作家名

はいくる

「祝祭のハングマン」 中山七里

『必殺シリーズ』『怨み屋本舗』『善悪の屑』・・・ドラマや漫画として人気を博したこれらの作品には、一つの共通項があります。それは、何らかの事情で法の裁きを逃れた、あるいは裁かれたものの罪に不釣り合いな軽い刑罰だった標的を密かに裁く存在が出てくるということ。悲しいかな、罪を犯しておきながらのうのうとのさばる人間は、いつの世にも存在します。「誰かがあいつらに罰を与えてくれたらいいのに・・・」。法的な是非はともかく、そういう感情は誰しもあるでしょう。だからこそ、例に挙げたような作品が人気を集めるのかもしれません。

ただ、仕置き人稼業を扱った作品を探してみると、漫画か、もしくは時代劇が多く、現代を舞台にした小説は少ない気がします。設定上、絵的に映える展開が多かったり、時代劇の方が復讐代行を行いやすかったりするからでしょうか。ですから、この作品を読んだ時は、なんだか新鮮な気分でした。中山七里さん『祝祭のハングマン』です。

 

こんな人におすすめ

復讐代行人が出てくる小説が読みたい人

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はいくる

「愛に似たもの」 唯川恵

愛とは決して後悔しないこと、最後に愛は勝つ、愛は地球を救う・・・愛に関する有名な台詞や歌詞、格言は数えきれないほど存在します。愛はキリスト教で最大のテーマとされていますし、日本においても、年齢や性別の枠を超えた深く広い慈しみの感情として捉えられることが多いです。お金や権力を求めるのは何となく卑しい気もしますが、<愛のため>というお題目があると、気高く誠実なもののような気がしますよね。

ですが、これはちょっと危険な考え方なのかもしれません。何しろ愛には決まった形があるわけでもなく、人によって無限に捉え方が変わるもの。本人にとっては<愛>でも、他人からすればまったく違うものだということもあり得ます。この作品では、愛のように見えてどこか違う、様々な感情が描かれていました。唯川恵さん『愛に似たもの』です。

 

こんな人におすすめ

女性のどろどろした感情をテーマにした小説が読みたい人

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「ばくうどの悪夢」 澤村伊智

一説によると、人間の三代欲求(食欲、睡眠欲、性欲)の中で一番緊急度が高いのは<睡眠欲>だそうです。「あれ、食欲じゃないの?」と思う向きもありそうですが、なかなかどうして、睡眠を侮ることはできません。食欲の場合、<断食>が一部の宗教や健康法に取り入れられていることからも分かる通り、適切な条件下での制限なら、心身を害することはありません。対して睡眠欲の場合、満たされない場合の肉体的・精神的なダメージは計り知れないものがあります。眠らせないという拷問が存在することが、その証と言えるでしょう。

そして、心ゆくまで睡眠欲を満たすために意外と無視できないのが<夢>です。いい夢を見れば、翌朝の目覚めも心地良いもの。一方、たとえ寝ること自体はできたとしても、毎日毎日悪夢ばかり見る羽目になれば、睡眠は地獄と化すに違いありません。意識的に夢を作ることは難しいですが、できるだけ環境を整え、いい夢を見たいものですね。今回取り上げるのは、夢にまつわるホラー小説、澤村伊智さん『ばくうどの悪夢』です。

 

こんな人におすすめ

夢をテーマにしたホラー小説に興味がある人

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「方舟」 夕木春央

ミステリーやホラーのジャンルが好きで、<クローズド・サークル>を知らない方は、恐らくいないでしょう。単語を聞いたことがなくても、「外界と往来不可能な状況で事件が起こる様子を描いた作品のことだよ」と説明されれば、きっとピンとくると思います。嵐の孤島や吹雪の山荘、難破中の船・・・脱出困難な状況で怪事件が起き、「誰が犯人なのか」「次は自分が殺されるのか」と疑心暗鬼に駆られる登場人物達の姿は、多くのミステリーファンをハラハラドキドキさせてくれます。

ただ、現実的な目線で見てみると、クローズド・サークル作品には「なんでわざわざこんな状況で事件を起こすの?」という疑問がついて回ります。なるほど、確かに脱出困難な状況ならば、標的を逃さず仕留めることができます。その標的のことが憎い場合、より恐怖と不安を与えられるというメリットもあるでしょう。反面、外部と行き来できない分、犯人自身も逃亡できなかったり、犯行を見破られるリスクも高まったりします。よって、クローズド・サークル作品を面白くするためには、この辺りをどう上手く料理するかが重要な鍵となるわけです。でも、こんな形でクローズド・サークルを作った作家さんは、この方が最初ではないでしょうか。今回ご紹介するのは、夕木春央さん『方舟』です。

 

こんな人におすすめ

・クローズド・サークル系のミステリー小説が好きな人

・絶望感溢れるどんでん返しが読みたい人

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「せせらぎの迷宮」 青井夏海

皆さんは文集を作った経験があるでしょうか。私の場合、小学校と中学校で、最低でも年に一回は文集を作った記憶があります。私は作文を書くことが好きだったのでそれほど苦ではありませんでしたが、苦手な子にとっては苦行でしかなかった様子。そんな生徒達のモチベーションを上げ、文集の体裁を整えられるだけの作文を集め、冊子としてまとめなくてはならないのですから、先生達もさぞ大変だったろうなと思います。

ただ、今になって文集に載った自分の文章を読み直してみると、恥ずかしくて頭を抱えたくなることがままあります。文章が拙いのは仕方ないとして、妙に傲慢だったり、甘えが過ぎたり、世間知らずにも程があったり・・・子どもって怖いものなしだなと、ため息つきたくなることもしばしばです。自分の書いた文章のせいで、自分が恥ずかしい思いをするなら、ある意味、仕方ないかもしれません。でも、それが、他人に影響を及ぼすことだったらどうでしょうか。それはきっと、恥ずかしいでは済まされない、生涯の後悔となることでしょう。今回ご紹介する小説にも、ほろ苦い記憶が封じ込められた文集が登場します。青井夏海さん『せせらぎの迷宮』です。

 

こんな人におすすめ

子どもの悪意にまつわるミステリーが読みたい人

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「死者の学園祭」 赤川次郎

恋愛、ミステリー、ホラー、SF、歴史、コメディ・・・創作物の世界には、たくさんのジャンルがあります。となると、人によって好みのジャンルが分かれるのは自然の摂理。「恋愛小説は大好きだけど、人が死ぬ話は嫌」とか「現代が舞台じゃないと感情移入しにくいから、歴史小説は苦手だな」とか、色々あるでしょう。もちろん悪いことではありませんが、個人的には食わず嫌いをせず、どんなジャンルの作品でも一度くらい試した方が楽しいのでは?と思います。

ただ、苦手だと思っていたジャンルに手を出す場合、いきなり重厚な大長編作品や、解釈が難解な作品を選ぶのはやめた方がいいですよね。どんなジャンルにせよ、ある程度読みやすく、オチが分かりやすく、すんなり物語に入り込める作品をチョイスするのが吉ではないでしょうか。もし「今までミステリーは避けてきたけど、一冊くらい読んでみようかな」という方がいれば、第一作目はこれをお勧めします。赤川次郎さん『死者の学園祭』です。

 

こんな人におすすめ

瑞々しい青春ミステリーが読みたい人

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「千年図書館」 北山猛邦

創作物の中には<チラ見厳禁>というタイプの作品が存在します。何気なくチラッと見た一場面、一ページが強烈なネタバレになってしまい、クライマックスの面白さが半減する・・・やはり、どうせなら順序通り物語を追い、登場人物達と共にラストの余韻を堪能したいものです。

この手の作品の筆頭格と言えば、映画『猿の惑星』ではないでしょうか。猿達が支配する世界で、チャールトン・ヘストン演じる主人公が最後に見たものの正体。あの衝撃、あの絶望感は、いきなりラストシーンだけをチラ見しては半減してしまうと思います。今回取り上げる作品にも、中に一ページ、とんでもないネタバレが仕込まれています。終盤の驚きを楽しみたい方は、決してページをぱらぱらめくらないよう注意してくださいね。北山猛邦さん『千年図書館』です。

 

こんな人におすすめ

切ないどんでん返しが仕掛けられた短編集が読みたい人

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「ママにグッバイ」 ハイラ・コールマン

小学校高学年から中学生にかけて、海外の児童小説にハマった時期があります。友達とのパジャマパーティー、珍しいアイスやケーキ、信じられないくらい長い夏休み、ボーイフレンドと出かけるダンスパーティー・・・外国ではこんなお洒落な生活が送れるのかと、うっとりしながら読みふけったものです。

もっとも、きらきらしているだけに見えたのは私の読み方が浅かったからで、しっかり内容を考えれば、そうそう甘いことばかり書いていたわけじゃなかったと分かります。イリーナ・コルシュノフの『ゼバスチアンからの電話』では世代を超えたジェンダー問題を、ウィロ・デイビス・ロバーツの『ねじれた夏』では田舎の入り組んだ人間関係を、キット・ピアソンの『丘の家、夢の家族』ではネグレクトに苦しむ子どもの戦いを、とても丁寧に描いていました。今回取り上げる小説も、改めて内容について考えてみた時、その深さと重さに驚いた記憶があります。ハイラ・コールマン『ママにグッバイ』です。

 

こんな人におすすめ

毒親問題に関心がある人

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「聯愁殺」 西澤保彦

<多重解決ミステリー>と呼ばれるミステリー作品があります。これは、複数の探偵役が試行錯誤・推理合戦を繰り返しながら真相に迫っていくタイプのミステリーのこと。傑出した天才名探偵がいないことが多い分、探偵役に感情移入がしやすい上、新説が披露されるたび新たな驚きと楽しみを味わうことができます。

多重解決ミステリーの例を挙げると、歌野晶午さんの『密室殺人ゲームシリーズ』、辻村深月さんの『冷たい校舎の時は止まる』。海外作品なら、アントニイ・バークリーの『毒入りチョコレート事件』などが有名です。そして、この手の作品なら、やっぱり西澤保彦さんを外すことはできません。今回ご紹介するのは『聯愁殺』。多重解決ミステリーの醍醐味を存分に堪能できました。

 

こんな人におすすめ

多重解決ミステリーを読みたい人

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「そこに無い家に呼ばれる」 三津田信三

鏡にだけ映る人影、無人の部屋から聞こえるすすり泣き、捨てたはずなのに戻ってくる人形・・・ホラー作品の定番といえる設定ですが、これらには共通点があります。それは<ないはずのものが在る>ということ。自分以外誰もいないはずなのに鏡に人影が映ったり、空室から人の声が聞こえたりしたとすれば、その恐ろしさは想像を絶するものがあります。

では、<あるはずのものがない>ならばどうでしょうか。それだって十分不気味なはずですが、どういう状況かぱっと思い浮かびにくい気がします。というわけで、今回ご紹介するのはこちら。三津田信三さん『そこに無い家に呼ばれる』。本来そこにあって然るべきものがない・・・そんな怖さをたっぷり味わえました。

 

こんな人におすすめ

・幽霊屋敷を扱ったホラー短編集が読みたい人

・実話風ホラーが好きな人

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