そこそこ大きな自治体の場合、たいてい地域内に複数の図書館を持っています。多くの図書館利用者は、その中から自宅や学校、勤務先に近く、通いやすい図書館を選んで利用しているのではないでしょうか。私も自宅近くに図書館があるため、時間があるたびに通うようになって早数年。書棚の位置もすっかり頭に入り、読みたい本を探すのも楽ちんです。
ですが、たまには馴染みのない図書館に行くのも楽しいです。同じ作家さんでも、図書館によって蔵書が違うので、「あ、そういえばこの本書いたのもこの人だっけ」「この本、見かけるの久しぶりだなぁ」と驚かされることもしばしば。もちろん、図書館に取り寄せ依頼をすればどの本だろうと届くのですが、書棚の間をぶらぶらして読みたい本を見つけた時の喜びは格別ですよね。先日、普段利用しない図書館に立ち寄ってみたところ、数年ぶりにこの本を見つけたので再読しました。朱川湊人さんの『わくらば追慕抄』です。
こんな人におすすめ
・昭和を舞台にしたノスタルジックな小説が好きな人
・超能力が出てくる小説が読みたい人
どす黒い業を抱えた異能者の女性、重い過去を背負う青年の積年の願い、新興宗教団体にのめり込む友の苦悩、記憶喪失の女性が負った過去の傷、古代の石器が語る不変の想い・・・・・人の変わらぬ優しさ悲しさを描くノスタルジック・ミステリーシリーズ第二弾
過去に取り上げた『わくらば日記』の続編です。戦後という時代の悲哀を描きつつ、主人公姉妹をはじめとした登場人物達の温かさは一作目と同じ。ただ、本作ではそこに、底知れぬ悪意と怒りを抱えたキャラクターが登場します。このシリーズは白・朱川湊人さんで進んでいくのかと思っていたので、かなりインパクトが強かったです。
「澱みに光るもの」・・・社長夫人が図った服毒自殺未遂事件。何者かに弱味を握られ、脅迫されたことを悩んだ末の行動だという。その脅迫者は、どうやら人の心を読み取る異能を持っているらしく、一部の警察関係者が鈴音を疑うのだが・・・
同じ異能の持ち主でありながら、その力を人のために使う鈴音と、己の欲望のために使う吹雪。二人のあまりに対照的な在り方が胸に迫ってきます。ただ、その言動を見る限り、吹雪も「千里眼を使って美味しい思いしちゃいましょ、ぐふふ」などという単純なキャラではなさそうなんですよね。なぜ彼女はここまで憎悪にまみれて生きることになったのか、すごく気になります。
「黄昏の少年」・・・米屋で働く気の良い青年・幸男。彼が、かつて助けてもらった恩人を探していると知った和歌子は、唯一の手掛かりだという万年筆を鈴音に<見て>もらうことにする。これで恩人の行方が分かれば、幸男もきっと喜ぶはず。ところが、鈴音の能力で情報を得た幸男は、なんと包丁を持って勤め先から行方をくらませてしまい・・・
善良そのものの幸男が背負った辛い過去に絶句・・・今だってこういう諍いは絶えないのだから、当時、こんな思いをした人が一体どれほどいたでしょうか。和歌子が語る現代の幸男が、穏やかな老後を過ごせていそうなところが救いです。大騒動の中の秦野の言動は、あまりに彼らしくて笑っちゃいました。
「冬は冬の花」・・・仲良しだった茜の突然の出奔。茜は吹雪に過去を見られたことでショックを受け、怪しげな宗教団体にのめり込み始めたのだ。茜を取り戻すため団体の法話会に乗り込む和歌子と鈴音だが・・・・・
娼婦だった過去を持ちながら、明るく逞しく暮らしてきた茜。そんな彼女が無遠慮に過去を暴かれ、傷つく様子が痛々しいです。そういう痛みに付けこむエセ宗教家は許し難い・・・と思いつつ、この教祖自身も、最初からこんな生き方したかったわけじゃないのだろうしなぁ。ラスト一行の和歌子の祈りが叶っているといいのですが。
「夕凪に祈った日」・・・ひょんなことで知り合った女性記者からの頼み事。それは、記憶喪失の女性の身元を探してほしいというものだった。手掛かりは、女性が所持していたおしゃぶりと、野球カード。もしかしたら、これは女性の子どもの持ち物なのではないか。早速、鈴音はそれらを<見て>みるのだが・・・・・
第一話で鈴音を戦慄させた吹雪が再登場します。彼女の関与を経て判明した女性の素性は、あまりに残酷で悲しいものでした。誰が悪いわけでもないのに、記憶を取り戻した彼女は、きっと一生自分の行動を悔やみ続けるのでしょう。せめて終盤の鈴音の予測が当たっていてほしい・・・余談ですが、冒頭で語られる和歌子の弁当のウィンナー描写がやたら美味しそう!食べたくなっちゃいました。
「昔、ずっと昔」・・・顔なじみの刑事・神楽から、考古学者である兄を紹介された和歌子と鈴音。兄・桜丸は、発掘された石器を鈴音に<見て>ほしいのだという。姉妹はなりゆきで発掘現場まで同行することになるが、その最中、和歌子は意外な話を聞かされて・・・
石器に絡めて語られる、神楽兄弟の過去が壮絶でした。そんな思いをしながら、兄弟共に世を恨むことなく健やかに成長したのだから、きっとご両親も立派な人なんでしょうね。そして、シリーズ準レギュラーキャラクターだった秦野さんが、ここで異動。色々と至らぬところの多い人だったものの、いなくなると寂しいです。でも、ものすごく遠くに行ったわけじゃないし、また出てくることもあるのかな。
本作最大の不満は、二〇〇九年の刊行以来、三作目が出ていないこと。鈴音と因縁があるらしい吹雪の謎とか、何か含むところがありそうな父親の存在とか、語られていない部分が多々あるのに・・・続編出版とはいかないまでも、せめて連載開始の知らせが聞きたいものです。
戦争さえなければ、多くの不幸が避けられた度★★★★★
過去を忘れるのは悪いこと・・・?度★☆☆☆☆
わくらば日記に続編があったのですね。姉の鈴音の能力はサイコメトリ-とは少し違う気がしますが同じような能力を持つ女性が出てくるとは興味深いです。昭和の雰囲気と郷愁感溢れる作品は好きですので読んでみたいです。
櫛木理宇さんの灰いろの鴉、
垣谷美雨さんのもう別れてもいいですかを借りて来ました。
ノスタルジックな気分に浸りたい時はぴったりの作品です。
ただ、鈴音が早逝することが分かっているので、読み進める内に切ない気分になりますが・・・
垣谷美雨さんの新作は未チェックでした!
感想を楽しみにしています。