実は私、昔はシリーズ作品が苦手でした。今になって考えてみると、<順番通りに読まなくてはならない><前作の内容を把握しないと、次作の意味が分からない>という縛りが嫌だったのだと思います。シリーズ作品で読むとしたら、どの刊から読んでも構わない、いわゆるサザエさん時空で展開するものばかり。我ながら食わず嫌いだったなと思います。
言うまでもなく、縛りがあろうとなんだろうと、面白いシリーズ作品は山ほどあります。有名どころなら、東野圭吾さんの『ガリレオシリーズ』や有栖川有栖さんの『火村英生シリーズ』、当ブログで何度も取り上げた西澤保彦さんの『匠千暁シリーズ』や澤村伊智さんの『比嘉姉妹シリーズ』etcetc。刊が進むごとに登場人物達の状況が変化し、成長を見ることができて楽しいです。今回ご紹介するのは、大好きなシリーズ作品の記念すべき第一作目、今邑彩さんの『蛇神』です。
こんな人におすすめ
因習が絡む土着ホラーが好きな人
この宿命は、一族の者を決して逃がさない。まるで絡みついた蛇のように---――父親、夫、息子の三人を惨殺され、幼い長女とともに失意の日々を送る女性・日登美。そんな彼女の前に、従兄弟を名乗る男が現れる。彼とともに、早逝した実母の故郷を訪れた日登美だが、そこでの暮らしはあまりに不可解なものだった。住民達が頑なに信じる創世神話、特定の女性だけが神のように崇められるしきたり、千年前から続けられてきた門外不出の神事。やがて儀式の日が訪れた時、日登美を待つ運命とは果たして・・・・・日本神話を軸に展開する、ホラーミステリーシリーズ第一弾
今邑彩さんは『大蛇伝説殺人事件』でも、日本神話がキーワードとなる殺人事件を描いています。ただ、『大蛇伝説~』が超常的な要素のないミステリーだったのに対し、本作は同じミステリーでもホラー寄り。まだ一作目なので全容は明らかにならないものの、あちこちに垣間見える人知を超えた存在の姿のゾワゾワしっぱなしでした。
「日登美の部」・・・蕎麦屋の若女将・日登美の幸せな日々は、ある日突然終わりを告げる。日登美の父、夫、息子の三人が、店で雇っていた少年に殺害されたのだ。あまりの悲劇に打ちのめされる日登美の前に現れた、従兄弟を名乗る聖二という男。曰く、日登美の亡母は、幼い日登美を連れて故郷を出奔し、ずっと家族と音信不通だったらしい。突然のことに戸惑う日登美だが、生活のため、幼い娘を連れて亡母の故郷である日の本村に引っ越すことにする。村には、日登美にはにわかに信じがたいような数々のしきたりがあって・・・
町で暮らしてきた日登美目線で描写される、日の本村での暮らしはなんとも異様。村民達は荒唐無稽とも言える伝承を信じ、特定の一族の女性達を<~様>と呼んで崇め奉り、間近に迫る神事のため幼い子どもまで駆り出そうとする・・・土着ホラーを読み慣れた読者目線だと、「絶対この村何かあるよ!早く逃げなよ!」となるわけですが、表面上丁重に扱われている上、他に頼れる身内もいない日登美は、不審に思いつつ村に滞在し続けます。このもどかしさ、水面下で不気味な何かが進行しているハラハラ感が絶妙でした。でも実際、日登美は絶望的な状況で手を差し伸べられたわけだし、簡単に逃げ出せない気持ち、分かるんだよなぁ。
「日美香の部」・・・理想的な恋人との結婚を控える日美香に届いた、母の訃報。唯一の肉親だった母の死に呆然とする日美香に、さらに衝撃的な事実が突きつけられる。なんと日美香は母の実子ではなく、かつて母が親しくしていた女性の子だというのだ。その女性が死んだため、母が養子として引き取ってくれたらしい。私の本当の母は何者なのか。自身の出生に何か秘密が隠されていると察した日美香は、真実を突き止めるため、母の故郷だという日の本村に向かうのだが・・・・
「日登美の部」から約二十年後の話です。「日登美の部」自体は唐突すぎる終わり方を迎えるものの、そこで語られなかった箇所のほとんどはこちらで明かされるのでご安心を。過酷な運命を辿ったであろう日登美とは対照的に、この日美香は良くも悪くも強靭なので、あまり悲惨さは感じません。強靭だからこそ、最後に日登美も読者も裏切るような決断をしちゃったのかな・・・あと、本筋とはあまり関係ありませんが、二十年経ってもその美貌を賞賛される聖二のルックスがどんな感じなのか、かなり気になります。
天照大神、スサノオ、ヤマタノオロチ、蘇我氏に物部氏といった、神話から日本史に至るまで様々な要素が絡んでいるので、この辺りが苦手な方はちょっと取っつきにくいかもしれません。ただ、絡むといってもそこまで複雑な描写がなされているわけではないので、気軽に手に取ってOKだと思います。本作は四部作の第一作目。まだまだ解き明かされていない謎も、動向が分からない登場人物もいるので、二作目以降も順次取り上げていこうと思います。
神より祟りより人間の方が恐ろしい度★★★★☆
子どもが巻き込まれるのはやっぱり辛い・・・度★★★★★
今邑彩さんの神話のシリーズとは面白そうです。
日本史は好きですが古事記も日本書紀も読んだことがないですが、楽しみです。
蘇我氏、物部氏まで登場するとは是非とも読みたくなりました。
ホーンテッド・キャンパスの最新作予約しました。
図書館にまだ届いていないですが、リクエストすると直ぐに届いて真っ先に読めるのが有り難いです。本の情報に敏感な市内とそうでない市内の差を感じます。
日本神話や歴史に関するワードがあちこちにちりばめられているので、そういう方面がお好きならきっと気に入ると思います。
私の方は深木章子さんの新作が、予約順位一番目です。
新作やリクエスト本がすぐ読めるのは本当に羨ましい!!
こちらの最寄り図書館は入庫がそんなに早くないんですよね・・・もう少しスピードアップしてほしいものです。