ある日突然、病気で余命宣告されたら。そんな状況に直面した時、人はどういう行動を取るのでしょうか。愛する人とたくさん思い出を作る?やり残した大仕事を片付ける?百人に聞けば百通りの答えが返ってくると思います。
悔いなく最期の瞬間を迎えるための活動「終活」は、今や社会現象となりつつあります。終活を通じて心の整理を行い、限りある人生を豊かに送る人もいるでしょう。反面、終活を行うことで、忘れたい過去を掘り返すことになったりして・・・そんな「黒い終活」を描いた作品がこれ。真梨幸子さんの『カウントダウン』です。
人気エッセイストとして不動の地位を築いた主人公・亜希子は、ある日、病で余命半年だと宣告される。混乱しながらも現実を受け止め、旧知の仲である百貨店外商・涼子とともに終活を開始した亜希子。苦い結婚生活の末に別れた元夫、その夫を略奪した妹、亜希子と同じく病で闘病中の元同僚、汚部屋と化したまま放置されたマンション。様々な思いとぶつかりながら、亜希子が迎える「最期の時」とは・・・・・
「イヤミスの女王」と呼ばれるだけあって、人間関係が入り乱れた愛憎劇に定評のある真梨幸子さん。そんな彼女の作品にしては、本作の登場人物は比較的少な目で、ドロドロ度合もマイルドです。とはいえ、決して後味が良いわけではなく、マイルドな分、「こういうことって現実にもありそう」と思わされました。
余命半年を宣告され、終活を開始した亜希子には、片付けなくてはならない問題が山ほどあります。「お掃除コンシェルジュ」として名を馳せながらマンションは荒れ放題だし、夫を妹に略奪されたという経緯から実家とは疎遠中。苦手だった元同僚は奇しくも同じ病に冒されていますが、闘病を綴った人気ブログの中では亜希子のことも面白おかしくネタにされていて・・・などなど、亜希子の心が休まる暇もありません。
亜希子の回想の中で、彼女は要領が悪く貧乏くじを引いてばかりの被害者です。会社員時代から他人の身勝手さの側杖を食らい、結婚生活は上手くいかず、離婚理由は実の妹による略奪不倫。おまけに今度は不治の病になるなんて!と青色吐息の亜希子。
ですが、忘れてならないのは、これがあくまで亜希子の一方的な見方であるということです。終盤、登場人物たちが亜希子について語り出すのですが、ここでの伏線回収の見事さ、物語のひっくり返りっぷりは何とも秀逸。単純に「実は本当の加害者は亜希子でした。おしまい」ではないところが凄いですね。
作品にぶっ飛び設定が出てくることの多い真梨さんですが、本作での終活の描き方はいたって丁寧。「汚部屋」「ネットストーカー」など、現実味たっぷりの要素も盛り込まれていて、中だるみすることなく一気読みできました。ちなみに私が一番驚いたのは、ラストのオチではなく、本作がファッション誌「大人のおしゃれ手帖」に連載されていたということ。いや、真梨さんといえば人気作家だけど・・・・・カ、カラーが違いすぎない?
後悔のない最期を迎えよう度★★★★★
まさかあそこがここに繋がるなんて・・・度★★★★☆
こんな人におすすめ
・「終活」を扱った小説に興味がある人
・軽めのイヤミスが読みたい人
真梨幸子さんにしては読みやすい作品でした。
残された人生をどう生きるか?自分の死んだ後のことを冷静に考えたまさに終活の考え方の一つでした。敢えて延命治療をしない生き方を選んだ主人公の生き方も現代的だと感じました。妹や元同僚との考え方の相違とラストのオチも面白かったです。
終活にコミカルを加えるのが作者らしいのかな~と感じます。
作品をこれでもかこれでもかとドロドロさせる真梨幸子さんにしては、テンポ良く軽妙な作風でしたね。
相談相手が凄腕外商というところなど、妙に現代的だと思います。
自分が余命宣告をされたらどうするか・・・そんなことを考えてしまいました。