私は基本的にどんなジャンルの小説も読む人間です。切なくも甘酸っぱい青春ラブコメだろうと、血飛沫が飛び内臓はみ出るスプラッターホラーだろうと、面白ければ何でもOK。そんな私が唯一、「なんとなくとっつきにくいかな」と思うジャンル、それが金融・経済小説です。根っからの文系人間のせいか、用語や世界観がなかなか頭に入ってこないんです。
ですが、面白いと感じた金融小説が一冊もないわけではありません。特に、池井戸潤さんの『半沢直樹シリーズ』と真山仁さんの『ハゲタカシリーズ』は、映像化されたこともあって世間一般の知名度も高いですね。今回ご紹介するのは、中山七里さんの『笑え、シャイロック』。もしかしたら上記の作品と並ぶ人気シリーズになるかもしれません。
こんな人におすすめ
銀行員が主役のミステリーが読みたい人
あまりに有能、あまりに冷徹、その人のあだ名は<シャイロック>---――銀行で順調に出世街道を歩んでいると思いきや、突如債権の取り立て部署に異動となり、落ち込む結城。そんな彼が師事することになったのは、敏腕すぎて<シャイロック>とあだ名される債権回収マン・山賀だった。情け容赦ない山賀の手法に驚きつつ、次第にその姿勢を尊敬し始めた結城だが、ある時、山賀が刺殺体となって発見される。一体誰が山賀を殺したのか。結城は混乱しながらも、山賀から引き継いだ仕事を懸命にこなしていく。そんな日々の中、どうやら山賀が銀行の暗部に触れてしまったらしいと分かってきて・・・・・
さっすが中山さん!と膝を打ちたくなるくらい安定の読みやすさ。このジャンルをこれだけさくさく読ませるって、なかなかできることじゃない気がします。金融知識ゼロ、どうかすると普通預金と定期預金の違いすら怪しい私ですが、本作は混乱することなく一気読みできました。
主人公の結城は、銀行の営業部から債権回収部署に不本意ながら異動となり、内心面白くありません。直属の上司となったのは、<シャイロック>というあだ名のある敏腕回収マン・山賀。山賀の容赦もなければブレもない仕事ぶりを次第に尊敬するようになる結城ですが、ある時、山賀は何者かに刺し殺されてしまいます。動揺から覚める間もなく、山賀がやり残した仕事の後任となる結城。彼は、仕事をこなす傍ら、事件を追う刑事・諏訪の協力のもと、山賀の死の真相を暴こうとします。
私はこのあらすじを知った時、これはきっと『ヒポクラテスシリーズ』や『能面検事』と同じく、<型破りな上司の下についた若手の成長物語>なんだろうなと思いました。事実、序盤で発揮される山賀の仕事ぶりはまさに<凄腕>の一言。これは今後が期待できそう・・・と思いきや、なんと山賀は前半であっさり死亡!!どんでん返しに定評のある中山さんですが、本作に限って言えば、ミステリー部分よりもここが一番のどんでん返しでした。
とはいえ、山賀の死で物語が失速するわけではありません。中盤からは、山賀の志を受け継いで債権回収に勤しみつつ、犯人を見つけようとする結城の奮闘が見られます。宗教団体やベンチャー企業、暴力団などを相手取り、押してだめなら引いてみろ、引いてだめなら重機持って来てもう一度押せとばかりに、あの手この手で債務者と攻防戦を繰り広げる結城の姿がとてもしぶとくて爽快です。主人公の所属団体である銀行を、<正義側というわけではない>と描写している点もリアリティありますね。正直、肝心のミステリー部分の魅力が霞むほど、この債権回収場面の描写は面白かったです。
あえて不満点を挙げさせてもらうとすれば、やっぱり山賀の退場が早すぎた点でしょうか。中山さんもわざとやっているんでしょうが、彼の一筋縄ではいかない<シャイロック>ぶりをもっと見たかったです。あと、中山ワールドおなじみの宏龍会が出てきたのだから、食えない渉外委員長・山崎にも登場してほしかったなぁ。もっとも、これは本作がシリーズ化されれば叶う可能性があるので、第二弾に期待することにします。
<シャイロック>には<シャイロック>なりの矜持がある度★★★★★
銀行の闇はなかなか深い・・・度★★★★☆
金融ミステリーで読み終わった時、池井戸潤さんの作品だった?と思うほどでした。
山賀についた結城~最初は頼りないような感じでしたが、見事な駆け引きと対応力で、債権回収する手口は見事でした。
半沢直樹とは違ったパターンで楽しめました。
山賀が早く退場したのが残念ですが、出てきた瞬間怪しいと感じた女性上司がやはり~と思った結末が残念でした。
第二弾が楽しみです。
「再び嗤う女」で登場した宗教法人が出てきたので蒲生美智留との対決がありそうで、そこに渡瀬警部と能勢検事が絡んだら面白そうです。
半沢直樹のように「ばしっとやり返す」という感じではありませんが、銀行員の葛藤やジレンマがよく表れていたと思います。
結城の成長ぶりも頼もしくて◎!!
お金関係のトラブルが出て来る関係上、今後、蒲生美智留との対決があってもおかしくありませんね。
楽しみです。