「盲目的」という言葉を辞書で引くと、「愛情や情熱・衝動などによって、理性的な判断ができないさま」とあります。文字通り、目が見えなくなるほど強い感情。そんな感情に突き動かされて誰か・何かを思うのは、果たして幸せなことなのでしょうか。
フィクションの世界には、盲目的な愛情や友情、嫉妬心に憎悪などがしばしば登場します。良いものであれ悪いものであれ、五感を狂わせるくらい強烈な感情というのは、創作物のテーマにしやすいんでしょうね。今日は、あまりに強く恋と友情にのめり込んだ女性達の物語を紹介します。瑞々しく希望のある作風で有名な辻村深月さん。そんな彼女にしては珍しいイヤミス作品『盲目的な恋と友情』です。
元タカラジェンヌを母に持ち、近寄りがたささえ感じさせる美貌の持ち主である蘭花。容姿に強いコンプレックスを持つものの、卓越したバイオリンの腕前を誇る留利絵。大学の楽団で出会い、友情を育んでいく二人。だが、蘭花がプロ指揮者の茂美と恋に落ちたことが、すべてを崩壊させていく。卑劣な裏切り、発覚するスキャンダル、豹変していく恋人とその先に待つ悲劇・・・・・二人の女性の恋と友情は、果たしてどこに向かうのか。
「辻村さん、こういう作品も書くんだ!」というのが、読み終えて最初の感想。それまで読んだ辻村作品といえば、登場人物たちをどれほど過酷な運命が襲おうと、最後には光を感じさせるものばかりでした。ところが本作はまごうことなき真っ黒なイヤミス。この状況がどう好転するのだろうという期待が、良い意味で裏切られた思いです。
物語の中心となるのは二人。才気煥発な指揮者との恋にのめり込んでいく美女の蘭花と、己の容姿へのコンプレックスから美貌の女友達に一途な友情を捧げる留利絵。さらにそこに、蘭花と恋愛関係を結ぶ若手指揮者の茂美、茂美の不倫相手である菜々子などが絡んでくることで、物語は不穏な様相を呈し始めます。このドロドロの人間模様が、第一章である蘭花視点の「恋」、第二章である留利絵視点の「友情」で語られるわけですが・・・タイトル通り、あまりに周りの見えていない二人の「恋」と「友情」に、胸が重くなって仕方ありませんでした。
とにかく登場人物たちの愛憎入り混じったエゴが怖いこと怖いこと。もはや恋とも友情とも呼べないようなエゴにしがみつく女性たちも恐ろしいし、身勝手さ丸出しで欲望に走る男性たちも愚かで幼稚。にもかかわらず、「でも、こういう人っているよなぁ」「こんな心境になることってあるよな」と思わせてしまうところが、辻村深月さんの巧さですね。ちなみに私の場合、作中では一応敵役のポジションにある菜々子に、ほんの少し「分かるかも・・・」と共感してしまいました。
物語の中では人が死に、第二章の終盤で真相が明かされます。このどんでん返しの驚きもさることながら、一番インパクトがあったのは、第二章の語り手である留利絵のラストの心境。ここで分かる彼女の真意には、正直、「戦慄」という言葉しか浮かびません。ネタバレになるので多くは語らない方がいいですね。人間不信にならないよう覚悟した上で、この修羅場っぷりを味わってください。
ただの恋愛騒動かと思いきや・・・度★★★★☆
内容とは裏腹に表紙はロマンチック度★★★★★
こんな人におすすめ
女性の狂気を扱ったサスペンス小説が読みたい人
ドロドロした女性同士の友情を描いた辻村深月さんの見事なイヤミスでした。
ストーカーそのものの行為に異常な思い込み~ラストのホラー要素すら感じるどんでん返し、再読したくなりました。
辻村さんがこういうサスペンスホラーめいた作品を書くとは思わなかったので、かなり驚いた記憶があります。
ラストは見事に騙された!
ヒロイン二人の今後がすごく気になります。