創作の世界には<因習村もの>というジャンルが成立します。古いしきたりや伝説に支配される土地を舞台にした作品のことで、どちらかといえば<閉鎖的><因縁深い>といったマイナスイメージの描写が多い気がしますね。一部例外はあるものの、基本的に都市部から遠く離れ、外部への連絡・避難手段に乏しい田舎が舞台となる傾向にあるようです。
この手のジャンルで一番有名なのは、国内では満場一致で横溝正史御大による『金田一耕助シリーズ』ではないでしょうか。それから、小野不由美さんの『屍鬼』や三津田信三さんの『刀城言耶シリーズ』も該当するでしょうね。長年に渡ってその土地に染み込んできた罪業や因縁がテーマとなる分、すっきり解決して大団円!ではなく、後味の悪いラストを迎えるケースが多いように思います。では、今回取り上げる作品はどうでしょうか。今邑彩さん『蛇神シリーズ』の完結編『暗黒祭』です。
こんな人におすすめ
・因習が絡む土着ホラーが好きな人
・『蛇神シリーズ』のファン
時は来た。さあ、大祭を始めよう---――編集者の蛍子は、国内の失踪事件を扱うテレビを見ている最中、驚愕する。番組内で取り上げられた、失踪中の少女。彼女は、蛍子が先日訪れた信州の日の本村でばったり出くわした少女と瓜二つだったのだ。あの子は、失踪中だという少女と同一人物なのか。まさか、村で七年に一度行われる大祭の生贄とするため攫われたのではあるまいか。いてもたってもいられず、行動を起こす蛍子だが・・・・・その頃、日の本村では大祭に向けて準備が着々と整いつつあった。使命を全うしようとする者、長年の因縁に疑問を持つ者、宿命に逆らおうと足掻く者。やがて迎えた大祭の日、彼らは何を目にするのか。『蛇神シリーズ』待望の最終巻
『蛇神』『翼ある蛇』『双頭の蛇』、そして本作『暗黒蔡』をもってシリーズは完結します。これまで出てきた登場人物達が集結し、謎に包まれていた大祭の中身も明らかに。シリーズ中一番のボリュームですが、長いと感じることなく一気読みしてしまいました。
前作『双頭の蛇』で日の本村を訪れた蛍子は、テレビで衝撃的な映像を目にします。それは、未解決失踪事件について取材した番組でした。そこで紹介された、失踪中だという少女。彼女と瓜二つの女の子を、蛍子は日の本村で目撃していたのです。折しもこの頃、日の本村は七年に一度の大祭に向けた準備の真っ最中。まさかこの女の子は、大祭の生贄のために攫われたのか。嫌な予感を覚えた蛍子は、知人の協力のもと、真相を確かめようとしますが・・・・・
同時期、日の本村。選ばれし者の体にのみ現れる<お印>を得た武は、大祭で重要な役割を担うこととなります。相手役を務めるのは、武の叔父・聖二の養女である日美香。若くして田舎に引っ込み、巫女の役目を全うしようとする日美香に、武は疑問を感じずにはいられません。同時に武が感じた、日の本村の在り様そのものに対する違和感。自分は、とんでもない一歩を踏み出そうとしているのではないか。各々の思惑をよそに、ついに大祭が始まります。そこで人々を待ち受けていたのは、想像を絶する結末でした。
と、こういうあらすじから分かる通り、本作は前三作のはっきりした続編であり、この一冊だけではさっぱり意味が分かりません。そういう意味では、単独で物語として成立していた『蛇神』『翼ある蛇』と比べたら、少し取っつきにくいかも?久しぶりに出てくる人名もけっこうあるので、物語の流れをしっかり把握しておく必要があります。
とはいえ、四作目である本作を読もうという方は、恐らくシリーズ過去作を読破済みだと思うので、心配は無用でしょう。むしろ、一作目から引っ張られてきた出来事の数々が集約する様子に「おー、あれがこうなるのね」と感慨深ささえ感じるのではないでしょうか。個人的には、今まで名前は出つつも影が薄かった聖二の姉・燿子と、妻の美奈代の存在感が印象的でした。特に美奈代。『蛇神』ではあんなに初々しかったのに・・・
そして、このシリーズを語る上で忘れちゃいけないのが、古事記をはじめとする神話との絡みです。三作目まではとにかく蘊蓄の量が多く、人によっては冗長に感じたかもしれませんが、本作では説明部分はボリュームダウン。神話と、日の本村及び宮司一族との関わりに焦点が当てられているので、ぐんと読みやすくなっています。これは私の完全な推測ですが、一作目『蛇神』が刊行されたのが一九九九年ということにもちゃんと意味があったのではないでしょうか。一九九九年・・・そして本作のラスト・・・うん、きっとそうだ。
ただ、本作の評価はシリーズ中で一番賛否両論分かれているようです。理由は色々あるようですが、一番大きいのは、本作がいかにもJホラーらしい結末を迎えるからでしょう。一件落着のめでたしめでたしエンドには程遠く、大勢の犠牲を出し、一部の謎は謎のまま。おまけにその大元の原因は、人知を超えた神とも魔とも言い難い存在。結局何だったんだよ!?と言いたくなる気持ちも分かります。これはミステリーではなくホラーだと肝に銘じてから読んだ方がいいかもしれませんね。私はこういう土着ホラーが大好きなので、このラストがしっくりきました。もしかしたら第二部の構想があったのでは?と勘繰ってしまいますが・・・もう叶わないことが残念でなりません。
壮大かつ荘厳な伝奇ホラー!度★★★★☆
これは終わりの始まりなのか・・・度★★★★★
因習村と言えば、櫛木理宇さんを思い出します。
携帯もない因習、ホラー、ミステリーが何故かシックリ来るのは昭和生まれかな~と昔の作品を読んで思います。
蛇神シリーズは読もうと思いながらなかなか読めずにいます。
次々と好きな作家さんの新作が出て早く届くのでいつでも読めると思うと後回しになってしまいます。
今邑彩さんも永井するみさんも亡くなられて随分経ったと思いますが、図書館で本を見ます。
鳥山明さんもさくらももこさんも亡くなられました。
アニメ観ていた小学生が50歳になれば当然ですが、寂しく思います。
中山七里さんの有罪、とAIは告げた~読み終えました。
静おばあちゃんの孫の高円寺円が判事になったのも時代の流れを感じます。
櫛木理宇さんのドロドロ濃厚な因習村とはちょっと違いますが、こちらはこちらで面白かったです。
新刊が出ると、ついつい既刊本が後回しになってしまいますよね。
才能あるクリエイターが次々亡くなられて寂しいですが、作品を楽しみ続けられることが救いです。
こちらは垣谷美雨さんと加納朋子さんの新刊が同時に届きました。
早く読まねば!