はいくる

「翼ある蛇」 今邑彩

古来より、蛇は様々な文化の中で、<人知を超えた得体の知れない力を持つ存在>として捉えられてきました。手足のない体や、全身をくねらせて移動する動き方、脱皮を繰り返す性質などがそうさせるのでしょうか。旧約聖書の中で、禁断の果実を食べるようイブを唆すのは蛇ですし、ギリシャ神話では生命力の象徴とされ、世界保健機関のシンボルマークにもなっています。

蛇が重要なキーワードとして登場する作品はたくさんありますが、やはり<ミステリアスで不可思議な力の象徴>として描写されることが多い気がします。川上弘美さんの『蛇を踏む』や三浦しをんさんの『白いへび眠る島』などがいい例でしょう。今日は、蛇がとても印象的な使われ方をしている作品を取り上げたいと思います。今邑彩さん『翼ある蛇』です。

 

こんな人におすすめ

・猟奇殺人が出てくるサスペンスが好きな人

・『蛇神シリーズ』のファン

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それは、一件のメッセージから始まった---――女性作家のホームページに書き込まれた不気味なメッセージ。間もなく、都内で大学生の惨殺死体が発見される。事件の一報を受けた編集者・蛍子の脳裏に不吉な予感が浮かんだ。もしや、この事件には私の姪が関わっているのではないか。姪の体に浮かぶ不思議な痣と、かつてその痣を見た海女の言葉。その後明らかになる、姪の出生にまつわる意外な真相。蛍子は、長い付き合いの私立探偵に姪の出自調査を依頼する。やがて辿り着いたのは、信州にある<日の本村>という村だった・・・・謎と妄執が絡み合う、ホラーサスペンスシリーズ第二弾

 

『蛇神』に続くシリーズ二作目です。二作目と言いつつ、位置付けとしては外伝と表現した方がいいかもしれません。作中で起こる事件は次巻に持ち越すことなく解決しますし、『蛇神』に出てきた日美香や日の本村の秘密に関する謎もほぼ進展なし。本作一本できちんと完結しているので、とてもすっきりとした気持ちで読み終えることができました。

 

主人公である編集者・蛍子は、女流翻訳家兼エッセイストのホームページを書籍化するという仕事を任されます。それは、蛇信仰と女性学を絡めた、やや突飛な内容のホームページでした。時同じくして、都内で男子大学生の遺体が発見されます。その死に様は、手足を切断され、心臓を抜かれ、代わりに黄色いボールを詰められるという無惨なもの。同時に、蛍子が書籍化を進めるホームページに、事件を連想させる書き込みが投稿されます。投稿者の文章から、同居する姪の火呂を思い起こし、不安になる蛍子。火呂は生まれつき胸に蛇の鱗に似た痣があり、生まれ故郷の沖縄では「この子は海蛇の生まれ変わりだ」と囁かれていました。まさか、火呂はこの事件に関係しているのか?このタイミングで火呂の出生の秘密が明らかになったこともあり、蛍子は旧知の中である探偵に、火呂の出自調査を依頼します。調査の結果、浮かび上がったのは、信州の奥地にある<日の本村>という小さな村でした。

 

「はい、日の本村来たーーー!」と『蛇神』を読んだ方なら思うでしょうが、前述した通り、村にまつわる謎は本作ではほとんどスルー。前作のようなどろどろ土着ホラーとしての色合いはだいぶ薄いです。本作の雰囲気は、ホラーというより切れ味鋭いサイコサスペンス。殺人事件の描写はかなりグロテスクなので、苦手な方はご注意ください。

 

ただ、主人公の蛍子や姪の火呂が真っ当で健やかな人間のせいか、猟奇的な事件が出てくる割に、あまり重苦しい感じはしません。『蛇神』で家族を殺害された日登美や、壮絶な出生の秘密を知ってしまった日美香に対し、本作の主要登場人物達は基本的に前向きでまっすぐな人達ばかり。こんな人達の中に、あの猟奇殺人の犯人がいるの?まさか本当に火呂が犯人?とハラハラしましたが・・・・・ああ、そっちね(汗)この辺りの謎解きの構成は相変わらずしっかりしていて、ぐいぐい読まされてしまいました。

 

本作の数少ない難点。それは、作中で語られる神話や民俗学に関する考証がかなり詳細かつ大量なことでしょう。私はこの手の話が好きなので面白く読めましたが、あまり興味がない場合、どんどん読み飛ばしてしまうかも・・・ただ、このシリーズのテーマ上、蛇に関する考察を知っておくと次巻以降の理解がより深まります。ここは覚悟を決め、時間がある時にじっくり読み込んでみてはいかがでしょうか。

 

今邑彩さんの罠にまんまと引っかかっちゃった度★★★★☆

前作とはそう繋がるのか!度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

    今邑彩さんのシリーズですね。
    初めて知りました。
    今邑彩さんの作風に蛇は意外にピッタリとくるイメージです。
    櫛木理宇さんの作品に通じるものがありそうで読んでみたくなりました。

    1. ライオンまる より:

      櫛木理宇さんの作風に、民俗学的な要素を足した感じです。
      この蘊蓄を受け入れられるかどうかで、評価が変わるかもしれません。
      私は大好きなシリーズです。

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