はいくる

「209号室には知らない子供がいる」 櫛木理宇

暖冬だ暖冬だと言われ続けてきましたが、ここ数日で一気に寒くなりました。この辺りはさすがに積もりこそしないものの、一日に何度か雪がちらつき、風の冷たさも痛いほど。寒いのが苦手な私は、すっかりコタツに根を生やしてしまっています。

こういう寒い日、欧米では家族や友人と怪談話に興じるんだとか。日本では「ホラー=夏」というイメージがありますが、ただでさえ昼が短い冬の間、怖い話で夜を楽しく過ごすというのもオツなのかもしれませんね。先日、背筋の寒さに拍車をかけるようなホラー小説を読んだのでご紹介します。櫛木理宇さんの連作短編集、「209号室には知らない子供がいる」です。

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愛する夫と息子に囲まれて専業主婦生活を送る菜穂、柔和で愛らしい姑に家事一切を任せて仕事に打ち込む亜沙子、片思いしていた男やもめの上司と再婚を果たした千晶、元婚約者からの慰謝料で人生の再スタートを切ろうとする和葉。川沿いの高層マンション「サンクレール」に住む彼女たちの前に、ふとしたきっかけで「葵」と名乗る少年が現れる。209号室に住む、身なりのいい美少年の葵だが、彼と関わるにつれ、女性達の生活は静かに狂い始める・・・葵は一体何者なのか。やがて209号室のオーナー・羽美が知る、戦慄の真実とは。

 

精神をじわじわ蝕まれるようなイヤミスがお得意の櫛木理宇さんですが、本作は人外の存在が登場するホラー小説。とはいえ、単に「お化けが出てきました。怖かったね」で済ませないところが、この作家さんの巧いところですね。フィクションならホラーだろうとサイコスリラーだろうとどんと来いの私ですが、久々に体がゾッとする感覚を味わいました。

 

各話に登場するのは、小奇麗なマンションで穏やかに暮らす普通の女性達です。人に大迷惑をかけるわけでも、大それた望みを抱くわけでもなく、毎日を気持ち良く過ごせればそれでいいと考える主人公たち。そんな彼女たちの人生が、マンションの209号室に住む「葵」と出会ったことで徐々にねじれ、破滅していく・・・この「徐々に」の描写が本当に生々しく、ページをめくりながら「もう許してやってよ」とため息をつきたくなるほどでした。

 

本作で一番怖いと感じたのは、「葵」は未知の恐怖を連れて来るわけではなく、女性達がもともと持っていたコンプレックスや問題点を刺激しまくるという点です。大らかと見せかけて幼稚で無責任な夫、依存心が強く自立できない姑、子連れ再婚への偏見と懐かない継子、無神経で身勝手な家族との確執・・・本来なら目をつぶれるはずだったそれらの不満が、葵の出現によって増長され、女性達を追い詰めていきます。またこの不満の数々が、インターネットや雑誌の人生相談コーナーに溢れ返っているような内容である分、余計に恐怖を感じますね。

 

ただやみくもに怖いだけではなく、人間の業の哀しさや愚かさも描かれていますし、最後の最後まで気の抜けない展開も見事です。本の帯にしっかり「ホラー」と書いてあるだけあって論理的な謎解きがあるわけではありませんが、ジャパニーズホラーが好きな方ならきっと楽しめるのではないでしょうか。寒い冬の怪談話、けっこういいものですよ。

 

・謎の子どもにはご用心度★★★★★

・つけ入れられる隙を見せちゃだめ度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

・ジャパニーズホラーが好きな人

・短編形式のホラー小説が読みたい人

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