はいくる

「お梅は呪いたい」 藤崎翔

ホラー界における三種の神器とも言える恐怖アイテム、人形(個人的な残り二つは鏡と日記)。人形が怖いのは、人の形を模していることと、本来可愛いものというイメージがあるからでしょうか。愛らしいはずの人形が恐怖シーンに登場した時の恐ろしさは、そのギャップから、本気で鳥肌立ちそうになるものです。

ただ、一言で人形といっても、等身大のマネキンから、豪奢な装飾が施されたアンティークドール、子どもが片手で持てる着せ替え人形等々、たくさんの種類があります。その中でジャパニーズホラーにぴったりなのは、満場一致で日本人形でしょう。澤村伊智さんの『ずうのめ人形』や、漫画ですが山岸凉子さんの『わたしの人形は良い人形』には、読者の背筋を凍らせるほど怖い日本人形が登場します。それから、この作品に出てくる人形も、なかなかどうしてインパクト抜群でしたよ。藤崎翔さん『お梅は呪いたい』です。

 

こんな人におすすめ

伏線たっぷりのホラーコメディが読みたい人

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戦国時代、多くの人間を憑り殺し、一族を根絶やしにしたこともある呪いの人形・お梅。偶然にも封印が解かれたことで現代に蘇ったお梅は、再び人間達を呪い殺そうとするのだが・・・・・うら寂しい生活から抜け出そうとするYouTuber、失恋の痛手に打ちのめされる事務職員、怠惰な日々を送る引きこもり、都会の片隅で慎ましく暮らす老女。なんでこいつらどいつもこいつも死なないんだ!?行く先々でことごとく地団駄踏む羽目になるお梅が、果たして人を呪い殺せる日は来るのだろうか。抱腹絶倒のオカルトコメディ、ここに誕生

 

いやー、笑った笑った!藤崎翔さんの著作には、『OJOGIWA』のようなゾワッとする作風と、『こんにちは刑事ちゃん』のようなとことん笑える作風との二種類があるのですが、本作は後者。どうにか現代人を呪い殺そうとするもうまくいかないお梅の奮闘(?)がおかしくて仕方なかったです。従来のホラー作品に出てきた呪いの人形達も、実は陰でこんな苦労をしていたのかしら(笑)

 

「ゆふちゅふばあを呪いたい」・・・コンビニでアルバイトをしつつ、有名YouTuberになることを夢見る悠斗。縁あって呪いの人形・お梅を引き取った悠斗は、深夜、お梅が勝手に動き回る瞬間を偶然にも録画してしまう。早速YouTubeに投稿したところ、大盛り上がりして再生回数も激増。これはいいネタを見つけたと喜ぶ悠斗だが、それ以降、お梅はどれだけ待っても動いてくれず・・・・・

<心霊系YouTuberとして名を馳せたいから、なんとかお梅にもう一度動いてもらいたい悠斗>VS<人間を喜ばせたくないからテコでも動かないお梅>の攻防がツボでした。お梅が悠斗を呪殺できない理由が<現代人の栄養状態・衛生環境が良いため、戦国時代生まれのお梅の呪いでは効果がない>なのも最高にユニーク!まあ、そりゃ戦国時代の価値観でいたら、そうなるわな。

 

「失恋女を呪いたい」・・・ちゃらんぽらん男に振られ、怜花の毎日はブルー一色。道端で拾ったお梅を前に、夜ごと飲んだくれる毎日だ。こんな相手なら、呪い殺すのは簡単に違いない。お梅はほくそ笑み、怜花に呪いの気を浴びせ続けるが、それが予想外の展開に繋がって・・・

お梅の<人の負の感情(怒り、悲しみ、妬みetc)を増幅させる>という能力が、一番生かされていた話だと思います。いや、まさかそんな感情まで増幅させちゃうの!?戦国時代じゃあり得ない光景を目の当たりにし、動揺しまくるお梅、ちょっと可愛いですね。むしろ、最後、あれだけ大事に思っていた(?)お梅より新しい彼氏優先の怜花の方が残酷に思えたりして・・・

 

「引きこもり男を呪いたい」・・・思ってもない形で大金を得、生きる気力もなく引きこもり生活を続ける渓太。そんな渓太に悪夢を見る呪いをかけるお梅だが、なぜかうまくいかない。その上、渓太は学生時代の先輩と偶然再会したことで、社会復帰の気力を取り戻し始めてしまい・・・

甘ったれの引きこもりと思いきや、壮絶な過去を背負った渓太の心境が痛ましかったです。放っておけばこのまま衰弱死したかもそれないのに、お梅と関わったばかりに状況は好転。あっさり<頼れる先輩と再会したことで社会復帰を果たす>ではなく、もう一捻りしてある所が面白いですね。あと、ホラー映画『チャイルド・プレイ』を見てお梅が「人形が人間と一対一の肉弾戦をして勝てるわけないじゃん。体格が違い過ぎるんだから。こういう無茶な設定はやめてほしい」と不満に思う場面、ものすごくウケました。

 

「老婆と童を呪いたい」・・・今回お梅の持ち主となったのは、慎ましい一人暮らしを送る老婆・雅恵だ。近所に住む小学生・智希と交流し、心身共に健やかな雅恵には呪われる隙もなく、お梅としては面白くない。そんなある日、雅恵は智希から、学校でいじめられていると打ち明けられ・・・・・

雅恵のキャラ、いいですね!こういう<知力胆力で事態を解決するご老人>って大好きなんですよ。ここで単純ないい話で終わらず、後半、智希の母親が登場してからの展開は結構びっくり・・・でも、よく読んでみたら、ちゃんと伏線張ってありました。ちょっと切ないけれど、ラスト、智希が友達と楽しそうに過ごしていて良かった!

 

「老人ほおむで呪いたい」・・・今度こそ、絶対に人間を呪い殺してやる。決意を新たにしたお梅が行き着いたのは、老人ホーム。体が弱っている者なら殺すのも容易かろう。お梅はお迎えが近いと思われる老人を標的にして、早速呪いをかけ始め・・・・・

これまでの四話の主要登場人物が再登場。さらに、あちこちで意味ありげに出てきた<顔にアザがある嫌味ったらしい老婆><行く先々でお梅関係のトラブルに遭遇し、宅配便を破損してしまう配達員><コンビニで自分へのご褒美に高級アイスを買う女性>の存在もクローズアップしてきます。この伏線回収の仕方、藤崎節全開という感じで大満足でした。

 

ちらほらと深刻な社会問題が垣間見えたりするものの、最終的にはお梅の呪いのおかげで円満解決するため、気分スッキリで読み終えることができました。お梅は一つ所に留まることができない性分のようなので、いくらでも続編が作れそうですね。行く先々で予想外に人助けする羽目になるお梅の活躍が、今後も見たいものです。

 

もはや呪いじゃなくて幸福のアイテムじゃん度★★★★★

全ページが小ネタの宝庫!度★★★★☆

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コメント

  1. しんくん より:

     これは連作短編集でしょうか。
     呪いの人形が主人公で、登場人物を呪うというより振り回しているのか振り回されているの?と思うような展開が面白そうです。
     藤崎翔さん独特のブラックコメディが楽しめそうです。
     図書館で検索します。

    1. ライオンまる より:

      連作短編集です。
      いわゆる<呪いの人形あるある>がことごとく裏目に出る様子が、もうおかしくておかしくて。
      その端々に引きこもりや老人問題等、社会風刺的な内容も描かれていますが、どれも後味良いです。
      ぜひ続編が出てほしいです。

  2. しんくん より:

    面白かったです。
    呪いの人形は気味が悪く悲劇の末路のイメージですが時代についていけないお梅の葛藤が特に面白かったです。
    二話の里中怜花はお梅に感謝しながらも幸せになれば見向きもしないという設定は後で天罰が下る対象になりかねないですが、呪いの人形には丁度良い待遇?とすら思いました。
    4話目の雅恵の意外な事実がインパクトがありました。
    これぞ藤崎翔の作品だと感じました。
    最後にこれまでの集大成のようで楽しく読み終えました。
    続編を期待したいですね。

    1. ライオンまる より:

      「現代人の体格が良すぎて呪いで衰弱させられない!」「動くところ見せたら、なぜか大ウケされる!」等々、戦国時代の価値観が通用せず、歯噛みするお梅の心理描写がツボでした。
      雅恵のバックグラウンドはビックリでしたね。
      最終話を読む限り、社会復帰できているようなので、今後は健やかな老後を過ごしてほしいものです。
      今のところ、藤崎翔さんの作品の続編希望NO.1です。

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