新年あけましておめでとうございます。ブログを解説し、今年で十年目。長く続いたよなと、自分でしみじみしています。今年もミステリーとホラー中心にゆるゆるレビューしていくつもりですので、どうぞよろしくお願いします。
改めてブログ内の記事を振り返ってみると、私が取り上げた作品で一番多いジャンルはミステリー。特に<何かが消える>というシチュエーションが非常に多いことが分かりました。犯人が消え、遺体が消え、凶器が消え、関係者が消え・・・・・<消える>というキーワードは、ミステリーの世界においてとても重要な要素になりがちです。今回は、<消失>にテーマを絞ったミステリー短編集をご紹介したいと思います。北山猛邦さんの『神の光』です。
こんな人におすすめ
消失トリック目白押しのミステリー短編集に興味がある人
兵士たちの前で一夜にして消えた屋敷の謎と行方、消える街に隠された恐るべき秘密、原稿の中で語られる奇妙な消失劇、三つの時代を股にかけた神隠しの真実、夢の中で消えゆく館の正体・・・読者を翻弄する、<消失>ミステリー短編集
私の場合、北山猛邦さんの著作の中では、『私たちが星座を盗んだ理由』『千年図書館』といった、どこか不穏さが漂うSFやサスペンスが好きです。そのためつい忘れていましたが、もともと北山猛邦さんは<物理の北山>という異名を取るくらい、物理トリックにこだわる作家さんなんですよね。本作は、その筆力が遺憾なく発揮されたミステリー短編集。<消失>に重きを置くというテーマ選びも面白く、全五話、一気読みしてしまいました。
「一九四一年のモーゼル」・・・レニングラードにひっそりと佇む酒場にて、老人が語る若き日の思い出話。戦時中、二人の赤軍兵士が、とある屋敷をナチスから守るという任務を任される。屋敷内には豪華な宝石装飾が施された部屋があり、ナチスが強奪しようと狙っているからだ。気を張って任務に当たる二人だが、一晩経ってみると、なんと昨夜まであったはずの屋敷が跡形もなく消え去っていて・・・・・
屋敷消失の真相もさることながら、物語全体の空気がものすごく好みでした。ロシアの酒場の猥雑とした感じといい、戦時中の張りつめた雰囲気といい、ナチスやポーランドも絡んだ複雑な世界情勢といい・・・最後数ページで、無関係と思われた箇所までしっかり伏線だったと分かる流れもお見事です。まさに<物理の北山>の二つ名にふさわしい名作だと思います。
「神の光」・・・見知らぬ男から、百ドルと引き換えに謎解きゲームをしようと持ち掛けられた<俺>は、かつて祖父・ジョージが経験した話を語ることにする。若き日のジョージは、類まれな博才を持っており、一攫千金を夢見てラスベガスを訪れた。運良く、特別客のみ入れるカジノ会場に潜り込み、見事に大金を得たジョージ。せっかく儲けたのだし、招待されずに潜り込んだことがバレたら一大事。さっさと街から逃げ出し、途中の砂漠で見かけた小屋に駆け込んだ。ところが、朝になって外に出ると、昨夜カジノがあったはずの街が丸ごと消失していて・・・・・
表題作なだけあって、なんとスケールの大きいこと!昨夜まで滞在していた街が丸ごと消えるなんて、一体誰が考え付くでしょうか。この謎を解明する、当時の時代背景を絡めたトリックも秀逸でした。一歩間違えたらハチャメチャになりそうなところ、「この時代ならあり得るかも」と思わされてしまうんですよ。最後の最後、すべての謎を解いてから、ほんの少しだけSFめいた雰囲気をほのめかす展開も実に好みです。
「未完成月光 Unfinished moonshine」・・・久しぶりに帰った故郷で、幼馴染の藤堂と再会する<私>。藤堂はプロの作家として順調に活躍していたはずだが、なぜか今、病的にやつれている。訝しむ<私>に対し、藤堂は「エドガー・アラン・ポオの未完成原稿を手に入れた。これを読んで以降、謎の声が『続きを書け』とひっきりなしに責め立ててくる」と打ち明けた。訳が分からぬまま、ひとまず<私>もその原稿を読んでみることにした。そこには、一人の少年が森の中で目撃した、奇妙な山小屋の消失事件が書かれていて・・・
収録作品中唯一、はっきりとホラー要素のある話でした。この話における消失事件は、主人公達が実際に出くわすわけではなく、彼らが読む原稿の中のエピソード。あくまで<外国の作家が書いたフィクション小説>という体裁のため、トリックもかなり突飛かつ奇妙です。その奇妙さが徐々に語り手たちの現実を侵食していく感じといい、最後に語られる不穏な後日談といい、往年の怪奇幻想小説を読んだ気分に浸れました。エドガー・アラン・ポーについて前知識があると、より楽しめるかもしれません。
「藤色の鶴」・・・二〇五五年、内戦中の某国で起きた、テロ標的だった基地と一人の少女の消失事件。平安時代、暴徒に襲われた少年が見た、社と巫女の神隠し。一九九九年、ヴァイオリニストの卵が目撃する、祭りの日の奇跡。別々の時代で起きた三つの事件は、実は密かに繋がっていて・・・・・
平安時代から近未来まで続く壮大な話です。壮大すぎて、ミステリーというよりはファンタジーという趣ですが、物語としての密度の濃さは収録作品中一番ではないでしょうか。少年少女の淡い思いの描写も素晴らしく、悲劇で終わらなくて良かったねと心の底から安堵しました。もう少し膨らませて長編にして、一九九九年~二〇五五年の間に一体何がどうしてそうなったかを、もっと読みたい気もします。
「シンクロニシティ・セレナーデ」・・・<わたし>は長年に渡り、巨大な館が霧と共に消え失せる夢を見続けてきた。なぜこんな夢を繰り返し見るのだろう。不思議に思った<わたし>が、思いつきで夢のことをSNSに投稿すると、大学で夢に関する研究をする学者・浅見からメッセージが届く。曰く、<わたし>と同じく館の消失を夢に見続けている人間が、浅見をはじめ複数いるという。浅見が「消える館とは、これでは?」と見せてきた写真には、<わたし>が夢に見た館とそっくりそのまま同じものが写っていて・・・・・
この話で消失事件が起きるのは、なんと夢の中。この時点で、もはや真相もへったくれもないわけですが、そこは我らが北山猛邦さん。幻想的ながらも筋道立った謎解きを用意してくれる手腕、さすがです。余談ですが、作中に登場する喫茶店<喫茶D clivus>(ラテン語で『D坂』)がものすごく魅力的!レビューを閲覧したところ、同じような感想を持つ方が他にもいて、さもありなんと頷いてしまいました。
物理トリックの方に注目してしまいがちですが、本作には歴史に関する蘊蓄や裏話もたっぷり書き込まれています。「このトリックは、この時代のこの国だから成立したんだね」という話も多く、現代で実行することは不可能というところに、なんとも風情を感じました。トリックをひねり出すのはさぞ大変でしょうが、こういうテーマ縛りのある短編集、ぜひ第二弾、第三弾と続いてほしいです。
稀代のトリックメーカーの面目躍如!度★★★★★
消えるもののスケールがとにかく大きい度★★★★★







