はいくる

「ネバーランド」 恩田陸

昔から私が憧れてやまないものの一つ、それが「寮生活」です。きっかけは、たぶん『あしながおじさん』を読んだことでしょう。親元を離れ、同年代の少年少女が集まって共同生活を送る。ルームメイトと夜中までお喋りしたり、食堂でみんなと食事したり、週末はパーティーが開かれたり・・・もちろん、実際の寮生活には苦労も多いと分かっていますが、憧れる気持ちは今でもしっかり残っています。

世界的に有名な『ハリー・ポッター』シリーズをはじめ、寮が登場する創作作品はたくさんあります。どちらかというと海外を舞台にしていたり、ファンタジーや漫画寄りだったりする作品が多い気がしますが、等身大の若者が出てくる作品も色々ありますよ。たとえばこれ。恩田陸さん『ネバーランド』がそうです。

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大らかな寛司、優等生の光浩、天才肌の統とともに、冬休みを寮で過ごすことにした男子高校生・美国(よしくに)。伸び伸びと居残り生活を送る四人だが、クリスマスイブの夜に始めた「告白」ゲームが、穏やかな日常に波紋を投げかける。ゲームを通じて次々明らかになる少年たちの秘密、突如出現した謎の人形、寮内で起こる幽霊騒ぎ・・・・・古い寮は、果たして彼らにとって「ネバーランド」となりえるのか。ノスタルジアの魔術師が贈る、胸に染み入る青春小説。

 

恩田陸さん自ら、「萩尾望都さんの『トーマの心臓』を念頭に置いて書いた」と話していることもあり、もっと切ない展開を想像していましたが、こちらの読後感は至って爽やか。生徒四人だけの寮で繰り広げられる男子高校生たちの日常。分担して作る料理、深夜まで続く酒盛り、思いつきで始めたホットプレート探し、遊びのはずが段々と本気になってくるテニス、彼らを取り巻く凛とした冬の空気・・・これらの描写が臨場感ある上に美しく、少年たちのかげがえのない日常が目に浮かぶようでした。

 

とはいえ、彼らの冬休みは平穏だけでは終わりません。酒盛りの余興として始めた「告白」ゲームにより、一人一人の抱える秘密が少しずつ明らかになっていきます。この秘密というのが誘拐に児童虐待、親の自殺など、重苦しい内容のオンパレード。それまでの四人が、名門校に通う、文武両道で恵まれた少年というイメージだった分、背負った過去のあまりの重さに胸が痛くなりました。彼らがその過去をどう受け止め、乗り越えていくのか。それが本作のテーマの一つでもあります。

 

思えばこの物語って、寮内に四人だけがいるという、特殊な状況でのみ成立する話なんですよね。学生が主人公の小説というと、普通、クラスメイトや教師がぞろぞろ出てくるものですが、本作で校内にいるのは基本的に四人だけ。もし他の生徒たちがいる状況なら、四人がこんな風に悪ノリして笑ったり、大喧嘩して気まずくなったり、互いの過去を受け止めて悩んだりすることなどなかったでしょう。そう思うと、彼らにとって寮で過ごしたこの冬休みは、まさにネバーランドで過ごした時間と言えると思います。

 

いくつか事件は起こるものの謎解き要素は薄く、ミステリーを期待して読むと肩透かしを食らう可能性大です。とはいえ、少年たちの生き生きとしたキャラクター像、どこか懐かしい馬鹿騒ぎの様子、相変わらず美味しそうな食べ物描写など、読んで損はないはずです。欲を言えば、短編でもいいので、二十年くらい経って大人になった四人の姿が見てみたいなぁ。恩田陸さん、お願いできませんか!?

 

青春時代って残酷だけど眩しい度★★★★☆

彼らの未来に幸あれ度★★★★★

 

こんな人におすすめ

少年たちの青春グラフティが好きな人

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コメント

  1. しんくん より:

    面白そうな内容ですね。大学は寮で暮らしたので楽しい生活を思い出します。
    限られた空間での密室ミステリーというより夜のピクニックに近い作風でしょうか?
    「蜜蜂と遠雷」が届いたけどまだ読んでいないので、チェックしておきたいですね。

    1. ライオンまる より:

      はい、「夜のピクニック」に近い青春物語です。
      ただ、本作の方がボニューム・登場人物ともに少ない分、より読みやすいと思います。
      男性目線だと「男子高校生が清潔すぎる」という感想が多いようですが(笑)、オススメの一冊ですよ。

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