今までブログに投稿してきた読書レビューを見れば何となく分かるかもしれませんが、私はイヤミスが好きです。読み進めるうちにイヤ~な気分になり、たとえ謎が解けても登場人物たちは幸せにならない。その後味の悪さに、どうしようもなく惹かれてしまいます。
とはいえ、楽しく笑えるユーモア小説も大好きなんですよ。そんな私が、久々に「これはヒット!」と思える作品に出会いました。かつて「セーフティ番頭」というコンビ名でお笑い芸人として活動していた、藤崎翔さんの「こんにちは刑事ちゃん」です。
「ハゲタカ」という異名を持つ五十代のベテラン刑事・羽田。捜査中、事件関係者からの発砲により殉職した彼は、なんと部下である鈴木の息子として生まれ変わってしまう!しかも、羽田としての意思や知識、経験はそのままで!あまりのことに仰天しつつも、自分を守り育ててくれる鈴木夫妻のため、彼らの周りで起きるトラブルを解決しようと奮闘する羽田。果たして羽田は、赤ん坊の体のままで事件の数々を解決することができるのか。そして、前世の自分を射殺後、今なお逃走中の犯人を捕まえることができるのか。
なんだか某名探偵漫画の主人公を思わせるキャラクター設定ですが、こちらの中身は百戦錬磨のベテラン刑事ながら、体は生後間もない赤ん坊。事件を解決しようにも「ばぶばぶ」としか言えません。不自由極まりない状況の下、羽田が懸命に謎解きしようと悪戦苦闘する様子が最高におかしい!赤ちゃんのあどけない仕草が、実はおじさんが必死で意思疎通を図ろうとした結果だと思うと、それだけでもう笑えて笑えて・・・このユーモア溢れる文章力、さすが元お笑い芸人だと感心しました。
単純に笑えるだけでなく、子育てあるあるネタがふんだんに詰まっている点も面白いです。羽田は人生経験豊富な中年男性なので、飲み食いの仕方から歩き方まで熟知していますし、昼夜を問わず泣き喚くこともありません。「なんて親孝行な子!」・・・と褒められるかと思いきや、鈴木夫妻は「手がかからなさすぎる」と心配になります。我が子が平均より劣っていても優れていても不安になる。そんな親の複雑な心境、保護者同士の微妙な力関係などの描き方が巧みで、読んでいて育児の大変さが身に染み入ってくるようでした。まあ、そうこう言いつつ、空気を読んだ羽田が今度は「程ほどに手のかかる赤ん坊」を演じる様子にまた笑わされるわけですが(笑)
また、本作はミステリ連作短編集としての構成も優れています。作中で起きるのは、振り込め詐欺や不審火など、一般市民の生活に密着した事件。そして、羽田が殉職する羽目になった殺人事件です。一話一話できっちり事件は解決し、張られていた伏線が最終話で回収される展開はなかなかお見事。荒唐無稽な話が苦手だという方も、これなら楽しめるのではないでしょうか。
思い切り笑えて、終盤ではちょっぴりしんみりさせられる名作・・・と締めくくりたいところですが、最後の最後でこれまたものすごいオチが待っています。ラスト一ページの「次回作予告」も爆笑もの。もし図書館で借りられた方は、最終ページを読み飛ばしたまま返却することのないよう、くれぐれもご注意ください。
赤ちゃんの成長ぶりが愛しい度★★★★☆
おっさんの推理も冴えまくるぞ度★★★★☆
こんな人におすすめ
・ユーモラスな小説が好きな人
・育児を扱った小説が読みたい人
これは面白い設定ですね。
是非とも読みたい作品です。
ラストも楽しみです。どういう展開になるか早く読みたいです。
「大人が若返る」という設定の作品は色々ありますが、さすがに赤ちゃんになってしまうパターンは珍しいですよね。
愛らしい赤ちゃんが裏であんなことを考えているなんて・・・と、噴き出してしまうこと請け合いです。
絶対に絶対に最後一ページを見逃さないでくださいね。