はいくる

「首無の如き祟るもの」 三津田信三

古今東西、創作の世界には様々なシリーズ物が存在します。中には作者が死去した後、弟子やプロダクション関係者が続編を作り続けている作品もあり、何十年もの長期シリーズと化すことも珍しくありません。この手のシリーズ物の魅力の一つは、「最後には水〇黄門が現れて悪党を成敗してくれるんだろうな」「十津〇警部が出てくるなら時刻表トリックが使われているのかな」等々、安定した世界観を楽しめる点でしょう。

ですが、長期シリーズ化した作品の中には、これまでのお約束から外れた<異色作>が登場することがしばしばあります。例を挙げるなら、例えばアガサ・クリスティーの『ビッグ4』。『名探偵ポワロシリーズ』の中の一作なのですが、ここでポワロが対峙するのは国際的な悪の組織です。秘密諜報員が出るわ立ち回りはあるわで、<ポワロ=上流階級を舞台にした犯罪者との頭脳戦>をイメージしていた私はかなりびっくりしました。今回は、そんなシリーズ物の中の異色作をご紹介したいと思います。三津田信三さん『首無の如き祟るもの』です。

 

こんな人におすすめ

おどろおどろしいホラーミステリーが読みたい人

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首のない化物の伝承が伝わる媛首(ひめかみ)村。三つの旧家が権力争いを繰り広げるこの村で、凄惨な事件が起こる。とある儀式の最中、村一番の名家の娘が首なし死体となって発見されたのだ。これはまさか伝説の化物の仕業なのか。村中が混乱状態に陥るも犯人は見つからず、事件はほぼ迷宮入り。そして十年後、名家の跡取り息子の花嫁を決める儀式で、再び血塗られた惨劇が・・・・・終章で、驚愕の真実が読者を襲う。『刀城言耶(とうじょう げんや)シリーズ』第三弾

 

<古い因習に縛られた田舎><権力者の座を巡って争う旧家><村に伝わる恐ろしい伝承><伝承通りに起こる連続殺人>等々、『金田一耕助シリーズ』を彷彿とさせる要素がてんこ盛りの本作。金田一耕助と違うのは、より怪異の存在がクローズアップされている点でしょう。実際、作中で登場する<首無(くびなし)><淡首様(あおくびさま)><淡媛(あおひめ)伝説>などの怪異譚はどれもこれもやたらと練り込まれていて、本当にこんな伝説が存在するんじゃないかと思うほどです。だからといって怪異の存在に頼りすぎることなく、最後にはきっちり論理的な謎解きが行われるところも嬉しいですね。

 

舞台となるのは奥多摩の山中にある媛首村。ここでは村の支配権を巡り、三つの旧家が争いを繰り広げていました。そんな中、村の現在の支配者・一守(いちがみ)家の子どもの成長を祈願する儀式が執り行われます。当初は無事に終わるかと思われたそれですが、一守家の娘・妃女子(ひめこ)が首なし死体となったことで事態は一変。関係者は右往左往するものの犯人は見つからず、十年の時が流れます。そして、一守家跡取りの妻を決める儀式の場で、第二、第三の事件が起こるのです。

 

本作で面白いのは、この物語が<実際に当時を経験した関係者の一人が、後年、小説の形で事件を振り返る>という体裁を取っている点。現在進行形で事件が起こっているわけでないので、当然、記述は作者の記憶や主観に左右されます。この描写は正確なのか、何一つ嘘はないのか、あれこれ考え出すと止まらず、さながら作中の山奥に迷い込んだかのような不安を味わえました。三津田作品定番の「ホラー?あ、ミステリーか・・・と思ったらやっぱりホラー!?」という二転三転っぷりも見物ですよ。

 

そしてもう一つ、忘れてはいけないのが、前述した通りこの作品が『刀城言耶シリーズ』の中で異色作であるという点です。通常、このシリーズでは地方の村や島で不気味な連続殺人が起こり、ふらりと訪れた作家の刀城言耶が解決するというのがお約束。ですが、本作ではそのお約束が破られます。どんな風に破られるかを書くとネタバレになってしまうので伏せますが・・・・・このあまりと言えばあまりな異色ぶりのせいもあり、本作はシリーズ第三弾であるにも関わらず、ここから読み始めても何の支障もない出来になっています。というか私自身、シリーズ物であることを知らず本作から読み始めましたが、まったく問題なく楽しめました。可能ならこの辺りの面白さをここで五千字くらい使って語り尽くしたいのですが、できないのが残念です(^^;)

 

地名や人名が難読ばかりな上、登場人物数が多いこともあり、決して読みやすいタイプの作品ではないと思います。ここはぜひ、時間がある時、家系図や時系列一覧表を作るくらいのつもりでじっくり読んでみてください。終盤、怒涛の勢いで謎解きがなされる展開といい、驚愕の真相といい、事件解決しつつも怪異の存在が示唆されるラストシーンといい、間違いなく一読の価値がある作品だと思います。

 

どんでん返しに次ぐどんでん返し!度★★★★★

怪異なんて結局は存在しない・・・?度☆☆☆☆☆

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