はいくる

「ヨモツイクサ」 知念実希人

かなりのホラー好きを自認する私が最初にハマったホラー作品は、ゲーム『バイオハザード』でした。幽霊でも妖怪でもなく、ウィルスのせいで巻き起こる阿鼻叫喚の数々がものすごく新鮮で、すっかり夢中になったものです。賛否両論あるようですが、映画版も結構好きなんですよ。

思えば『バイオハザード』以降、<バイオホラー>というジャンルが世間に広く知れ渡った気がします。これは生物技術が絡んだホラー作品のことで、ウィルス、細胞、未知の生命体といった要素がテーマとなることが多いです。心霊はあまり登場せず、科学や物理が通用する敵がメインな分、派手なアクションが繰り広げられることもしばしばですね。先日読んだ作品もそうでした。知念実希人さん『ヨモツイクサ』です。

 

こんな人におすすめ

・バイオホラー作品が好きな人

・アイヌ文化に興味がある人

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そこに入った者は、決して生きて帰れない---――北海道で起きた、開発作業員の失踪事件。事件を知った外科医の茜は、かつて自身の家族が巻き込まれた失踪事件を思い出す。二つの事件の共通点は、アイヌの人々が禁域として恐れる<黄泉の森>だ。二つの事件の間には関連があるのか。まさかこれは、すべての生命を貪り喰うという<ヨモツイクサ>の仕業なのか。真相を知るため<黄泉の森>に向かった茜が目にしたものとは・・・・・長編バイオホラーの傑作、ここに誕生!

 

実際に医師であり、医療ミステリーの第一人者である知念実希人さんが今回テーマとしたのは、スリリングなバイオホラー。職務を通じて培ったと思われる生々しい生物描写に圧倒されっぱなしでした。アイヌ文化との絡め方も上手くて興味深い・・・と思ったら、知念実希人さん自身のルーツは沖縄なんですね。作家さんの背景と作品は別物とはいえ、なんとなく意外でした。

 

北海道旭川、アイヌの人々から禁域とされる<黄泉の森>。そこを開発しようとしていた作業員達が、ある日、忽然と姿を消します。彼らが失踪直前までいた室内は荒れ果てており、ヒグマに襲撃された可能性が浮上。事件のことを知った外科医・茜は、自身の家族が消えた時のことを思い出しました。茜の実家は<黄泉の森>のすぐ側にあり、七年前、家にいた家族達が神隠しに遭ったように姿を消していたのです。もしかして、この二つの事件は関わりがあるのかもしれない。だとしたら、私の家族もヒグマに襲われたのか。疑念を抱いた茜は、旧知の仲である猟師・鍛冶の力を借り、<黄泉の森>に入ってみることにします。そこで茜が見たのは、想像を遥かに超える残酷な真実でした。

 

と、ここまでのあらすじを読むと、「人間vsヒグマのサバイバルアクションなのかな」と思いそうですが、それはあくまで最初の話。中盤からは作風が変わり、<黄泉の森>とそこに巣食う<ヨモツイクサ>の謎を追うバイオホラーとなります。どちらも面白いのですが、『バイオハザード』好きとしては、やっぱり後者の雰囲気が刺さりますね。主人公チームが重火器を扱えることもあり、銃を駆使して敵と戦う下りは迫力満点でした。

 

とはいえ、ド派手で痛快な雰囲気さえある『バイオハザード』と違い、本作は終始、生理的嫌悪感を催す描写に満ちています(褒め言葉)。出てくるクリーチャーはものすごく不気味だし、ヒグマをはじめ外敵による人間の襲撃シーンはめちゃくちゃ猟奇的!犠牲者の中には生きたまま内臓を貪り喰われる者もいて、スプラッターが平気な私さえ「うわぁぁぁ・・・」となってしまいました。知念実希人さんの優れた医療・生物描写が憎らしくなるくらいのグロテスクさです。

 

それでもちゃんと最後まで読み切ってしまうのは、本作の構成がしっかりしているからでしょうね。ストーリーはもちろんのこと、遺伝子その他に関する描き方に説得力があり、決して荒唐無稽なハチャメチャホラーにはしていません。終盤のどんでん返しの仕掛け方はまさにお見事!ページをぺらりとめくると驚愕の真相が・・・という展開なので、本屋や書店でぱらぱら流し読みしないことをお勧めします。

 

迫力あるシーンが多いので映画化を望む声が結構あるようですし、できたら面白いだろうなと思うものの、実際問題、難しい気がします。とにかく壮絶なグロ描写が続くため、年齢制限を設けても、原作に忠実な実写化は難しそう。でも、この描写を簡略化すると本作の良さが激減するし・・・とりあえず、しばらくは紙面で楽しむことにしようっと。

 

真相発覚時には心臓が止まりそうになった!度★★★★☆

酷い死に様が盛りだくさんなのでご注意を度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

    かなりグロいバイオホラーで残酷な描写は櫛木理宇さん、中山七里さん以上だと感じました。
     明らかに沖縄と思われる名字の知念実希人さんが、アイヌ民族の文化に触れるのは面白かったです。
     命からがら生き残ったと思った主人公は真実知るラストが最も衝撃的でした。
     これを映画化するのはかなり困難だと思いますが、熊や野生動物の恐ろしさを知るのは良いかも知れません。
     これだけ衝撃的な描写と内容でも一気読み出来る魅力は流石だと思いました。
     

    1. ライオンまる より:

      生々しいグロ描写のリアルさは、医療従事者という知念実希人さんの経歴ゆえでしょうか。
      あのラストはここ最近読んだ作品の中で一番の衝撃度!
      茜がこれからどこへ向かうのか、すごく気になります。

  2. しんくん より:

     直木賞受賞作 河崎秋子さんの「ともぐい」を読み終わりました。
     時代は明治初期、主人公は1人で暮らす猟師。
     しかし、北海道を舞台に熊と闘う場面はこの作品と似ていると感じました。
     人と獣の業、命がけの生存競争、時間の流れによるラスト、ある意味ホラー要素もある展開と内容に重なるものを感じました。
     お薦めしたい作品です。

    1. ライオンまる より:

      お勧め情報をありがとうございます!
      「ヨモツイクサ」と通じる雰囲気がありますが、時代が明治初期ということで、時代の風を感じることもできそうですね。
      図書館に入荷したら、予約しようと思います。

  3. しんくん より:

     時代は明治初期でなく明治後期でした。
     熊との闘いと駆け引きがヨモツイクサに似ていますがストーリーそのものは
    独特のものを感じます。
     感想楽しみにしてます。

    1. ライオンまる より:

      熊との戦いを描いた作品というと、現実に起きた「三毛別事件」をテーマにした『慟哭の谷』を読んだことがあります。
      ただ、あちらがドキュメンタリーだったのに対し、『ともぐい』は小説。
      あらすじをチェックしたところ、主人公の人間関係に関する描写にも力が入っているようで、俄然、読みたい気持ちが高まりました。
      近所の図書館は新刊入荷が早いとは言い難いので、いつ読めるかジリジリしますが・・・

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