家庭の在り方は千差万別。共働き世帯もあれば、片方が働いて片方が専業主婦(夫)という家もあり、母子家庭や父子家庭だってあります。そして、家庭の数だけ喜びがあると同時に、悩みや悲しみも生まれます。
当ブログでも、家族にまつわる小説をいくつか紹介してきました。たくさんの作家さんに取り上げられるということは、それだけ「家庭」というテーマが興味深いものだからなのでしょう。最近、こんな家族に関する小説を読みました。辻村深月さんの『クローバーナイト』です。
会計士の夫、オーガニックコットンブランド経営者の妻、可愛らしい二人の子ども。一見幸せそのものに見える鶴峯家の周りにも、子育てにまつわる様々なトラブルが一杯。保育園探しに奔走する夫婦が取った驚きの行動、小学校受験のため追い詰められる幼稚園ママ、なぜか子どものお誕生会に難色を示す父兄・・・・・数々の試練を乗り越えて、鶴峯夫妻は子ども達の幸せを守る騎士「クローバーナイト」になることができるのか。
ファッション誌「VERY」に連載されていただけあって、主人公である鶴峯一家はとても恵まれた境遇に在ります。夫婦ともにしっかりした経済力を持ち、一男一女に恵まれ、家族全員健康で身内との仲もまずまず。しかし、そんな彼らでも、子育てに関するトラブルから逃れることはできません。以下、収録作品に関するあらすじと感想です。
「イケダン、見つけた?」・・・誤送信されたメールが巻き起こす、一人の母親の不倫疑惑。噂を巡り、保育園にはぎくしゃくした空気が流れる。だが、そのメールにはまったく違う解釈の仕方があって・・・・・
第一話ということもあり、鶴峯家の紹介も兼ねたエピソード。父親の裕の優しさ、母親の志保の快活さなどがよく伝わってきます。ちなみに、タイトルの「イケダン」とは、仕事ができる上に良き家庭人でもある「イケてる旦那」のことだとか。うーん、知らなかった!
「ホカツの国」・・・得意先の社長に頼まれ、保育園探しについて経験談を話すことになった鶴峯夫妻。社長夫人である紘子は、保育園が見つからず相当悩んでいる様子だった。その後、何と社長夫妻は保育園を見つけるために偽装離婚することにしたという。果たして彼らは本当に別れてしまうのか。
「切迫した事情を抱えた家庭ほど保育園の審査に通りやすい=偽装離婚しよう」という発想に驚愕。でも、「日本死ね」が話題になった通り、保育園探しで心身共に疲れ果てる保護者も多いようですね。身勝手な社長に苛立つ反面、裕の勤め先の上司の男気がカッコ良かったです。
「お受験の城」・・・大学時代の友人である由依に再会した鶴峯夫妻。由依は娘を名門幼稚園に通わせ、小学校受験を考えているという。大変そうながらも楽しげだった由依だが、後日見かけた由依親子は周囲から孤立しているようだった。一体彼女達に何があったのか。
こ、こんな幼稚園って本当にあるんでしょうか?教育者とは思えない、あまりのデリカシーのなさに唖然とさせられます。また、女性同士の友達付き合いの難しさについても色々考えさせられました。ラスト、逞しく成長した由依に拍手!
「お誕生会の島」・・・他の幼稚園から転園してきた琳ちゃんの母・明日実は元モデル。華やかな明日実に色めき立つ保護者たちだが、なぜか明日実は子どもの誕生祝いに乗り気ではなく、「お高く止まっている」と噂されてしまう。そんな明日実の態度から、志保は一つの可能性に気付き・・・・・
子どもの誕生会といえば、家のリビングを折り紙の輪で飾り付け、唐揚げやケーキを食べる程度のイメージしかなかった私。まさか開催場所やプレゼント、解散時のお土産まで細かく気にしなければならない世界があるとは驚きでした。琳ちゃんが自分の誕生日を誤魔化す理由が、あまりに健気で切ないです。
「秘密のない夫婦」・・・志保の海外出張中の不審な行動。まるで浮気を思わせる振る舞いだが、裕にはどうしてもそう思えない。それにはきちんとした理由があって・・・・・
前の四話は「親と幼い子ども」がテーマでしたが、この話のテーマは「母と子」。愛し合っているはずなのに、ともすれば相手を縛り依存してしまう親子・・・なんだか他人事とは思えませんでした。どこの親子にも、多かれ少なかれこういう側面があるのかもしれません。妻に対して取った、裕のある行動に心が温かくなります。
タイトルの「クローバーナイト」は、鶴峯家にある四葉のクローバー型の写真立てに由来しています。この理由がものすごく素敵。私自身、現在子育て中ですが、いつか胸を張って我が子のクローバーナイトだと名乗れる存在になりたいものです。
家庭は社会の縮図だなぁ度★★★★☆
子どもは幸せでなきゃいけない度★★★★★
こんな人におすすめ
ハートウォーミングな家族小説が読みたい人
育児中と共働きの夫婦に読んで欲しい作品ですね。
育児真っ最中の作者の理想を感じる作品です。
正気かどうか疑うような子供の誕生日パーティーや手段を問わないホカツ、お受験の熾烈な争いなどリアルに描いてありました。
父親はクローバーナイトでありたいと思わせる作品でした。
読んでいて心が温かくなるストーリーでした。
育児真っ最中の私は、読みながら「えっ、誕生日パーティーってこんなことするの?」「お受験ってこんなに大変なの?」とドキドキしてしまいました。
しんくんさんの仰る通り、辻村さんはこういう子育てをしたいんだと思います。
父親だけでなく、母親もまた我が子のクローバーナイトでありたいものです。