「イヤミス」というジャンルが流行り始めて、もうずいぶん経ちます。文字通り、「読むと嫌な気分になるミステリー」の略で、最初にこの用語を使ったのは批評家の霜月蒼氏とのこと。代表的な作家としては、湊かなえ、真梨幸子、沼田まほかるなどが挙げられます。
かくいう私自身、イヤミスが大好きで、有名作品は一通り読んでいると思います。そこで今日は、個人的に「イヤミスの女王」と思っている作家、若竹七海さんの「クール・キャンデー」を紹介します。
もうすぐ夏休みで、しかも誕生日!楽しい予感にわくわくしていた中学生のヒロイン・渚の周りで、思いがけない事件が起こる。ストーカー被害に遭った兄嫁が死に、疑惑のストーカーもまた変死を遂げたのだ。警察が兄をストーカー殺害の犯人と疑っていると知り、渚は家族の無実を証明するため奔走する。果たして、殺人事件の真相は?渚は無事に楽しい夏休みを迎えることができるのか?
一六〇ページという、長編というより中編に近いボリュームのおかげでさくさく読むことのできる本作。ですが、決して多くないページの中に、どす黒い人間の悪意がちらちらと垣間見えます。何よりラスト一行の衝撃と来たら!まさにあの一文のために存在する小説と言っても過言ではないでしょう。
ヒロインであり、探偵役を務める渚は中学生。彼女の一人称で物語が進むため、文章は非常にあっけらかんとしていて軽快です。身内が事件に巻き込まれているのに軽すぎる・・・と思う向きもあるかもしれませんが、現実のティーンエイジャーって意外とこんなものかも?それでも、小生意気なようでいて彼女なりに真剣に家族のため奮闘する渚のキャラはなかなか好きでした。
登場人物の描写だけでなく、本作はミステリーとしての構成もしっかりしています。ボリューム自体が少ないので重厚感はありませんが、後半以降、伏線が一気に回収されていく展開は見事の一言。登場する刑事たちが、これまたものすごく嫌な連中として描かれている分、渚の行動で彼らを黙らせる場面にはスカッとさせられました。
なお、本作は若竹七海さんが創造した架空の町・葉崎を舞台にした「葉崎市シリーズ」の第三弾です。話自体は独立していますが、別のシリーズ作品のキャラクターがちらりと登場したりします。シリーズファンとしては、なかなか嬉しい演出ですね。
十代ってこんな感じだよね度★★★☆☆
最後の一行がショッキングすぎる度★★★★☆
こんな人におすすめ
・人の悪意を描いた小説に興味がある人
・さくさく読める中編小説が好きな人
この作家さんは短編集しか読んだことないですが、評判が良さそうで楽しみです。
少ないページでのミステリーは読みやすそうです。
短編とはまた違った後味の悪さが楽しめますよ。
登場人物も限られているので、2時間もあればさくさく読み切れると思います。
ちなみに「青に捧げる悪夢」というアンソロジーに本作の続編が収録されているので、もし興味がおありならぜひ!