はいくる

「ファミリー」 森村誠一

世界には何冊の本が存在するのでしょうか。現在の数は調べても分かりませんでしたが、二〇一〇年末のGoogleの調査によると、一億二九八六万四八八〇冊だそうです。それから十年以上の月日が流れているので、今はもっと数が増えているでしょう。では、その中で、私の大好きなフィクション小説の割合は?正確な数は不明なものの、相当数あることは間違いありません。

ただ、数が増えるとなると、当然、複数の小説でテーマがかぶるというケースが出てきます。この場合、同じテーマをどうやって上手く料理するかが作家の腕の見せ所。高見広春さんの『バトル・ロワイアル』と、スーザン・コリンズの『ハンガー・ゲーム』は、<公権力主宰のデスゲームに巻き込まれた少年少女達>という設定が共通しているものの、物語の展開やキャラクター設定はまるで別物です。この小説も、違う作家さんの作品とテーマは同じながら、まったく違う面白さを味わえました。森村誠一さん『ファミリー』です。

 

こんな人におすすめ

家庭内サイコホラーが読みたい人

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婚約者の急死により、悲しみの底に突き落とされた主人公・弓子。だが、見合いで出会った羽室裕也との結婚で、一度は失った幸せを得る。夫は優しく、同居する義家族は誠実な人ばかり。弓子の人生はまさに幸福の絶頂---――のはずだった。婚家で感じる些細な違和感、なぜか深夜に互いの寝室を訪ね合う義家族達、異様に険悪な隣家との仲、相次ぐ不審な死や失踪。恐怖を覚えた弓子は、友人の美津子に助けを求めるが・・・・・幸福な家庭の裏に隠された闇を描く、戦慄のサイコホラー

 

先日、ブログで取り上げた乃南アサさんの『暗鬼』と、<結婚して幸せだったのに、嫁ぎ先家族にはおぞましい秘密があった>という設定が同じです。とはいえ、その後の切り口が全然違うので、マンネリ感は皆無。むしろ、同じ設定でよくこんなに違う物語を作り出せるなと感心させられました。

 

主人公・弓子は、婚約者が事故で急死するという悲劇的な過去を持つ女性。その後、上司からの紹介で羽室裕也という男性と見合いをし、結婚します。裕也は申し分ない夫な上、同居する舅姑や裕也の弟妹は朗らかで思いやりのある好人物。結婚生活に何の不満もない弓子でしたが、ある夜、ベッドを抜け出した裕也が姑の寝室に入っていくところを見てしまいます。さらに、よく注意して見てみると、舅が義妹の寝室に出入りしていたり、義弟と義妹が抱き合っていたり・・・その上、義家族が隣りに住む沖野家のペットをこっそり埋めている現場を目撃し、弓子の恐怖は頂点に達します。友人・美津子に相談して離婚を目論む弓子ですが、魔の手はすぐ側まで迫っていました。

 

あらすじだけで何となく察せられるかもしれませんが、本作と乃南アサさんの『暗鬼』の最大の相違点、それは<生臭さ>だと思います。義家族の秘密が何なのか、終盤まで分からずミステリアスな雰囲気があった『暗鬼』に対し、本作は前半から近親相姦を匂わせる描写はあるわ、動物が酷い目に遭うわ、関係者が急死するわと、物理的な被害がありまくり。そうでなくても、森村誠一さんの性愛描写はかなり濃密で生々しいので、その辺りが苦手な方には読み辛いかもしれません。

 

ただ、この生臭さがあってこそ、羽室家の正体と真意が分かった時の恐怖が倍増するんですよ。彼らが家族間で肉体関係を結んでいるであろうことは、結構早い段階で察せてしまうのですが、さすがにここまで恐ろしい秘密があるとは予想外でした。こんな一家相手じゃ、一般人の弓子が為す術なくても無理ないよなぁ。むしろ果敢に行動した女友達・美津子が凄すぎます。

 

そして忘れちゃいけないのが、羽室家の隣人・沖野家の存在です。弓子とは(違和感はありながら)円満な関係を築く羽室家の人々ですが、沖野家とはまさに犬猿の仲。一体、両家の間に何があったのか。これが本作の謎の一つなのですが・・・・そう来たか!!!という感じでした。正直、これは羽室家の秘密以上に衝撃が大きかったです。でも、ここまでするために、沖野家の人達がどれほど苦しんだかと思うと、なんだかやるせないですね。彼らの心に平穏が訪れるよう、願ってやみません。

 

なお、本作は一九九九年にとよた真帆さん・石黒賢さん主演でドラマ化されています。私はそうと知らずに視聴していたのですが、色々ありつつヒロインが前向きになれる結末で一安心。では、原作小説の方は・・・?ネタバレは避けますが、間違いなく記憶に残るラストシーンだと思うので、ぜひともご自身の目で確かめてください。

 

どんな形でも家族って有難いものだよね度☆☆☆☆☆

最後一行が破壊力抜群・・・度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

     森村誠一さんは赤川次郎さんと同じく「土曜ワイド劇場」で見た2時間ドラマのイメージが強いですがまさに2時間ドラマのような展開で乃南アサさんの雰囲気を感じます。一生のうちに何冊本を読むのか?mixiのレビューでは1300冊まで行きました。
     人生は半分過ぎましたがこれからも本を読んで色んな人生を体験したいと思います。

    1. ライオンまる より:

      王道を行く二時間サスペンスドラマな内容でした。
      ラストは映像版と違いますが、個人的に原作の方が好きだったりします。
      私は一体何冊の本を読んだのかな?
      一度、きちんとカウントしてみたいです。

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