フィクションの世界にはよくマスコミが登場します。マスコミ側が主役の時もあれば、主役と対峙する敵役として登場することもありますね。主役の時は巨悪を追いかける一匹狼、敵役の時は人の私生活を土足で踏み荒らす卑劣漢のような描かれ方をすることが多い気がします。
あらゆる意味で、マスコミには世間を騒がせる力があります。その力が正しく使われれば良いのですが、悪い方向に使われれば、取り返しのつかない悲劇を招いてしまうことも・・・・・今日は、マスコミの在り方について考えさせられる作品を紹介します。中山七里さんの『セイレーンの懺悔』です。
不祥事が相次ぐテレビ局で記者として働くヒロイン・朝倉多香美。名誉挽回のため奔走する多香美は、ある時、廃工場でリンチを受けた女子高生の遺体を目撃する。さらに、被害者はクラスメイトからいじめを受けていたということ、いじめグループのリーダー格の少女は六年前の小学生連続強姦事件の犠牲者だったという情報を得た多香美たちは、大スクープだと興奮するが・・・・・果たして少女の悲惨な死の真相とは。多香美は被害者の声なき声を掬い上げることができるのか。
様々な業界を舞台に魅力的な物語を書く中山七里さんが今回選んだのは、欲望渦巻くマスコミ業界。ヒロインの多香美は社会部に所属する新人記者で、先輩の里谷とともに凄惨な女子高生殺人事件を追うことになります。いじめや性暴力、SNSといった問題を絡ませながら進んでいくストーリーにはスピード感があり、いつもながらグイグイと引っ張られるように読みました。
これはネタバレではないと思うので言ってしまいますが、物語のオチ自体は「どんでん返しの帝王」と呼ばれる中山七里さんにしてはオーソドックスです。犯人の正体など、ちょっとミステリーに詳しい読者ならすぐ予想できてしまうでしょう。にもかかわらず本作が面白いのは、マスコミの存在意義について一石を投じる内容だからに他なりません。
ターゲットを追いかけ、本人のみならず家族の私生活にも踏み込み、過去のアルバムや作文までネタにする、それがマスコミです。そんな業界に身を置く多香美が悩み、葛藤し、自分なりのマスコミの在り方を模索していく様には考えさせられるものがありました。煩悶する多香美と接するベテラン記者の里谷、イケメン刑事の宮藤などもそれぞれ魅力的で、ぜひ他作品にも再登場してほしいです。
タイトルの「セイレーン」とはギリシア神話に登場する海の怪物で、美しい歌声で船乗りを惹きつけ、遭難するよう仕向けます。果たして多香美たちマスコミは、人心を惑わせ、破滅に導くセイレーンなのでしょうか。その作者なりの答えが、ラストの多香美の姿に込められていると思いました。
マスコミの影響力は恐ろしい度★★★★★
少女の孤独が哀しい・・・度★★★★☆
こんな人におすすめ
マスコミを舞台にしたお仕事小説が読みたい人
「スタート」で登場した宮藤刑事がいい味を出していましたね。
渡瀬警部や犬養刑事とは違った魅力がありました。
ミステリーとしてはイマイチのような気がしましたがマスコミに対する厳しい批判~セイレーンに例えた皮肉は強烈でした。
いつか3人の刑事の共演の作品が読みたいですね。
マスコミ側が主役でありながら、ここまでマスコミがクソミソにけなされる小説って珍しい気がします。
セイレーンの喩え・・・言いえて妙ですね。
この宮藤刑事、中山作品に出てくる刑事の中でもかなり好きなキャラなので、ぜひ渡瀬警部や犬養刑事と共演してほしいです。