はいくる

「復讐の泥沼」 くわがきあゆ

「今日は救いようがないイヤミスを読みたいな」と思った時、私はタイトルを参考にすることが多いです。胸糞悪いイヤミスやホラーって、タイトルもそれらしいケースがしばしばなんですよ。もちろん、タイトル詐欺という場合も結構多いんですけどね。

過去に読んだ作品を例に挙げると、櫛木理宇さんの『依存症シリーズ』、貫井徳郎さんの『慟哭』『愚行録』、真梨幸子さんの『殺人鬼フジコの衝動』などは、期待通りの後味の悪さを味わえました。タイトルもまた作品の一部。表紙に手をかけた瞬間の予想がドンピシャで当たるのは、なかなか嬉しいものです。今日ご紹介するのも、「これは絶対にどす黒いイヤミスだろ」と思いながら読み始め、見事に予想的中した作品です。くわがきあゆさん『復讐の泥沼』です。

 

こんな人におすすめ

どんでん返しのあるサイコサスペンスが読みたい人

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絶対に、絶対に、見つけ出す---――のどかなひと時が流れるカフェで突如起こった崩落事故。事故に巻き込まれた光は怪我で済むも、一緒にいた颯一は命を落とした。光の脳裏に焼き付いているのは、事故直後、助けを求める光を無視して立ち去った男二人組の姿。あの二人はなぜ颯一を助けてくれなかったのか。彼らが手を貸してくれたら、颯一は助かったのかもしれないのに。わずかな記憶と手がかりをもとに、二人を探し始める光。ようやく一人を見つけた矢先、彼はなんと光の目の前で殺されてしまい・・・・・この泥沼から抜け出す術はあるのだろうか。もつれ合う愛憎劇の行方を描いたサイコサスペンス長編

 

もうこのタイトル見た時点で、一欠片の希望もなさそうな予感をひしひし感じました。何しろ『復讐の泥沼』ですからね。で、蓋を開けてみたら、いっそ痛快さすら感じるほどの泥沼っぷり。ただむやみやたらにドロドロしているだけでなく、勢いのあるキャラ造形やどんでん返しの仕掛け方が強烈で、とても面白かったです。

 

ヒロイン・光は、カフェで颯一と和やかな時間を過ごす最中、突如として崩落事故に巻き込まれます。この時の怪我がもとで颯一は死亡し、打ちのめされる光。何より彼女を憤らせたのは、事故直後、医療関係者らしき男二人が現場にいたにも関わらず、なぜか颯一を無視して立ち去ったという事実でした。事故が起きてすぐ、颯一の体はまだ温かかった。あの二人が手助けしてくれたら助かったかもしれないのに、なぜ無視したのだろう。光は血眼になって手がかりを集め、二人組の一人である医師・黒田の身元を突き止めます。ところが、話を聞こうとした直後、黒田は何者かに銃撃されて死亡。どうにかその場から逃げた光は、この事件の背後に何かあることを確信するのですが・・・・・その頃、崩落事故発生時、黒田とともに現場にいたサラリーマン・薬師は、何者かが自分に迫ってきている気配を感じ取っていました。一体どこの何者だ?もしや、黒田の死と何か関係があるのか?薬師は薬師で、独自のルートを使って、追跡者の正体を探り始めます。光と薬師、二人の世界が交錯した時、明らかになる真実とは果たして---――

 

光と薬師、二つの視点の章が交互に語られる形で、物語は進んでいきます。この<交互に>というのがミソなんですよ。片方の視点では不可解だった出来事の真相が、もう片方の章ではすんなり判明する。何気ない日常風景や会話だったはずの場面が、実はとんでもない修羅場を描いたものだったと分かる。そうした黒白の反転・絡み合いぶりが絶妙で、いい意味で何度も裏切られました。二つの章から浮かび上がる妄執と狂気と悪意がもつれにもつれて惨劇になる様子は、タイトル通り泥沼状態。と、そこで終わらず、終盤、登場人物の口から『復讐の泥沼』の本当の意味が語られる場面は「おお~」という感じでした。

 

その上、ヒロイン・光と助演格の薬師もいいキャラしています。光視点の章だと、彼女は颯一の無念を晴らそうと奮闘する健気な女性。その割に、関係者を訪ねて回る時、必要以上に嫌な顔をされている気がするけれど・・・?薬師視点の章だと、彼は仕事熱心で顧客想いな有能サラリーマン。ちょっと顧客に対して個人的に肩入れしすぎじゃない・・・?等々、些細な違和感が積み重なり、途中でガラリと印象が一変する描き方は秀逸の一言。この二人以外にも、無害な人っていたっけ?と首を傾げるレベルで、クセが強い登場人物が揃っています。終盤、諸悪の根源同士が判明・対峙する場面は、凄すぎてもはや悪人というよりジャガーVSアナコンダかと思うほどでした。

 

気になって調べてみたところ、くわがきあゆさんは二〇二一年にデビューした、まだ比較的活動歴が短い作家さん。その作風から<どんでん返しの新女王>との呼び声高いとのこと。著作はどれもこれも私のツボに刺さるイヤミス揃いなので、今後ともこの路線での活躍を期待しています。執筆ペースが早いのもファンとしては嬉しい限りですが、気張りすぎて体調を崩さないよう、くれぐれも用心してほしいものです。

 

読了後の精神的ダメージを覚悟して度★★★★★

ダンベルをそんな風に使っちゃいけません度★★★★★

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