柴田よしき

はいくる

「貴船菊の白」 柴田よしき

日本語って、とても美しい言語だと思います。もちろん、どの民族にとっても自国の言葉は誇れるものなのでしょうが、神々が出雲大社に集まる十月を<神無月>(出雲地方では神在月)と呼んだり、雪の結晶の多くが六角形をしていることから雪を<六花>と表現したりする感覚は、日本語独自のものではないでしょうか。こういう雅な表現が大好きな私は、学生時代、古文の資料集を読んで悦に入っていたものです。

美しい日本語が出てくる小説となると、夏目漱石や川端康成、梶井基次郎といった、一昔前の文豪達の作品がたくさん挙がります。そういうのは取っつきにくいからまずは現代の作家さんで・・・という場合は、江國香織さんの『すいかの匂い』、長野まゆみさんの『少年アリス』、恩田陸さんの『蛇行する川のほとり』など、日本語の涼やかさや気品高さをたっぷり堪能できますよ。それから、この作品の言葉選びもうっとりするほど魅力的でした。柴田よしきさん『貴船菊の白』です。

 

こんな人におすすめ

京都を舞台にしたサスペンス短編集が読みたい人

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「小袖日記」 柴田よしき

「最初から最後まできっちり読み通したことはないけど、大まかなあらすじは知っている」「漫画版や実写版しか見たことない」という小説って、意外と多いです。私の場合、ぱっと思いつくのは森鷗外の『舞姫』や太宰治の『人間失格』。一昔前の文豪の作品は、文体が現代と異なっていることもあり、なんとなくとっつきにくく感じてしまいます。

そして、「昔の作品なので全部読み切るのはちょっと大変」の代表格は、紫式部の『源氏物語』ではないでしょうか。日本最古の長編小説であり、翻訳され海外でも読まれている名作ながら、何しろ全部で五十四帖から成る超大作。幸い、大和和紀さんの漫画『あさきゆめみし』や荻原規子さんの『源氏物語』など、読みやすくまとめられた作品がたくさんあり、ストーリーを知るのに不自由はしません。現代の作家が古典を再構築する場合、独自の解釈が加えられることが多く、原作との違いを比べてみたりするのも面白いです。この作品の解釈の仕方も、かなり大胆かつ斬新で面白かったですよ。柴田よしきさん『小袖日記』です。

 

こんな人におすすめ

『源氏物語』をテーマにしたほのぼのミステリーが読みたい人

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「お勝手のあん」 柴田よしき

私は昔から食べることが大好きです。嫌なことがあれば好物を食べてリフレッシュしようとするし、旅先でまず調べるのは現地の美味しいお店や名物料理。だからこそ、美味しい料理を作ってくれるコックさんのことは無条件で尊敬してしまいます。

調理師を主役にした小説は数えきれないほどありますが、どちらかというと男性を主人公にしたものの方が多い気がします。調理師の世界は筋力・腕力が求められる上、職人気質が色濃く長年に渡って修行する必要があるため、妊娠や出産でキャリアを中断するケースが多い女性はまだまだ少ないのだとか。とはいえ、だからといって女性の味覚や料理のセンスが劣っているということにはなりません。優れた料理の腕を持つ女性は、今も昔も大勢存在します。今回ご紹介するのは、柴田よしきさん『お勝手のあん』。初の時代小説ということで楽しみにしていましたが、期待以上の良作でした。

 

こんな人におすすめ

・幕末を舞台にした小説が好きな人

・料理人の成長物語が読みたい人

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「夜夢」 柴田よしき

<夜>という時間帯には二つの顔があります。一つは、太陽の光が消え失せ、(場所にもよりますが)昼と比べて人気が少なくなり、なんとなく不気味さや心細さを感じさせる顔。キリスト教において夜は神の救済が届かない闇の領域ですし、日本神話でも、ツクヨミという神が殺生を犯して追放されたことで夜の世界が生まれたとされています。その一方、夜には安らぎや落ち着きを感じさせる顔もあります。実際、一日の仕事を終えて自宅で寛いだり、眠ったりできる夜が一番好きという人は結構いるのではないでしょうか。

夜をテーマにした小説は数えきれないほどありますが、私が印象に残っているのは赤川次郎さんの『夜』と、恩田陸さんの『夜のピクニック』。前者は大地震で孤立した人々の夜を描くパニックサスペンス、後者は<歩行祭>という行事を通して成長していく高校生達を描いた青春小説でした。どちらも読み応えある良作ですが、そこそこボリュームがあるため、空き時間にさらりと読むには不向きかもしれません。というわけで今回は、夜をテーマにした読みやすい短編集を取り上げたいと思います。柴田よしきさん『夜夢』です。

 

こんな人におすすめ

人の業を描いたホラー小説が読みたい人

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「猫と魚、あたしと恋」 柴田よしき

「最近疲れて病んでるんだよね」「あの人、ヤバいよ。壊れてるって」そんな会話を交わしたことがある人も多いのではないでしょうか。<病む>とか<壊れる>とかいう言い方は、気軽に使われることがけっこうあります。私自身、簡単に「めっちゃ病み気味なんだ」とか言っちゃう方かもしれません。

ですが、本当に<病んで><壊れた>人間がいた場合、この言葉はとても重くなります。それは、スティーブヴン・キングの『ミザリー』や五十嵐貴久さんの『リカ』などを読めばよく分かりますね。この短編集にも、それぞれの理由で壊れてしまった女性たちが登場します。柴田よしきさん『猫と魚、あたしと恋』です。

 

こんな人におすすめ

女性中心の心理サスペンス小説が読みたい人

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「少女達がいた街」 柴田よしき

「青春」という言葉の成り立ちは案外古く、古代中国の五行思想に登場しているそうです。本来は「春」という季節を意味する単語であり、転じて日本では「人生において、未熟ながら若々しく元気に溢れた時代」という使われ方をするようになったんだとか。何歳が青春なのかというと、これは人それぞれ考え方があるでしょうが、一般的には大体中学生くらいから二十歳前後といったところでしょうか。

「未熟な登場人物が成長する」というストーリーを成立させやすい分、青春時代を扱った小説は数限りなくあります。あまりにありすぎて挙げるのが大変なくらいですが、ぱっと思いつくだけでも恩田陸さんの『夜のピクニック』、金城一紀さんの『GO』、山田詠美さんの『放課後の音符(キイノート)』などなど名作揃い。これらはすべて切なくも瑞々しい青春時代を描いた爽やかな物語ですが、中には青春の苦さ、痛々しさをテーマにした作品もあります。それがこれ、柴田よしきさん『少女達がいた街』です。

 

こんな人におすすめ

ノスタルジックな雰囲気のあるミステリーが読みたい人

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「ねこ町駅前商店街日々便り」 柴田よしき

子どもの頃、商店街に行くのが好きでした。本屋に文房具屋、パン屋に映画館。小さい分、従業員さんたちと会話することができ、ワクワクドキドキしたものです。今はもっと大きなデパートやショッピングセンターがあちこちにあって楽しい反面、慣れ親しんだ商店街が廃れていくのは寂しいです。

今、全国にはシャッター通りと化した商店街がたくさんあります。そこをどう再生し、人々の生活を潤すかは、テレビや新聞でしばしば取り上げられるテーマですね。そんな商店街の奮闘を描いた作品、柴田よしきさん『ねこ町駅前商店街日々便り』。この町、行ってみたいです。

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「風味さんのカメラ日和」 柴田よしき

写真撮影は好きですか。私自身は撮る方は決して上手ではありませんが、見るのは大好き。インターネットで美味しそうなスイーツの写真を見つけては、一人ニンマリしていることもしばしばです。

今はスマートフォンなどの普及により、一昔前よりずっと手軽に写真が撮れるようになりました。それはもちろん楽しいことだけれど、時にはしっかりとカメラを構えて写真撮影するのも面白いかもしれません。今日取り上げるのは、柴田よしきさん『風味さんのカメラ日和』。最近忘れていた、「レンズを通して物を見ることの楽しさ」を思い出せた気がします。

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「青光の街(ブルーライト・タウン)」 柴田よしき

イギリスの女流作家、P・D・ジェイムズの著作に『女には向かない職業』という推理小説があります。この職業というのは「探偵」のこと。知力だけではなく、体力や筋力が求められることも多いであろう探偵稼業は、「女性には向かない」と思われがちだったのかもしれません。

とはいえ、そんな考え方があったのはもう昔の話。今や現実世界でもフィクションの中でも優秀な女探偵は数えきれないほど存在しますし、『女には向かない職業』の主人公も女性です。最近、魅力的な女探偵が登場する小説を読んだので紹介します。柴田よしきさん『青光の街(ブルーライト・タウン)』です。

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「淑女の休日」 柴田よしき

両親が旅行好きだということもあって、子どもの頃から旅をする機会は比較的多い方だったと思います。名所を巡ったり、お土産を買ったりすることももちろん楽しいのですが、同じくらい楽しみなのは、どんなホテルに泊まるかということ。家とは違うベッドやバスルーム、広々としたレストランの朝食ビュッフェなど、ワクワクして仕方ありませんでした。

大勢の人間が出入りし、様々なドラマが展開する場所ということもあって、ホテルを舞台にした創作作品も多いですね。一言でホテルと言っても、観光地にあるリゾートホテルからサラリーマンが素泊まりするビジネスホテル、カップルが利用するラブホテルなど色々な種類がありますが、今日取り上げるのは都会に建つシティホテルが舞台の作品。柴田よしきさん『淑女の休日』です。

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