創作物の中には<チラ見厳禁>というタイプの作品が存在します。何気なくチラッと見た一場面、一ページが強烈なネタバレになってしまい、クライマックスの面白さが半減する・・・やはり、どうせなら順序通り物語を追い、登場人物達と共にラストの余韻を堪能したいものです。
この手の作品の筆頭格と言えば、映画『猿の惑星』ではないでしょうか。猿達が支配する世界で、チャールトン・ヘストン演じる主人公が最後に見たものの正体。あの衝撃、あの絶望感は、いきなりラストシーンだけをチラ見しては半減してしまうと思います。今回取り上げる作品にも、中に一ページ、とんでもないネタバレが仕込まれています。終盤の驚きを楽しみたい方は、決してページをぱらぱらめくらないよう注意してくださいね。北山猛邦さんの『千年図書館』です。
こんな人におすすめ
切ないどんでん返しが仕掛けられた短編集が読みたい人
独りぼっちの少女をめぐる不穏な噂、謎多き図書館に送られた少年が目にする不可思議な光景、月の異変と共に進む異星人の地球侵略計画、静かな村に乱立する塔の真相、飛び降り自殺に遭遇してしまった少年の孤独な戦い・・・・・あなたは、五つの驚きを目撃する。趣向の限りを尽くした、著者渾身の短編小説集
『私たちが星座を盗んだ理由』同様、どこか物悲しく切ない後味の短編集です。どの話にも、真相には、北山猛邦さんお得意のトリッキーな技巧が凝らされており、「おお~」と唸らされること必至。決して分厚いとはいえないボリュームの作品なのですが、大長編作品と同じくらい密度が濃かったです。
「見返り谷から呼ぶ声」・・・主人公の小学生・シロが住む町に伝わる不気味な噂。町にある<見返り谷>は黄泉の国と繋がっており、実際、谷周辺で不可解な失踪事件が相次いでいるらしい。クラスのはみ出し者である少女・クロネがなぜかこの谷に執心していると知った子ども達は、クロネが失踪事件に関わっているのではと怪しむが・・・・・
どんでん返しに関しては、同系統のトリックが巷にそれなりに存在するので、気づいた読者も一定数いると思います。ただ、この話はミステリーとしてのトリックよりも、作中で描かれる子ども達の人間模様の方が印象的でした。クラスの異分子に対する冷酷な仕打ち、事が起きても大人を頼らずに解決しようとする行動力、結果を想像できない浅はかさ・・・イヤミスに分類してもいい話ですが、ラストには一筋の希望があって良かったです。
「千年図書館」・・・人里離れた島にある<図書館>に<司書>として送られたペル。きっと<図書館>には化物が棲んでいて、自分は生贄にされてしまうんだ。恐れ戦くペルだが、なんと<図書館>ではとっくに死んだと思っていた先代<司書>のヴィサスが生存しており、二人でひっそりと自活し始める。ヴィサスが案内してくれた<図書館>には、ペルには理解できないような不思議な物が並んでいて・・・・・
前書きに書いた<チラ見厳禁>の話がこれ。最終ページに文字はなく、とあるイラストがでかでかと描かれているのですが、絶対にこれを先に見てはいけません。登場人物達のその後や真相の詳細を語らないところ、「ファンタジー世界の話と見せかけて実は・・・」という展開は、『私たちが星座を盗んだ理由』の「妖精の学校」と近いかな。ですが、この話のオチの方が分かりやすい分、衝撃度は大きいと思います。ペルやヴィサスが、今後恐らく真実を知ることができないことは、果たして幸いなのでしょうか。
「今夜の月はしましま模様?」・・・ある日突然、月がしましま模様になるという謎の現象。そんな現象に人々が動揺しなくなった頃、主人公の大学生・佳月が所持するラジオが勝手に喋り出す。何でも、この声の主は異星人であり、今、彼らの間では恐るべき地球侵略計画が進行中とのことで・・・・・
月がしましま模様になるという、なんとなくユーモラスな冒頭から、音楽生命体による地球侵略計画というSF展開、そして後半は田舎で起きた密室殺人というジェットコースター構成に、目を白黒させられること請け合いです。ただ、最後の真相を知ってみれば、それらすべての設定が無駄なく生かされていて感心させられます。それなりの数のミステリー作品を読んできた私ですが、この犯行計画は未知の領域でした。
「終末硝子」・・・ロンドンから故郷の村に帰郷した医師・エドワードが見たもの。それは、村の至る所に塔が建つ光景だった。村民曰く、村に移住してきた男爵が<塔葬>なる習慣を持ち込み、すっかり定着したのだという。得体の知れなさを感じるエドワードだが、予想に反し、男爵は至って理知的な紳士だ。だが、男爵の妻はエドワードに対し、「夫に殺される」と訴えてきて・・・・・
現代日本が舞台のSFだった前話と打って変わって、今回はヨーロッパの田舎で繰り広げられる奇怪なミステリーです。知的に振る舞う男爵の真意はどこにあるのか、彼の妻は真実を語っているのか、男爵が持ち込んだ<塔葬>の秘密とは・・・?最後まで読んでみると、男爵が狂人だったのか、それとも正義感溢れる善人だったのか、読者によって解釈が分かれそうです。
「さかさま少女のためのピアノソナタ」・・・音楽の道に行き詰った高校生・聖は、ある時、ひょんなことから古い楽譜を手に入れる。譜面に書かれた、<絶対に弾くな>という文字。だが、やけっぱちな心境になっていた聖は、ままよとばかりにその曲を弾いてしまい・・・
謎のアイテムによって似たような状況が起こる話は、そこそこ存在します。ですが、そこに飛び降り自殺が絡んでくるとなると、けっこう珍しいのではないでしょうか。とんでもない事態に遭遇した主人公がどうするのか、ハラハラドキドキしましたが、最後は大団円で良かった!ラストの台詞の意味が分からなかったので、ネットで検索したところ・・・なるほどねぇ、という感じです。
読了後に知ったのですが、「さかさま少女のためのピアノソナタ」は『世にも奇妙な物語』でドラマ化されているとのころ。私、あの番組大好きで何十年も見ているのですが、全然覚えがない・・・忘れた?見逃した?どちらにせよ、原作小説が気に入ったので、悔やまれます。レンタルはできるのかな?
最終ページをチラ見しないで!特に第二話!!度★★★★★
表紙の可愛さに騙されます度★★★★☆
未読の作家さんですが大変興味深い。
海外を舞台にした作品もありバラエティーが豊富でSFまでありこれは読んでみたいです。
「猿の惑星」はラストが衝撃的でゾクッとしましたが、暫くして画面の裏側にあるセットやカメラ、スタッフが見えたような気がして白けたのは自分だけ?
「ぼぎわん、が来る」で比嘉真琴が登場しましたが、これが比嘉姉妹シリーズの1作目でしょうか。これはハマりそうです。
「私たちが星座を盗んだ理由」とともに、短編集の方が断然好きな作家さんです。
私が「猿の惑星」を最初に見たのは小学校低学年の時(家族が視聴するのを横目で見ていた)なので、舞台裏を想像する知恵などなく、ただただ絶望し怯えた記憶があります(^^;)
「ぼぎわんが、来る」は比嘉姉妹シリーズ第一弾です。
大好きなシリーズなので、しんくんさんの感想を拝見するのが楽しみです。
小説版と変更点はあるものの、映画版もなかなかの良作なので、機会があればぜひ!