ミステリーやサスペンスの場合、<真相解明に至る手がかり>がとても重要な要素となります。目撃証言、指紋、血液型、防犯カメラ、DNA、インターネットの検索履歴etcetc。舞台となる時代によって手がかりの質も変化していたりして、なかなか面白いです。
そうした手がかりの中で、時代を問わず最重要視されるのは<被害者本人の証言>ではないでしょうか。何しろ一番渦中にいる人物の証言なわけですから、重きを置かれて当然。とはいえ、暴行、傷害、殺人未遂などならともかく、殺人事件となると、被害者本人は死んでいるので証言を得ることはできません・・・・・と思いきや、予想外の手段でそれを可能にした作品がありました。今回は、西澤保彦さんの『スリーピング事故物件』を取り上げたいと思います。
こんな人におすすめ
多重解決ミステリーが読みたい人
オカルトが絡んだ物語に興味がある人
ぼくを殺したのは、一体誰なんでしょうか?―――――ひょんなことから、過去に殺人事件が起こった事故物件でルームシェア生活を送ることになった初音、由布子、真歩の三人。四部屋ある部屋のうち、一部屋には、殺された前住人が使っていたワープロ専用機がそのまま残されている。誰がいじっても起動しなかったはずの機体が、なぜか真歩が触った途端、勝手に動き出した。なんと、このワープロには殺害された被害者の魂が宿っていて、文字を打つことでやり取りできるのである。あまりの事態に仰天しながらも、破格の好条件に釣られ、ここでの生活を送る三人。なりゆきで被害者とコミュニケーションを取るうち、彼が殺された事件自体がとても奇妙なものだということが分かる。一体誰が、何のために彼を殺したのか。好奇心に駆られ、事件について調べ始める三人だが・・・・・これぞ西澤保彦節!謎いっぱいの長編ミステリー
タイトルおよび漫画風の表紙から、コミカル寄りの作品だと想像する方も多いと思います。実際、物語の雰囲気・会話はユーモラスですし、事件とは別に登場人物たちの恋愛模様がみっちり描写される等、全体的にさらりと軽め。にもかかわらず、要所要所で垣間見える関係者たちのエゴや、連続殺人事件の真相はやたら生臭いです。このギャップが、西澤保彦さんの持ち味なんですよね。
恋愛トラブルによって職場を退職し、進退窮まった主人公・初音。なりゆきで、旧知の仲の由布子、由布子の姪である女子大生・真歩とルームシェア生活を送ることになります。三人が暮らすマンションは、設備も立地も抜群で家賃も破格ながら、二十一年前に住人が未解決殺人事件の被害者となった事故物件でした。三人が住む五〇三号室には、殺された住人・奏人のワープロが残されていて、これを決してよそに移動させないことが、破格の家賃の条件です。このワープロ、遺族や警察がどれだけ触っても起動しなかったのですが、なぜか真歩が触るといきなり起動。機体に奏人の霊魂が宿っていること、ワープロに文章を打ち込むことでコミュニケーションが取れることが分かります。初音たちは恐れおののきつつも、マンションの持ち主(奏人の姉夫妻)から「今後、家賃はタダにしますから弟をよろしく」と頼まれたことで、未解決のままの奏人殺害事件について調べることになります。奏人曰く、いきなり押し入ってきた見知らぬ女から、訳も分からぬまま絞殺されたとのこと。調べるうち、同時期に起こった素性不明の男性殺人事件との関係が浮上してくるのですが・・・・・果たして初音たちは、絡み合った事件の謎を解き、殺人犯を見つけ出すことができるのでしょうか。
西澤ワールドの十八番「理由不明ながら人知を超えた怪現象が起こる」が、本作のキモです。なぜワープロに奏人の霊魂が宿ったのか、なぜ真歩がいじった時だけ機体が起動するのか、奏人の霊魂はなぜワープロ基準の能力しか発揮できないのか(コミュニケーションを取れるのは文字のみ、画像を見せることができないので容疑者の面通し不可etc)、最後まで不明のまま。一見、奇妙奇天烈に思えそうな設定ですが、次第にこれがクセになるのだから不思議です。
これだけ突飛な要素てんこ盛りにも関わらず、ミステリー部分はちゃんと成立しているのが、西澤保彦さんの凄いところ。動機のねじ曲がり具合も、あまりに異様だと思うと同時に、「いや、でも、こういう心理ってあり得るかも・・・」と妙に納得させられてしまうんですよ。昔、「人はひとたび罪を犯すと、その後一生<犯罪で解決する>という選択肢がついて回る」というエピソードを読むだか聞くだかしましたが、まさにそういうことなのだと思いました。警察が出てこず、登場人物たちがワイワイ飲み食いしながら真相に近づいていくという構成も、いかにも西澤ワールドっぽくて良かったです。
ただ、残念なことに、本作は西澤作品の中では人気が高い方ではありません。その理由は恐らく、ミステリー部分とは関係ない、主要登場人物の恋愛エピソードが長すぎるから。推察するに初音と由布子はバイセクシャルで、お互いを性的な意味で意識しています。それゆえ、長年に渡って横恋慕騒動を繰り返し、最終的には関係を持ったと思しき描写さえあります。これらを語る場面にかなりのページが割かれているのですが、前述の通り、ここは本作の謎とは無関係で、特に深掘りされることなくエピローグを迎えます。「あの同性愛描写は一体何だったの!?」と思う読者もさぞ多いでしょうが、そもそも西澤保彦さんって、作品に性自認・性的志向に関する表現をふんだんに取り込む作家さんなんですよね。特に晩年の作品はその傾向が強いため、好き嫌いが分かれがちだのようです。「西澤保彦さんの本ってこういう感じだよね」と割り切れる方なら、きっと楽しめると思います。
ユーモラスに描かれているけど、真相はかなりエグい・・・度★★★★★
伏線の張り方・回収の仕方がお見事!度★★★★★








少し読んだら「死者は黄泉が得る」のようなイメージで突拍子もないSF、ホラーのようで意外と現実的なミステリーだと思いましたが、やっぱりあり得ない展開になるようで面白そうです。西澤保彦さんは東野圭吾さんと同じく科学に基づいたミステリーですが、方向性が全く違う気がします。
夕木春央さんの「楽園」読み終えて返してから全然分からなかった繋がりを知り驚きました。十戒も教えて貰わないと気が付かないままでした。
感想を早く聞きたいです。
娘が最近、東野圭吾さん、住野よるさんなどの作品を借りてきて欲しいと頼まれます。自分で借りてこいと言いたくなりますが「図書館の下剋上」以外に読書に興味を持ってくれるのは嬉しいです。知念実希人さんの作品も借りてきてました。
東野圭吾さんは、突拍子がないなりに科学的な解釈を行おうとしていますが、西澤保彦さんは「そういう技術・能力があるんです」で押し通すんですよね。
どちらも60代の若さで亡くなったことが惜しくてなりません。
お嬢さんがどんどん読書に興味を持ってきているとのこと、羨ましい限りです。
娘は本自体はまあまあ好きですが、読むのはお気に入りの漫画・ゲーム作品のノベライズや解説本、もしくは猫関連のノンフィクションだけです。
もう少し幅広く色々読んでほしいな・・・と思わないでもないですが、こういうことは強要するものじゃないので、ぐっと堪えています。