の通算1000回公演に行ったことがあります。本編終了後、再び幕が上がってキャストが観客席に飛び降りてきたり、主演俳優が謝辞を述べたり・・・まったく予想していなかった分、すごく嬉しかったです。これほどの記念公演でなくとも、劇本編とは別に出演者や演出家が出てきてくれたりすると、何となく楽しくなっちゃいますね。

幕が下りただけで終わるのではなく、その後にさらなる喜びや感動をもたらしてくれるもの、それがカーテンコールです。人生にもカーテンコールがあると思えば、何かとままならない世の中も少しは生きやすくなるのではないでしょうか。そんな人生のカーテンコールを扱った作品がこれ、加納朋子さん『カーテンコール!』です。

スポンサーリンク

経営難により長い歴史に幕を下ろすことになった私立萌木女学園。学校側は学生たちを全員卒業させようと様々なフォロー体制を取るが、努力も空しく数名の学生が卒業できなくなってしまう。そんな彼女達に学園が出した条件、それは半年間、泊まり込みでの特別補講を受ければ卒業を認めるというものだった。外出もスマホもインターネットも全面禁止の寮生活の中、次第に各自が抱える悩みが浮き彫りになっていき・・・・・生きている限り、何度だって幕は上がる。迷える女の子達の様々な<カーテンコール>を描いた温かな連作短編集。

 

一話ごとに変わる語り手の文章がどれも読みやすく個性豊か。ですが、その読みやすさの中に、それぞれの抱える生き辛さ、彼女たちが落ちこぼれてしまった事情が丁寧に織り込まれています。各話のボリュームもちょうど良いので、中だるみすることなく一気読みしてしまいました。

 

「砂糖壺は空っぽ」・・・なよなよした体型や可愛らしい顔にコンプレックスを持つ<僕>。暗い毎日の中、塾で<ミエちゃん>という少女と知り合い、やがて恋心を抱くようになる。ミエちゃんは義足だが、幻肢痛という症状を抱えていて・・・・・

これは『惑―まどう―』というアンソロジーで読んでいましたが、本作に入るとまた違った味わいがありました。幼い頃から苦しんできた主人公と、終盤の理事長とのやり取り、そしてミエちゃんの運命に涙・・・あと、本作に登場する親は何かと問題のあるタイプが多いのですが、この主人公の親は我が子の悩みに真摯に向き合っていて好感が持てました。

 

「萌木の山の眠り姫」・・・どうしても朝起きることができず、遅刻ばかりで単位取得に失敗した朝子。特別補講のためやって来た寮で、夕美という女の子と同室になる。夕美は朝子にも勝る居眠り魔で・・・・・

朝子や夕美が何らかの睡眠障害を抱えていることは、割と早い段階で予想できます。が、大事なのはその理由。朝子が経験した過去の出来事を思うと、そりゃ相当なショックだよなと納得です。大人が子どもに八つ当たりしちゃダメでしょう。朝子と夕美が、登場人物中、一番しっかり友情を育んでいけそうで良かったです。

 

「永遠のピエタ」・・・真美はネット上での二次創作活動に熱中しすぎて講義をサボりまくり、特別補講への参加が決まる。合宿中はろくに執筆もできず、愛飲する栄養ドリンクも禁止。ストレスを溜めた真美は頭痛や吐き気を感じるようになり・・・・・

何かと変人扱いされがちなオタクキャラですが、私は真美のようなガッツは好きです。私自身オタク気質だからか、彼ら彼女らのパワフルさに元気をもらえるんですよね。ですが、体調を崩すレベルとなると話は別。そんな真美に向ける、理事長の「どうしてあなたの物語で、あなたは主人公じゃないんですか?」という言葉が印象的でした。

 

「鏡のジェミニ」・・・体力的に通学が辛く、卒業できなくなった千帆。寮で同室となった茉莉子は骨と皮ばかりの痩せた女の子だ。千帆は理事長の許可を得た上で、茉莉子を少しでも健康にしようとあれこれ試みるのだが・・・・・

これはタイトルからして伏線だったんですね。前半は千帆目線で進む話が、後半で茉莉子目線になるや否やくるりと反転する様に驚きました。それぞれが持つ過去のトラウマ、家庭の事情も複雑で、想像すると苦しくなるほどです。特に怖いのは千帆の母親。いや、そんな、まさか実の娘相手に・・・・・

 

「プリマドンナの休日」・・・国内外での様々な活動に明け暮れる内、必要な単位を取り損ねた夏鈴。同室の菜々子が頭脳明晰で明朗快活、卒業に失敗するとは思えないタイプだということに疑問を持つ。そんな菜々子は、定期的に謎の外出をしているようで・・・

何かと悩みを持つ登場人物が多い中、この話の語り手・夏鈴はフーテン気質ではあるもののそれほど問題のある子ではありません。中心となるのはむしろ同室の菜々子。彼女の秘密が分かり、納得すると同時に背筋がゾッとしてしまいました。その後何のフォローもないけど・・・こ、これってこの先大丈夫なの・・・?

 

「ワンダフル・フラワーズ」・・・独善的な父の下で縮こまって生きる内、自傷を繰り返すようになり、まともに大学にも行けない玲奈。特別補講が始まってしばらく経った頃、玲奈は理事長が学生たちを見ながら涙を流していることに気付き・・・

抑圧されて生きる玲奈の境遇がとにかく辛い。そんな彼女に語られる理事長の過去がまた辛く、読んでいて胸が痛くなりました。と同時に、なぜ彼がこれほどまで「全員卒業させること」にこだわったかも納得。美しい表紙のイラストにも、ちゃんと意味があったんですね。今後、ひまわりを見るたびに思い出しそうです。

 

睡眠障害に摂食障害、リストカット等、胸を抉るような問題が次々出てきますが、優しく温かな描き方のせいか、ちゃんと救いが感じられます(一部、不安も残りますが・・・)。大病を経験された加納さんだからこそ、人の弱い部分を包み込める描写力を発揮できるのかもしれませんね。願わくば、全国すべての学校に置いてほしいと思うほど素敵な本でした。

 

逃げることは罪ではない度★★★★★

こんな学校に行きたかった!度★★★★★

 

こんな人におすすめ

元気をもらえる連作短編集が読みたい人

スポンサーリンク

コメント

  1. しんくん より:

    加納朋子さんにしては辛辣な内容かと思いましたが、優しいストーリーで読後感も良さそうです。少女たちの複雑で幼い心理の描写、大人になる又は社会に出ることの不安~辻村深月さんの作品に近い気がします。
    人生のカーテンコールに直面した少女たちのその後~楽しみです。

    1. ライオンまる より:

      途中でシビアな問題も色々出てきますが、最後には希望があります。
      ただ、少女たちが抱える悩みは重苦しいものが多く、読んでいて辛いと思うことさえありました。
      記事にも書きましたが、こういう悩み苦しみを真摯に書けるのは、加納さん自身が大病を経験されたからかもしれませんね。

コメントを残す

*

CAPTCHA