ホラー作品には<不幸の〇〇>なるアイテムがしばしば登場します。不幸の鏡、不幸の本、不幸のアクセサリー・・・そのアイテムを所持したというだけで不幸に見舞われる理不尽さが、作品の恐怖感を倍増させてくれます。
これとは反対に<幸福の〇〇>が登場する機会も一定数あります。ホラーの場合、これが本当に幸せを呼ぶケースは稀。大抵は落とし穴や禁忌事項があり、持ち主ないし持ち主の大事な相手がひどい目に遭うというのがお約束です。では、この作品はどうでしょうか。今回は、藤崎翔さんの『イライザは救いたい』を取り上げたいと思います。
こんな人におすすめ
ホラーコメディが好きな人
昭和のアニメに登場する魔法少女・イライザを模したキャラクター人形。魂を得たイライザの目的はただ一つ、持ち主を幸せにすることだ。マジカルパワーを使い、人々の幸せのため尽力するイライザだが、その道はなかなか前途多難のようで・・・有り余る金の使い道に困るサラリーマン、推し活のせいで過労死寸前のSE、音楽活動の行き詰まりからすれ違うカップル、不倫疑惑が生じた中年夫婦、ハラスメントに負けず修行に励む女性板前。こんなに頑張っているのに、なんでみんな不幸になっちゃうの!?めげずに頑張るイライザが人々を幸福にできる日は来るのだろうか。笑いと伏線回収の嵐があなたを待つ、抱腹絶倒のホラーコメディ
藤崎翔さんの人気コメディ『お梅は呪いたいシリーズ』のスピンオフです。主人公を務めるのは、『お梅は魔法少女ごと呪いたい』に登場した<幸運の人形>ことイライザ。お梅とは真逆の、持ち主を幸せにしようとして次々失敗する姿が最高におかしかったです。
「独身貴族を救いたい」・・・会社員の俊則に拾われたイライザ。俊則は高級タワマンに住み、派手に女遊びを繰り返しながら、ちっとも幸せそうではない。どんなに豪遊しても、俊則は虚しそうなのだ。お金持ちならば、いっそのこと、お金で人を助ける喜びを味わわせるのはどうだろう。イライザのパワーに当てられた俊則は、寄付やボランティア活動にのめり込み始めて・・・
俊則の羽振りの良さの秘密が分かった時は、横転しそうになりました。豪遊して虚しいって、そういうことだったんかい!ボランティアで小学生への学習指導をしている間は、あんなに生き生きしていたのにな・・・イライザが自分でも思っている通り、これはそもそも俊則に原因があったわけだから、この結末は「イライザが不幸にした」とは言い切れないと思います。
「疲労回復で救いたい」・・・次にイライザの持ち主となったのは、システムエンジニアの麻弥だ。麻弥は男性アイドルの推し活をしており、その資金を捻出するため、仕事を複数掛け持ちして働き詰め。これでは麻弥は過労死してしまう。おまけに麻弥が推すアイドルグループ自体、どうも営業方法がアコギであり、推していても麻弥が幸せになれるとは思えない。そこでイライザは、麻弥に推しの真実を教えてあげようとするのだが・・・・・
麻弥が推す男性アイドルの曲名、本筋を吹っ飛ばすほどインパクトありました。『臓器三部作』って(笑)でも実際、推し活にのめり込みすぎて生活破綻するケースは現実にもあるので、決して笑いごとではないんですよね。麻弥のやつれっぷりがあまりに痛々しく、どうなるか不安だったので、この結末はむしろ良かったような気がします。あと、ドラマ『相棒』を見たイライザが、「水谷豊、立派になったわ」と述懐する場面にフフ・・・となってしまいました。そういえば水谷豊さんって子役出身ですものね。
「若いアベックを救いたい」・・・ミュージシャンを目指して路上ライブを続ける啓悟と、その恋人の若葉。イライザを拾った途端、啓悟のライブには人が詰めかけるようになるが、それはあくまで<マジカルパワーを発するイライザ>を見に集まっているだけであって、肝心の啓悟の音楽には誰も注目していない。若葉は内心、啓悟にはもうミュージシャンになる夢を諦めてほしいと思っていて・・・・・
啓悟のことを<駅前広場にいても人が集まることなんてないから駅前交番のおまわりさんにも放置されてきた、もはやハトとかと同じ扱いの最底辺路上ミュージシャン>と評する若葉に噴いてしまいました。いくらなんでも辛辣すぎ・・・と思いきや、最後まで読むと、若葉にはそう評する資格がある気がしてきます。収録作品中、この二人が一番幸せになったと言えるのではないでしょうか。でも、ぬか床と一緒に捨てられかけるイライザはちょっと気の毒です。
「中年夫婦を救いたい」・・・イライザは、漫画家の妻・京子と会社員の夫・誠次の家で暮らすことになった。誠次の目下の懸念事項は、京子が担当編集者と浮気しているのではないかということ。イライザが探ったところ、京子は確かに夫以外の男性に恋心を抱いているらしい。不貞行為などしたら、この夫婦はきっと破綻してしまう。おまけに、煮詰まった誠次は盗聴器を使って京子を監視する始末。このままでは誠次は凶行に走ってしまうのではないかと危惧するイライザだが・・・・・
おー、そういうことか。終盤のひっくり返り方、すごく好みです。よく読み返してみたら、しっかり伏線が仕込んでありました。こういう<配偶者の不倫を疑う>パターンの場合、疑う妻目線で話が進むことが多い気がするので、逆というのがなかなか面白かったです。あと、超小型ボイスレコーダー<ジゴクミニ>、ネーミングセンスが素敵です。
「板前ガールを救いたい」・・・五度目の正直とばかりにイライザが狙いを定めたのは、板前修業中の莉音だ。勤め先の和食店はパワハラ・セクハラの温床であり、唯一の女性板前である莉音は、まともに腕前も見てもらえず、ハラスメントの標的にされているのである。莉音の境遇を哀れむイライザだが、一つ気になることがあった。これだけひどい目に遭っているにも関わらず、料理の修行に励む莉音からエクスタシーに似た感情が読み取れることがあって・・・・・
これまでの話でも登場した、和食屋で男性上司にいびられる女性板前・莉音が登場します。彼女が職場で受けるパワハラ・セクハラは本当に悪質で、読んでいてイライラしっぱなしでしたが・・・まさかそんな物理で解決するとは(汗)このシリーズにしては比較的珍しく大惨事になるものの、加害者が性悪すぎるので嫌な気分にはなりません。イライザが言うように、終盤の莉音の決め台詞、カッコイイ!!
『お梅は呪いたいシリーズ』同様、エピローグで各話の主人公たちのその後が語られます。逮捕だの離婚だの流血沙汰だのでイライザは嘆いていますが、当人たちにとってはむしろ良かったようだし、これはこれで立派に<幸運の人形>と言えるのではないでしょうか。あちこちにちりばめられた昭和・平成とのギャップネタも面白く、当時を知る読者はクスリとしてしまうと思います。
お約束展開だけど、それがまたヨシ!!度★★★★★
『お梅は呪いたいシリーズ』未読でも読めますよ度★★★★★






