「悪女」と聞くと、どんな女性を思い浮かべるでしょうか。武器を手に刃向う相手をバッタバッタとなぎ倒す女丈夫?それとも、色仕掛けで男性を手玉に取るセクシータイプ?
私のイメージする「悪女」は、決してスポットライトを浴びることなく、人から恨みを買うこともなく、水面下でひっそりと行動し利益を得るタイプです。そんな女性が登場する作品、「どんでん返しの帝王」の異名を取る、中山七里さんの「嗤う淑女」を紹介します。
冴えない容姿と病弱な体のせいでイジメに遭う少女、ストレス解消のため買い物依存症に陥る銀行員、身勝手な夫と生活苦に悩まされるパート主婦・・・・・彼らの前に颯爽と現れ、女神のような優しさと知恵を与えてくれる美女・美智留。その魅力に抗いきれず、ある者は秘密を打ち明け、ある者は金を差し出し、ある者は人を殺す。悪女の甘い言葉に魅了されて転落していく人々の運命と、思いがけない美智留の正体を描く、ダークミステリの決定版。
何が凄いって、ダークヒロイン・美智留が凄すぎる!天性の美貌と話術、豊富な知識を活かして人に取り入り、利用し尽くし、最後は虫けらのように踏みにじる姿はまさに悪女。散々な目に遭わされながら、利用された側が最後まで美智留を恨んでいない所からも、彼女の悪辣さが伝わってきます。
そんな美智留に魅了されるのは読者も同じ。作中で語られる美智留の悲惨な過去に、彼女が悪人と知ってなお、ついつい同情してしまいそうになります。この辺りの描き方が本当に秀逸で、改めて作者の筆力の凄さを感じました。
また、中山七里といえば、作品ごとに世界観や登場人物がリンクしていることが特徴ですが、今作でもそれは同様です。中山作品のファンならば、登場する刑事や検視官の名前にわくわくするでしょう。もちろん、彼らの名前を知らなくても物語には何の影響もないので、他作品を読んだことのない方でも心配いりません。
さらに、読者お待ちかねのどんでん返しもしっかり仕掛けられています。しかも、今回は衝撃が二段構えで襲ってくる構成になっており、ラスト一ページまで気を抜けませんでした。タイトルがなぜ「笑う」ではなく「嗤う」なのか・・・ぜひ最後まで読んで、その意味を確かめてください。
悪女もここまで来ると凄い度★★★★☆
人間って哀しくて愚かだね度★★★★☆
こんな人のおすすめ
・ダークヒロインが出てくる作品が好きな人
東野圭吾の「白夜行」「幻夜」 宮部みゆきの「火車」より上手にさえ思う悪女ぶりに感心しました。
御子柴弁護士や犬養刑事でも手に負えないのでは?と思うほどでした。
並み居る中山ワールドの猛者たちでさえ気圧されてしまいそうなほどの悪辣さでしたね。
過去作の登場人物が再登場することも多いので、いずれまた出てきてほしいと思います。