私が面白いと思う作品には、名コンビが登場することが多いです。ホームズの横にはワトソン、ポアロの横にはヘイスティングズ。異なる長所を持つ二人が助け合い、自分の持ち味を活かして物事に臨む様子は、読んでいてわくわくさせられます。
最近は、パートナーが動物や悪魔など人外の存在だったり、主人公と仲が悪かったりするなど、ユニークなコンビが登場する作品もありますね。では、この作品に出てくる二人はどうでしょうか。柚月裕子さんの『合理的にあり得ない 上水流涼子の解明』です。
とある事件により法曹界を追い出された元弁護士・上水流(かみづる)涼子、IQ140の万能アシスタント・貴山「殺し」「傷害」以外なら何でもござれという探偵稼業を営む二人のもとには、今日も様々な依頼が舞い込んでくる。自称・超能力者に依存する二代目社長、妻が詐欺師に金を貢いでいると知った資産家、将棋の対戦相手の腕前が不自然に上がったことを怪しむヤクザ・・・「あり得ない」依頼を次々と解決する痛快ミステリー!
ここ最近、『孤狼の血』『慈雨』といった胸にずっしり響く作品の多い柚月裕子さんですが、本作は打って代わって軽妙そのもの。短編集ということもあり、さくさく読むことができました。美貌の探偵・涼子と頭脳明晰なアシスタント・貴山のコンビネーションも絶妙で、『必殺仕事人』を見ているかのような痛快さがあります。
「確率的にあり得ない」・・・人格者だが決断力に欠ける二代目社長・本藤は、ある出来事をきっかけに、高円寺という男の言いなりになってしまう。高円寺は、目に見えない物事を見通す千里眼の持ち主で・・・
一話目にふさわしく、主役コンビの優秀さが遺憾なく発揮された作品。高円寺の嘘を暴くやり方もなかなかスマートで、「おおー」と簡単の声を上げてしまいました。本藤のように「決して悪い人じゃない」人ほど、詐欺に引っかかりやすいのかもしれませんね。
「合理的にあり得ない」・・・バブル期に大儲けし、今は悠々自適の生活を送る神崎。引きこもりの息子がいること以外は、特に不自由のない毎日だ。だが、ある時、妻が無断で大金を使っていることを知る。調査の結果、妻は女詐欺師に金を渡していると判明し・・・
何不自由ないように見えて、次第にアラだらけだと分かる神崎の生活。そりゃ息子も荒れたくなるわなぁ。妻の魂の叫びが痛々しいです。そして、タイトルの意味がなんとも深い・・・・・
「戦術的にあり得ない」・・・暴力団総長同士の将棋対決。依頼者の日野は、対戦相手である財前の腕前が急速に上達していることに不信感を抱いていた。もしや不正があるのでは?証拠を掴むため涼子たちが仕掛けた罠とは?
前の二話では涼子の方が目立っていましたが、この話では貴山が活躍します。東大将棋部主将だった知識と経験を活かして立てられた計画はなかなか見物。暴力団の闇をも上回る策士ぶり、素敵です。
「心情的にあり得ない」・・・恋人を巡るいざこざから家出してしまった孫娘を連れ戻したいという依頼。実は依頼者の諫間は、かつて涼子を陥れ、弁護士資格剥奪という憂き目に遭わせた人物だった。果たして涼子は、依頼をこなすのと同時に諫間に一矢報いることができるのか。
この話で涼子が弁護士を辞める羽目になった経緯と、貴山との出会いが分かります。こんな目に遭えば、そりゃ復讐したくもなるでしょう。と同時に、憎い相手でも依頼は完璧にこなす涼子の手腕に脱帽です。また、今回から登場する、口は悪いがけっこう頼りになる刑事・丹波もなかなか面白いキャラクター。今後活躍するのかな?
「心理的にあり得ない」・・・涼子たちのもとに、自殺した父の借金の謎を解いてほしいという依頼が来る。依頼者の父親は、どうやら野球賭博に手を出した形跡があるらしい。真相を暴くため、涼子と貴山は一つの計画を練り・・・・・
収録作品中、「そうだったのか!」感が一番強かったのがこの話です。テーマとなるのが少し前に話題になった野球賭博ということもあり、ハラハラしながら読みました。賭博の闇の深さを垣間見ることもでき、色々考えさせられる一作です。
あちこちのレビューでも言われていますが、本作はドラマ化しても面白そうです。主演はやっぱり米倉涼子さんかな。貴山役は意見が分かれているようですが、個人的には西島秀俊さんを推したいですね。
二人のチームワークに拍手!度★★★★☆
ぜひともシリーズ化を希望します度★★★★★
こんな人におすすめ
さくさく読める短編ミステリが好きな人
短編集でも見事な展開に読みやすい作品でしたね。
涼子の見事な采配に貴山との関係が見事にハマってました。
ドラマにするなら貴山役は小栗旬も良いかな~と思います。
涼子と貴山の恋愛はあり得ない~でしょうか?
小栗旬!いいですね(^^)v
スーツ似合うし、硬軟使い分ける貴山のキャラを上手く表現してくれそうです。
私としては、涼子との恋愛もアリですよ。