「家」という言葉には、様々なイメージが付きまといます。ほのぼのと温かく、住人を守ってくれるイメージを持つ人もいるでしょう。と同時に、牢屋のように閉鎖的で、人を捕えるイメージだってあると思います。
前者の場合はラブストーリーやヒューマンドラマ、後者の場合はサスペンスやホラーの舞台となる「家」。「家」がキーワードとなるホラー小説といえば、貴志祐介さんの『黒い家』や小野不由美さんの『残穢』が有名です。ですが、この作品に登場する家も、それらに負けず劣らず恐ろしいですよ。澤村伊智さんの『ししりばの家』です。
多忙な夫との東京暮らしに空しさを感じていた果歩は、ある時、昔馴染みの平岩敏明と再会する。平岩家の人間たちとの触れ合いに安らぎを見出す果歩だが、間もなく家中に尋常ではない量の砂が溜まっていることに気付く。異変を意に介さない家人たち、平岩家を見張る不審な男、やがて突き付けられた戦慄の真実。驚愕する果歩を襲う、さらなる恐怖とは・・・・・
『ぼぎわんが、来る』『ずうのめ人形』に続く比嘉姉妹シリーズの第三弾。本作には姉妹の長女にしてシリーズ最強の霊能力者・比嘉琴子が登場します。前二作を知らなくても差し支えのない内容ですが、シリーズを追ってきた私としては、琴子の幼少期を見ることができて嬉しいですね。彼女が霊能力に目覚めたきっかけも描かれており、ファンなら見逃せない一作だと思います。
物語は、二つの視点で交互に進んでいきます。一つは、ひょんなことから平岩家と関わるようになった人妻・果歩の視点。ワーカホリックな夫とすれ違い気味だった果歩は、昔馴染みの平岩敏明やその妻・梓、平岩家で同居する祖母との交流を心の支えとするようになります。そんな彼女の目に映った、家のあちこちに積もる砂の山。奇妙に思う果歩に、敏明はこう答えます。「そんなの、普通じゃん」と・・・・・
もう一つは、平岩家を監視する男・五十嵐の視点です。実はこの五十嵐は少年時代、当時まだ空家だった平岩家にクラスメイトとともに忍び込んだ経験があるのです。一緒に行った友達の内、一人は原因不明の病に冒されて死亡し、もう一人は正気を失って徘徊した挙げ句に交通事故死。五十嵐自身は命こそ助かったものの、「頭の中で絶えず砂の音が聞こえる」という現象に悩まされ、まともな社会生活が送れなくなっていました。
果歩と五十嵐の人生がどこで交錯するのか、この家には一体何が棲んでいるのか。そこも気になって仕方ありませんが、それ以上に気になるのが、物語を埋め尽くすかのような砂・砂・砂・・・「ざああああっ」という、妙に臨場感のある描写のせいもあり、こちらの体まで砂っぽくなるようでした。この本を読んで以降、家の中の砂や原因不明の咳にびくついてしまう読者も多いのではないでしょうか。
本作のテーマとなるのは「家族を守ること」です。果歩の夫は家族のために懸命に働きますが、そのせいで妻を孤独にし、結果として怪異に巻き込まれます。また、果歩と関わる平岩夫妻も、彼らなりに家族を守ろうとしていました。「守る」という、本来尊いはずの行いが道を踏み外すとどうなるか。その恐ろしさをまざまざと見せつけられた気がします。
色々なレビューで言われていますが、「ぼぎわん」「ずうのめ」「ししりば」と、使われる言葉の不気味なこと!澤田伊智さんは「意味不明だけどゾクリとする言葉」を作る天才ですね。今後もぜひ、謎めいた怪異を生み出していってほしいものです。
オノマトペが目に焼き付く度★★★★☆
ワンコ大活躍!度★★★★★
こんな人におすすめ
幽霊屋敷を扱ったホラー小説が読みたい人
最初の文章と写真だけで怖そうなイメージです。
シリーズなんですね。
ホラーに深いヒューマンドラマもあり面白そうです。
今邑彩さんに近いイメージで楽しみです。
これも覚えておきたい作家さんですね。
気に入った作家さんはすぐに読み終えてしまうので岸田るり子さんと共にチェックしたいと思います。
今邑彩さんに土着的な要素を加えた感じですね。
シリーズですが単体でも成立しているので、どこから読んでも楽しめると思います。
比較的最近出てきた作家さんで、著作もまださほど多くないので、いったん読み始めたらすぐ読破できると思いますよ。