はいくる

「二年半待て」 新津きよみ

ここ数年、「○活」という言葉を聞く機会が急激に増えました。就職活動を略した「就活」はずいぶん昔から使われていましたし、二〇一二年には、人生の最期を自分の望むように準備する「終活」がユーキャン新語・流行語大賞のトップテンに選ばれています。人生のターニングポイントに関するものばかりではなく、朝に勉強や運動を行う「朝活」、体を温めて健康を増進する「温活」などもあります。

留まるところを知らず、あらゆる分野に広がっていく「〇活」。当然、小説のテーマになることも多いですね。そんな様々な「〇活」を取り上げた作品といえばこれ。新津きよみさん『二年半待て』です。

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母が頑なに語らない父親の存在、恋人が結婚するにあたって出した条件、予想外の方向へ向かう兄の恋路、老母の物忘れを危ぶむ女が直面した皮肉な現実・・・・・就職、結婚、妊娠、離婚など、様々な人生の岐路に立たされる女性の人生と、その意外な顛末を描いたミステリー短編小説集。

 

「就活」「婚活」「恋活」「妊活」「保活」「離活」「終活」を扱った七つの短編小説が収められています。どの話もさすがの安定感でさくさくと一気読み。また、これだけの「〇活」が存在することに、改めて驚かされました。

 

「彼女の生きる道」・・・元夫に引き取られた娘との間に確執を抱えるヒロイン。ある日、母親の仲介で娘と会う機会を得、自らの就活体験を話すことになる。父親を知らずに育ったヒロインの就活は決して楽なものではなかったが・・・

互いに決して悪意はないにもかかわらず、どうしても噛み合わない母娘の関係がリアリティたっぷりに描かれていました。そこに、「認知を得ないまま母子家庭でヒロインを育てた祖母」という存在を加えることで、物語に深みが出てきます。そして最後に明かされる女のしたたかさ・・・こういうの、嫌いじゃありません。

 

「二年半待て」・・・なかなか結婚に進まない恋人を持つヒロイン。家族からは結婚問題について突つかれ、もやもやが募るばかり。だが、誠実で優しい恋人が結婚に踏み切らないのには理由があった。

表題作なだけあって、タイトルの与えるインパクトは収録作中随一でしょう。結婚まで「二年半待て」とは一体どういう意味なのか。この恋人には賛否両論ありそうですが、こういう男の弱さを見捨てられない女も多いんだろうなぁ。

 

「兄がストーカーになるまで」・・・魅力的にもかかわらずなかなか恋人ができない兄のため、ヒロインは恋活をしてあげることにする。幸い、ぴったりの女性が見つかるも、兄から一つの要望が出され・・・・・

これは騙された!兄の恋路を応援する妹の奮闘記かと思いきや、後半のひっくり返りっぷりにビックリです。でも、確かに最初からそういう兆候はあったのかも・・・新津さんが優れたミステリー作家であることを実感できる話でした。

 

「遠い心音」・・・若くして結婚と出産を経験したヒロインのもとに、息子の結婚話が飛び込んでくる。相手が離婚歴のある女性と知り、驚きつつも受け入れるヒロイン。そんな彼女のもとに、息子の婚約者から手紙が届き・・

収録作品の中で、この話のヒロインが一番好きです。平凡ながら柔軟性があり素直。終盤の決断には賛成しかねるところもありますが、幸せそうなのでいいのかな。きっと息子夫婦との仲も円満にいくんだろうなと、すんなり思うことができました。

 

「ダブルケア」・・・義両親、実父の介護に追われる日々を経て、今は実母と孫娘の世話に明け暮れるヒロイン。そんな彼女の目下の悩み事は、実母の物忘れが激しくなったこと。将来を思って不安になるヒロインだが・・・

「兄がストーカーになるまで」と並び、収録作中でもミステリー色の強い一作。家族の面倒を見ることが体に染みついたヒロインの姿に、驚嘆と同時に切なさを感じます。ラスト数行で今後の悲劇が予想されるのですが・・・だ、大丈夫なの?

 

「糸を切る」・・・かつての友人夫婦が「離婚式」を執り行うと知り、複雑な思いに駆られるヒロイン。長く連れ添った夫の間には隙間風が吹いている。そんな時、離婚式を終えた友人と会う機会を得るのだが・・・・・

男女関係のままならなさを強く感じた作品でした。こういうボタンの掛け違いで別れる男女って、現実にもたくさんいるのでしょう。終盤、腹をくくって今後の戦いに臨もうとするヒロインが逞しいです。

 

「お片づけ」・・・死ぬ間際、祖母が旧姓に戻していたことを知り、驚くヒロイン。そんなことをするなんて、祖父との結婚生活によほどの不満があったのか。ヒロインは遺されたエンディングノートから祖母の真意を探ろうとするが・・・・・

「祖母の謎を、孫娘と交際相手(友人以上恋人未満)が解く」という、ドラマか映画になりそうな話です。長編にもなりそうなテーマを、あえて短編であっさり描くところが面白いですね。ミステリー好きだという交際相手のキャラがなかなかユニークで、孫娘との恋路を応援したくなりました。

 

新津さんは、こういう「人生の分かれ道に立つ女性」を書くのが本当に巧いですね。ですが、生きる上で分岐点を迎えるのは、何も女性に限った話ではありません。本作の主人公は全員女性でしたので、今度は同じテーマで男性主人公ものを書いてほしいと思うのですが、新津さん、お願いできませんか。

 

人生は分岐点の連続だよ度★★★★★

道を一歩踏み外したその先には・・・度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

・切れ味の良い短編集が読みたい人

・女性の人生をテーマにした作品が好きな人

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コメント

  1. しんくん より:

    どのストーリーも面白そうです。
    まさに人生のターニングポイントとなる「~活」をテーマにした作品に新津さんのセンスが入るとかなり面白そうです。
    「二年半待て」「兄がストーカーになるまで」が楽しみです。
    早速図書館で探してみます。

    1. ライオンまる より:

      ヒューマンストーリーあり、ミステリーありで、バラエティ豊かな一冊だったと思います。
      改めて〇活の多様さに驚かされました。
      こういう女性の人生の悲喜こもごもを描かせたら、新津さんは本当に巧いですね。

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