ひと頃、学園ものにハマっていた時期がありました。成長過程にある少年少女の人間模様とか、学校特有の閉塞感とか、子どもであるが故の残酷さとか、もう大・大・大好物。小学生や大学生メインでも面白い作品はたくさんありましたが、一番読み漁ったのは中学生・高校生が主役になる小説です。この世代の、子ども一辺倒ではないけれど大人にもなりきれていないアンバランスさが、物語を盛り上げるのに一役買っていた気がします。
ティーンエイジャー主役の小説は、今までブログ内で何冊も取り上げてきました。瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』、中山七里さんの『TAS 特別師弟捜査員』、柚木麻子さんの『王妃の帰還』などがそれに当たります。これらは、現代の日本に住む普通の(?)の少年少女が主人公でしたので、今日は少し趣を変え、ファンタジーの香りが漂う小説をご紹介したいと思います。恩田陸さんの『麦の海に沈む果実』。思えば私が学園ものにハマってきっかけは、この本だった気がするな。
こんな人におすすめ
学園を舞台にしたダークミステリーが読みたい人
三月以外にやって来た転校生は破滅をもたらす---――謎めいた全寮制の学園に転校してきた記憶喪失の少女・理瀬。一風変わった教育方針に戸惑いつつも馴染んでいく理瀬だが、やがて周囲で不可解な事件が起こるようになる。閉ざされた学園内から消える生徒達、図書室にあるという曰く付きの本の行方、校長が実施する交霊会の真実。そしてハロウィンの日、残酷な真実が明らかになる・・・・・恩田ワールドの真骨頂。哀しくも美しい学園ミステリーの傑作
<恩田陸さんの著作で一番好きなのはどれ?>というアンケートを実施したら、本作は間違いなくベスト3の中にランクインするでしょう。全編に漂うミステリアスで幻想的な雰囲気は、まさに<ノスタルジアの魔術師>と評される恩田陸さんの本領発揮。途中までダークファンタジー風のムードをたっぷり味わわせておきながら、最後はしっかり現実に帰結するところ、曖昧な部分を残さず謎解きが果たされるところも好感度大です。
冒頭、主人公の理瀬は、どことも知れぬ湿原(恐らく北海道)に建つ全寮制の学園に転校してきます。理瀬は、原因は不明ながら過去の記憶を失っていました。そのせいでつい消極的に振る舞ってしまいがちですが、ルームメイトの憂理をはじめ気の置けない仲間もでき、どうにか普通の学園生活を送り始めます。ですが、穏やかな日々は長くは続きませんでした。理瀬が来て以降、学園内で相次ぐ不気味な殺人や事故死。この学園には<三月以外の時期にやって来た転校生は破滅をもたらす>という伝説があり、二月に転校してきた理瀬は魔女だと噂されるようになったのです。また、自分が転校してくる以前にも生徒失踪事件が複数起きていたことを知った理瀬は、友人達の協力のもと、謎を解き明かそうとします。しかし、そこに待ち受けていたのは、想像を絶する残酷な真実でした。
と、こういったあらすじからも分かる通り、本作の空気は終始重めで暗め。生徒達はどんどん死ぬわ、いじめや児童虐待の描写もあるわで、最初はちょっと取っつきにくそうに思えるかもしれません。ですが、ひとたびページを開いてみると、驚異的なまでのリーダビリティの高さによって、ラストまで一気読みしてしまうこと必至です。実は単行本だと四一八ページもの分量があると後で気づき、驚いた読者も多いのではないでしょうか。
読みやすさの理由の一つとしては、恩田陸さんの筆力の高さもさることながら、舞台となる学園や登場人物達がどこか異国風な雰囲気を漂わせているせいかもしれませんね。本作の物語が展開するのは、某英国魔法学校を彷彿とさせる全寮制の中高一貫制学園です。教師陣や生徒達も日本人離れしたエキゾチックなタイプばかりであり、いい意味で現実味を感じさせません。これが都内の高校とかが舞台だったら、生々しすぎて憂鬱な気分になりそうです。
そして、この学園の設定が最高にダークファンタジー好きの心をくすぐるんですよ。特殊な才能を持つ子たちの<養成所>であり、名家の子女を保護する<ゆりかご>でもあり、存在を歓迎されない子どもの<墓場>でもあるという学園には、様々な立場の生徒達が集います。彼らは名字を奪われてファーストネームで呼び合い、学年を超えて生徒十二名で<ファミリー>を形成して結束し、お茶会や五月祭やハロウィンパーティーを開催する・・・うーん、なんて耽美!また、こうした学園のあれこれが、クライマックスの真相解明にちゃんと繋がっているという構成も面白かったです。分かってみると、お茶会のシーンは怖いなぁ・・・
最後にはミステリー的などんでん返しもありますし、ファンタジーと推理、両面で楽しめる傑作だと思います。なお、本作の続編『黄昏の百合の骨』が二〇〇四年に刊行されていますが、三作目『薔薇の中の蛇』が二〇二〇年八月に連載終了したとのこと!ということは、近々単行本として出版されるんでしょうか。待ち遠しすぎてわくわくそわそわしてしまいます。
真相が知れた後は、幸せな場面さえも哀しい・・・度★★★★☆
最後の豹変にはびっくり!度★★★★★
最初の写真~リンゴを手に乗せた写真はテレビドラマ「不揃いの林檎たち」のオープニングを思い出しました。
時代的にはご存知ないかも知れませんがそんな不思議な雰囲気を感じる作品です。
読んでいると「ハリーポッター」の魔法学校の寄宿舎のようなイメージです。
恩田陸さんは「蜜蜂と遠雷」「真夜中のピクニック」以外あまり印象に残っていないですがこの作品は印象に残りそうです。
「ふぞろいの林檎たち」は知ってますよ。
あれは大人になりつつある若者達の群像劇ですが、本作の主役はティーンエイジャー。
しかも、「夜のピクニック」などとは違い、恩田陸さんの少年少女ものにしては珍しくダークな雰囲気です。
他作品に出てくるキャラクターもちらほらおり、ファンにとっては嬉しい一冊でした。