学生時代、とてもスタイルの良い女性の先生がいました。背が高く、手足が長く、スーツ姿で佇む様子は舞台女優さながら。そんな見た目とは裏腹に、とある疾患を抱えていて、長時間立ったり歩いたりすることが難しいそうです。ただ、何しろ容姿が健康的かつ華やかなので、バスや電車で優先席に座っていると「年寄りに席を譲れ」と怒られることもあるとのことでした。
外から見て症状が分かる病気と分からない病気。どちらもそれぞれ大変さがあるわけですが、後者の場合、<人に辛さが伝わりにくい>という苦労があります。また、この世には、<手術で病巣を除去しました。ハイ、完治>というわけにはいかない病気がたくさんあります。この本を読んで、そういった病と向き合い、乗り越えようと努める人達について考えさせられました。瀬尾まいこさんの『夜明けのすべて』です。
こんな人におすすめ
生き辛さを抱えた主人公が出てくるヒューマンストーリーが読みたい人
藤沢美紗。二十八歳。PMSによる突発的な苛立ちや怒りを抑えきれず、対処に苦慮中。山添孝俊。二十五歳。何の前触れもなく発症したパニック障害により、電車に乗ることさえままならない身に。同僚として知り合い、ひょんなことから互いの症状を知った二人は、自然とこう思うようになる。もしかしたら、この人を手助けしてあげられるのかも・・・・・一番暗い夜の後には、必ず夜明けがやって来る。生きていることがほんの少し楽しくなる、温かなヒューマンストーリー
タイトルは言わずもがなですが、相変わらず瀬尾まいこさんの作品は表紙も素敵ですね。本作の表紙は、砂時計の上と下、それぞれに描かれた男女と砂のイラスト。砂時計はひっくり返せば上下が逆になり、砂も下側に落ちていきます。しんどい側とそれを助ける側、交互に繰り返す主人公二人の関係性がよく表れていると思います。
主人公の美紗は昔からPMSを抱えており、生理前に起こる強烈な苛立ちを抑えることができません。そんな彼女の前に後輩として現れたのは、三歳年下の山添君。一見、何事にもしらっとやる気なさげな彼ですが、実は原因不明で発症したパニック障害に苦しんでいます。ふとしたきっかけでそれぞれの悩みに気付いた二人は、少しずつでも相手の力になってあげようと考え始めます。
この<相手の力になる>やり方が、本当に身近なことばかりで微笑ましいんですよ。パニック障害は身動きが取れない場所や人込みに行けないと知った美紗は、山添君の髪を切ってあげたり(こけしみたいな髪型にされる!)、感動した『ボヘミアン・ラプソディ』の感想を聞かせてあげたりする。PMSの怒りは他のことで気を紛らわせば収まるかもしれないと考えた山添君は、些事で苛つき始めた美紗を唐突に空き地に連れ出し、草むしりさせる。決して「ほら、こんなにあなたの手助けをしてあげているでしょう!」ではなく、ふっと思いついたことをさらりと実行していく二人の姿がユーモラスであり、心温まるものでもありました。
ただ、ほんわかした文章で書かれているとはいえ、美紗と山添君が抱える症状はかなり深刻です。この二人の場合、見た目はやつれているわけでもない健康な若者なだけあって、辛さを周囲に伝えるのは至難の業。美紗はヒステリー呼ばわりされ、山添君は病気発覚前に付き合っていた恋人と別れ、どちらも前職を辞めざるをえなくなります。私は女なのでPMSのことは多少なりとも知っていましたが、パニック障害についての知識は少なく、驚かされることが多かったです。山添君のように、特にストレスがあるわけでもなく、公私ともに特に不満のない人でも発症するケースがあるんですね・・・PMSにしたって、どこをどうしたら発症すると決まった病気ではないですし、先が見えず不安になる二人の描写が痛々しかったです。
そんな美紗と山添君を支えてくれる相手は、お互い以外にもいます。それが、二人が働く栗田金属の従業員達。この人達がほんとーーーに器の大きい善人揃いで、会社が絡む場面はどこもほっこりにっこりしっぱなしでした。飄々とした社長に、世話好きな事務員の住川さん。陽気な平西さんと物静かな鈴木さん。彼らは皆、美紗と山添君が抱える病を承知の上で、「心身ともに迷いなく健康な人ってそうそういない」と自然に受け入れてくれています。社長の場合、それはかつて辛い経験をしたからでもあるのですが・・・・・終盤、社長の過去が分かるシーンが胸に染み入りました。
私は瀬尾まいこさんの恋愛描写が好きなのですが、本作の二人の場合、恋愛関係とは少し違います。好きではなく、好きになることができる。今は良き隣人として手助けし合っているだけだけど、いずれ先に進む可能性はある。恋の激しさとは違う温かさがすごく素敵でした。主役ではなくてもいいので、いつか、どこかの作品にこの二人が再登場してくれればいいなと思います。
楽しみを持つことってやっぱり大事!度★★★★★
読んだらクイーンが聞きたくなる度★★★★☆
絵本のようなほんわかした表紙に大きい文字で書かれた文章でしたが、ストーリーはかなり深刻で生々しさを感じました。
障害のある2人が勤めている会社は規模は小さいですが器の大きい社風で皆優しい、それでいて仕事も出来る。
理想的な雰囲気を感じました。
彼らがその後、どうなったのか?
「そしてバトンは渡された」のように続編が読みたいです。
先週、金曜ロードショーで久しぶりに「グーニーズ」を観ました。
主人公の少年マイキーが「ロード・オブ・ザ・リンク」のサムだと知り驚きました。
主人公二人はもちろんですが、会社の人達の優しさ、懐の広さがとても素敵でした。
この会社や社長の前日譚も読んでみたいです。
そうそう、「グーニーズ」の主人公はサムなんですよ。
主人公の兄は「アベンジャーズ」シリーズのサノスだし、スペイン語が得意なクラークは「スタンド・バイ・ミー」のテディ(眼鏡の子)。
昔の映画を見て、出演者のその後を知って驚くのも楽しみの一つです。