人生は出会いと別れの繰り返しです。これは何も大きな出来事だけを指しているわけではありません。何気なく散歩している道にも、買い物しようと立ち寄ったコンビニにも、無数の出会いと別れが溢れています。
そして、一度別れた相手と思いがけない形でまた出会うこともあります。そんな意外な出会いを描いたのが、森絵都さんの『出会いなおし』。出会いを繰り返すことの素敵さをしみじみ実感することができました。
かつて共に仕事をしたイラストレーターと編集者、デパ地下でおかずを買った主婦と惣菜店の店員、心に引っかかるものを抱えて参加した小学校の同窓会・・・・・出会って、離れて、再び出会ってまた別れる。小さな出会いと別離を繰り返しながら、人はどこに向かうのか。直木賞受賞作家が送る、六つの愛しい短編集。
「出会い」あるいは「別れ」を描いた作品は数多くありますが、「出会いなおし」となるとちょっと珍しいのではないでしょうか。それも「再会」とは違うところがミソ。どの話も味わい深く、読み終わるのが惜しいと感じるほどでした。
「出会いなおし」・・・若くしてイラストレーターとして成功したヒロインは、ある時、編集者のナリキヨと出会う。彼との仕事を通じ、自分の生業の意味を考え始めるヒロイン。やがて二人は疎遠になるが、数年後に再会したナリキヨは意外な変貌を遂げていて・・・
ナリキヨさんとヒロインのやり取りがすごく楽しい!はっきりと描写されてはいないものの、ヒロインはナリキヨさんに淡い恋心を抱いていたんじゃないかと察せられます。そこで恋物語にせず、「仕事の意味を学ばせてくれた人」に留めおく辺りが、なんとも心憎いですね。
「カブとセロリの塩昆布サラダ」・・・夫と共働き生活を送るヒロインは、ある時、デパ地下で「カブとセロリの塩昆布サラダ」を買う。ところが、帰宅して味見したそれは、どう考えてもカブではなく大根で・・・・・
カブカブカブカブカブ尽くし。人生において、これだけカブ料理の羅列を見る機会もそうそうないのではないでしょうか。また、そう多くないページ数の中で、台所を預かる女性のプライドや接客業の在り方について巧みに描写されています。惣菜店店員の藤木君、いい奴だなぁ。
「ママ」・・・夫の語る「ママ」の思い出話が大好きだったヒロイン。ところがひょんなことから、その話が嘘だったと知ってしまう。ショックを受けたヒロインは子どもを抱えて家を飛び出すが・・・・・
少しファンタジーの香りが漂う作品。ムーミンママに憧れ、黒いバッグを持って現れる「ママ」。彼女が一体何者なのかは分からないけれど、きっと今もどこかで誰かを救っているのでしょう。読了後、ムーミンの物語が読みたくなりました。
「むすびめ」・・・ある年、小学校の同窓会に参加することを決めたヒロイン。彼女は小六の時、30人31脚のレースで転倒し、クラスのテレビ出演をパアにしてしまったことを後ろめたく思っていた。そんな彼女が知った、予想外の真相とは。
運動下手で、体育関係の行事でいつもクラスの足を引っ張っていた私は、ヒロインに感情移入しまくりでした。30人31脚という、実在した競技大会をテーマにしている点も面白いですね。実際に舞台裏ではこんな悲喜こもごもが起こっていた気がします。ラストで分かる、ヒロインの意外な生き様も◎!
「テールライト」・・・心に苦しみを抱えたタクシー運転手と乗客。命を懸けて戦う闘牛士と牛。川を挟んで出会う、富裕層の少年と貧しい少女。腹を刺されて入院した患者と担当看護士。別れ際に願うのは、相手の幸せや再会で・・・・・
一作品の中に四つの短いエピソードが入っています。明言はされていないものの、私はこれを輪廻転生を繰り返して出会い、別れる二つの魂の物語と受け取りました。特に印象的なのは、最後の患者と看護士の話。結ばれて幸せな生活を送る二人が、やがてすれ違っていく様子、そして背後に漂う不穏な空気に胸が痛くなります。そして、この主人公が働く施設ってもしかしなくても・・・・・
「青空」・・・妻を亡くし、息子を義両親に託すため車で出かけた主人公。と、運転中に目の前に大きなベニヤ板が飛んでくる。板がフロントガラスに直撃するまでの一瞬、主人公の脳裏には様々な情景が浮かび・・・・・
一言で言えば「絶体絶命のピンチの際、主人公が見た走馬灯の話」。たった一瞬の間に主人公の脳裏を駆け巡ったものが、勢いのあるタッチで描写されています。さらに、思いがけない形で現れる亡妻には涙腺決壊。手に汗握り、最後はうるっとくる良作でした。
全編通して文章がとても優しく、心にじんわりと染み入ってくるようです。ものすごいスペクタクルがあるわけではないけれど、疲れた時に読み返したくなりますね。そして何より「出会いなおし」というタイトルが素敵。この言葉選びのセンスに脱帽です。
出会いは一度だけのものじゃない度★★★★★
読んでいて心が軽くなる度★★★★☆
こんな人におすすめ
元気になれる短編小説集が読みたい人
ロマンチックな出会いを描いた短編集ですね。
森絵都さんは「みかづき」以来ですので読んでみたくなりました。
何気ない日常の中で再会とは違う出会い直し~感動出来そうです。
読んでみたくなりました。
単なる恋愛や友情に留まらない、様々な出会いが描かれていました。
森絵都さんは長編も面白いけれど、個人的には短編の方が好きです。
機会があれば、ぜひご一読ください。