私は生まれてこの方根っからのインドア派。昔から体育は大の苦手で、運動会やマラソン大会は早く終わってくれるよう祈っていました。だからこそ、アスリートを描いた小説は大好き。自分とは縁のない世界な分、無条件に憧れてしまいます。
スポーツ界を舞台にした小説と言えば、箱根駅伝がテーマの三浦しをんさん『風が強く吹いている』、ダイビングに打ち込む少年が主役の森絵都さん『DIVE!!』、高校ボクシング部の青春模様を描く百田尚樹さん『ボックス!』など、面白い作品がたくさんあります。今回は、障がい者スポーツを扱った小説を紹介します。中山七里さん『翼がなくても』です。
オリンピックを狙えるほどの走者でありながら、不慮の事故により片足を切断したヒロイン・沙良。加害者である泰輔は、沙良の隣家に住む幼馴染だった。やがて泰輔は刺殺体となって発見されるが、現場の状況から、一番強く殺害動機を持つ沙良には犯行が不可能。事件を追う犬養刑事は真相に辿り着けるのか。事件の背後で動く御子柴弁護士の真意とは。果たして翼をへし折られた沙良は再び飛び立つことができるのか。
「犬養刑事vs御子柴弁護士」という、中山七里ワールドの二大スター対決が実現した本作。両者とも登場ページ数自体はさほど多くはないものの、それぞれの持ち味を生かした活躍ぶりを見せてくれます。「観察眼は鋭いが女性心理を読むのが苦手な犬養」と「高額な報酬と引き換えに必ず依頼を達成する鉄面皮の御子柴」の対峙シーンは、ファンならずともわくわくしてしまうのではないでしょうか。もちろん、彼らを知らない読者でも差し支えない内容となっているので、心配はいりません。
本作で一番印象的だったのは、ヒロインである沙良にあまり共感できなかった点です。ひたすらアスリートであることに拘泥し、生活のことを案じる母親にも冷たい態度を取る沙良。もともと運動があまり好きではない私など、「走ることより、まず毎日の暮らしのことを考えなよ」と思ってしまいます。
ですが、読み進めるうち、沙良の性格設定や行動原理すべてが作者の計算の内であることに気付きました。なぜ沙良は狂気とも思える執念を燃やして走ろうとするのか。彼女の原動力は一体何なのか。その答えは、終盤、犬養刑事と御子柴弁護士により明かされます。
日本ではオリンピックより注目度の低いパラリンピックについても描かれていますし、ラストの躍動感・爽快感は一読の価値があると思います。重厚なミステリーというわけではありませんが、スポーツ小説として楽しむことができました。それにしても中山七里さんってば引き出しが大きすぎ、書けない分野なんてあるのかしら。
それでも私は立ち上がる度★★★★★
社会問題がしっかり扱われてる度★★★★☆
こんな人におすすめ
スポーツ界の中での人間ドラマが見たい人
登場数やセリフは少ないですが犬養刑事と御子柴弁護士が良い味を出した作品でしたね。企業のスポーツの分野の厳しい現状が「ルーズベルトゲーム」や「陸王」で読みましたが、それ以上にリアルでパラリンピックの日本における知名度や義足の詳しい説明などあらゆる分野に置いて詳しく描いてあるのも良かったです。
その基本がやはり利益・財源であることも説得力がありました。
犬養&御子柴ファンの私には嬉しい一冊でした。
単なる理想論ではなく、利益の大切さをしっかり書いている点が良かったです。
結構いい味出していると思ったヒロインの父親が、序盤以降、ぱったり姿を現さなかった点が残念ですが・・・