クローズド・サークルものの定番シチュエーションといえば、洋館、辺鄙な場所にある村、孤島の三つだと思います(すべて交通網・連絡ツールが遮断されていることが前提)。この三つの内、一番行き来するのに労力が要るのは、孤島ではないでしょうか。洋館や僻地の村の場合、死ぬ気で頑張れば自分の足で移動可能ですが、孤島の場合、どうにかして船等の移動手段を確保しなければなりません。となると、操縦は誰がするのか、エンジンは無事なのか等の問題が生じ、物語がよりスリリングなものになります。
孤島を舞台にしたミステリーと言えば、忘れちゃいけないのがアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』。国内作品なら、綾辻行人さんの『十角館の殺人』、近藤史恵さんの『凍える島』、はやみねかおるさんの『消える総生島』etc、どれも夢中で読んだ記憶があります。それから、最近読んだこれも面白かったですよ。中山七里さんの『人面島』です。
こんな人におすすめ
クローズド・サークルもののミステリーが読みたい人
相続鑑定士・三津木と、彼の肩にくっついた人面瘡・ジンさんのコンビが今回向かうのは、隠れキリシタンの文化が色濃く残る仁銘島、通称<人面島>。村長・鴇川が死んだため、彼の財産鑑定を行うのが仕事だ。ややこしそうだがよくある仕事・・・そう思い、人面島に降り立った三津木は、予想以上に複雑な島の暗部を目撃する。憎み合う異母兄弟、彼らの背後で権力闘争を繰り広げる親戚達、水面下で囁かれる財宝伝説。各々の思惑が絡み合う中、鴇川の長男が密室の中で殺害された。一体誰が、何のために。混乱しつつも状況を打開しようと奔走する三津木だが、島内では第二の殺人が・・・・・果たして三津木&ジンさんは、事件を無事解決できるのか。へなちょこ鑑定士と毒舌人面瘡のコンビが挑む、謎多き連続殺人事件シリーズ第二弾
人里離れた村が舞台だった前作に対し、今作で舞台となるのは長崎県の通称<人面島>と呼ばれる島。有力者同士がいがみ合い、不可解な点だらけの殺人が相次ぎ、おまけに悪天候により外部への移動も連絡もできなくなる・・・と、クローズド・サークル好きのツボを押しまくる修羅場が描かれます。作中でジンさんが語る通り、まさに横溝正史の世界ですね。三津木とジンさんのやり取りが妙にコミカルだからか、どれだけドロドロしようと後を引きずらないところが有難いです。
相続鑑定士・三津木が相棒のジンさんとともにやって来たのは、長崎県の某所にある島、通称<人面島>。死亡した村長・鴇川の財産を鑑定するためですが、鴇川には前妻との間に長男、後妻との間に次男があり、この二人は犬猿の仲。おまけにそれぞれの背後には、島の権力を握ろうと目論む親戚達が控えていて、遺産相続は大揉めすることが予想されました。そんな中、長男が島の宮司職を継ぐことになり、三津木もなりゆきで継承の儀に立ち会います。その最中に起こった、長男の殺害事件。現場は密室状態であり、外部から犯人が侵入することは到底できそうにない状況でした。ジンさんに叱咤されつつ真相解明のため動く三津木ですが、努力を嘲笑うかのように第二の殺人が起きてしまいます。果たして三津木&ジンさんは、真犯人を見つけることができるのでしょうか。
<どんでん返しの帝王>という異名の通り、中山七里さんの作品と言えば、世界をひっくり返すような驚きの謎解きがあると、誰もが期待します。そういう意味で言えば、本作は衝撃度という点でやや弱いかもしれません。謎の構成自体はしっかりしているものの、犯人はちゃんと関係者の中にいて、エピローグでほくそ笑む真犯人・・・などというどんでん返しもなし。クローズド・サークルというシチュエーション上、犯人となり得る登場人物が少ないのも要因の一つかもしれませんね。
では、面白くないのか、インパクトがないのかと問われれば、答えはノーです。本作を盛り上げる一番のポイント、それは何といっても三津木&ジンさんのキャラの立ちっぷりでしょう。頼りないへなちょこ男のようで、意外な図太さを見せる三津木も、頭脳明晰で息をするように毒舌を吐きまくるジンさんも、前作と変わらず生き生き個性的。<ジンさんは三津木が得た情報しか見聞きできない><三津木に何かあればジンさんもダメージを受けるので、こき下ろしつつ助けてくれる>等々、ジンさんが人面瘡だという設定もちゃんと活用されていて、私のような伝承大好き人間を喜ばせてくれます。
伝承と言えば、隠れキリシタンにまつわる描写もなかなか面白かったです。人面島に隠れ住んでいたキリシタンの末裔である島民達は、今なお、先祖の文化や言い伝えを受け入れ続けています。その一つが、島のどこかに隠されているという財宝伝説。よくある伝奇ミステリーなら、クライマックスで主人公が財宝を見つけて万々歳となるのでしょうが、本作では・・・・・前作ラストと同じく、どこかうすら寒いエンディングとの結び付け方が巧みでした。この締め方、深読みすればするほどめちゃくちゃ不気味です。
ところで、人面島の島民として、宮里峰という老女が出てきます。詮索好きの上に口が軽く、島民から煙たがられているというキャラクターですが、本人曰く、孫娘が東京でレポーターをしているとのこと。宮里・・・レポーター・・・まさか、『さよならドビュッシー』に出てきた、あの超感じ悪いレポーター!?こんな絡め方をするなんて、実は中山七里さん、宮里一族がお気に入りなんでしょうか。
土地は人を縛りつける・・・ごもっとも度★★★★☆
もちろんすべて現実の出来事です度★☆☆☆☆
シリーズ2作目~相変わらずのコンビに孤島で繰り広げられるミステリーはアガサクリスティーの「そして誰もいなくなる」を想像しました。
スマホやコンビニがあっても頭の中が江戸時代そのままの島民と振り回される主人公の様子が面白かったです。
口から生まれたような老女の孫が岬洋介シリーズに出ていたとは初めて知りました。
読み返したくなりました。
スタンダードな孤島ミステリーでしたね。
閉鎖的な住民に振り回されるのは一作目と同じですが、本作では隠れキリシタンのエピソードが加わることで、物語がより濃密になっていた気がします。
レポーターの宮里は『スタート!』にも登場し、祖母遺伝の傍若無人さを発揮していますよ。
「ウォーリーをさがせ」のようで面白いです。