「お金より大事なものがある」「気持ちがあればお金なんて」・・・色々な局面でよく聞くフレーズです。なるほど、ごもっとも。この世の中、お金で解決できないことや手に入らないものは山ほどあります。
と同時に、お金で解決することが山ほどあることもまた事実。シビアなようですが、お金と生活は切っても切れない問題です。今日は、尽きることのない金銭問題を描いた小説をご紹介しましょう。垣谷美雨さんの「ニュータウンは黄昏れて」です。
バブル期にニュータウンともてはやされた公団住宅を購入し、今やローン地獄に陥りつつある織部家。主婦の頼子は、夫の給料減額や年金支給額の繰り上げなどの問題に苦しむ中、団地の理事会にまで参加せざるをえなくなってしまう。一方、頼子の娘・琴里は、女子会をきっかけに富豪の息子と知り合い、とんとん拍子に婚約へ。人生に光明が差すと思われたが、婚約者となった男にはある疑惑が・・・襲いくる金銭問題に悪戦苦闘する一家の運命を描いた社会派エンターテイメント。
何が凄いって、一瞬ノンフィクションかと勘違いしてしまいそうなほどのリアリティが凄い!バブル崩壊以降、世相に翻弄され、四苦八苦しつつも慎ましく生きてきた一家の暮らしが、映像で見るかのように目の前に浮かんできます。世代の違う私ですらそうなのですから、同時期を知る人なら、感情移入してしまうこと間違いないでしょう。
物語の中心となるのは二人の女性。爪に火を灯すようにして節約に勤しむ主婦・頼子と、思わぬきっかけで資産家の息子と婚約することになったフリーターの娘・琴里。この二人の現実感たっぷりでいながら活き活きとした対比が面白く、ページをめくる手が止まりませんでした。
頼子が成行きで加わることになる団地の理事会問題もまた、一筋縄ではいきません。建て替えを巡って渦巻く住民たちのエゴ、団地を終の棲家にしたい高齢者と売り逃げに走る若年層、そこから垣間見える各家庭のトラブル・・・なまじ作者の描写力が優れている分、分譲の集合住宅を買うことが怖くなるほどです。
一方、娘の琴里は、玉の輿に導いてくれるはずだった婚約者が、実はストーカー気質のモラハラ男であることを知ります。このままでは束縛だらけの結婚生活になることは間違いなし。しかし、彼が大金持ちの息子で、琴里の学資ローンや実家の住宅ローンの返済、父親の再就職先の斡旋に協力してくれることもまた事実。悩み、追い詰められた琴里は、ついにある選択をするのですが・・・・・それがどんなものかは、読んでのお楽しみということにしておきましょう。
頭が痛くなる問題のオンパレードですが、救いはちゃんと用意されています。特に、中盤登場する頼子の母は、「こういう年の取り方っていいな」と思わせられるナイスなキャラクター。どんよりしたりほっこりしたり、まさに生活そのものを味わえる一冊でした。
なんだかんだ言っても女性って強い度★★★★☆
自分の家のことなのに思うようにならない度★★★☆☆
こんな人におすすめ
・現実感ある家庭小説を読みたい人
・住居問題に興味のある人
読み終えたばかりの「老後の資金がありません」にかなり近いストーリーでした。
ニュータウンがオールドタウンを通り越してゴーストタウンになるのでは?と思うような廃れぶり、厄介な男の押し付けい合い、最後に押し付けられた頭脳明晰な女性の見事な采配と処世術。
少子高齢化や年金問題を乗り切るには、工夫とアイデア次第で新しい道を開拓していかないと~と考えさせられる一冊でした。
確かに、同じようなテーマを扱っていますね。
問題の解決方法がとても身近で、臨場感を持って読み進めることができました。
朋美の割り切り方、ある意味で潔くてけっこう好きです。