女性同士の人間関係は難しい。これ、色々なところでよく使われる言い回しです。女の立場から言わせてもらうと、男性同士の人間関係もけっこう難しいと思うんですが・・・とはいえ、同性ばかりが集まると、異性が混じっている時とは違う軋轢やしがらみが生じることは事実でしょう。
私はイヤミスが大好きなので、女性同士のドロドロを扱った作品はたくさん読みました。ですが、さすがに小説やドラマになるような争いなど、そうそう起こらないもの(と思いたい)。女性のリアルな駆け引きを描いた作品といえば、これなんてお勧めですよ。直木賞をはじめ数多くの文学賞を受賞し、エッセイストとしても有名な藤堂志津子さんの『娘と嫁と孫とわたし』です。
息子の死後、未亡人となった嫁の里子・孫娘の春子と同居し、程々に穏やかな日々を過ごす六十五歳の玉子。人妻であるはずの娘の葉絵は、たびたび里帰りしてきては実子ならではの不平不満をまき散らす。加えて起こる、嫁にまつわる恋の噂、身勝手な夫の闘病騒動、娘が心酔する怪しい夫婦とのてんやわんや・・・・・血の繋がりがある女とない女、それぞれの悲喜こもごもをコミカルに描いた傑作家族小説。
あとがきで作家の吉田伸子さんが書いている通り、まさに映像化にピッタリの作品。おっとりしつつも時々姑らしい棘を見せる玉子、大人しそうに見えて意外な裏の顔を持つ里子、美貌に恵まれながら兄との扱いの差に今なお不満タラタラの葉絵など、登場人物たちの行動一つ一つが生き生きしていて、読みながら彼女たちの姿が目に浮かぶようでした。私なら、玉子は倍賞美津子さん、里子は尾野真知子さん、葉絵は篠原涼子さんをキャスティングするかなぁ。
本作は連作短編集の形式で、第一話では主な登場人物紹介と里子の恋の話、第二話では息子の死後に出奔してしまった玉子の夫について、第三話では葉絵がのめり込む胡散臭い夫婦との攻防が描かれます。一つ一つは結構真面目な悩みですし、特に玉子の無神経すぎる夫には本気でイライラさせられますが、物語の主旨はそこではありません。騒動の陰に見え隠れする女性たちの本音や微妙な力関係など、「女性あるあるネタ」が満載です。私の場合、葉絵が子どもの頃の出来事をいちいち持ち出し、「お母さんは私をないがしろにしていた」と責める場面、対する玉子がそのことをまるで覚えていない場面に思い切り感情移入してしまいました。母娘って、多かれ少なからこういうところがありますよね。
また、この手の女性同士の小説の場合、ともすれば男性がやけに情けないか、そもそも存在が空気と化すかのどちらかになりがちです。ですが本作の場合、玉子の夫の従兄弟である秋生というキャラクターを出すことで、男性という存在にも彩を与えています。この秋生、一見すると物腰柔らかな善人なのですが・・・彼がある場面で見せる、女性とはまた違った腹黒さにはゾクッとさせられました。こういう描写がさらりとできる女性作家さんって、なかなか貴重ではないでしょうか。
とても面白い作品なのですが、たった一つだけ残念な点が・・・タイトルが『娘と嫁と孫とわたし』にも関わらず、孫である春子があまり活躍しないのです。ここはぜひ、藤堂志津子さんに続編を書いてもらい、春子のエピソードも読んでみたいですね。
女の本音ってこんな感じだよね度★★★★☆
善人ではないけど憎めない度★★★★☆
こんな人におすすめ
リアリティあるホームドラマ小説が読みたい人
未読の作家さんですが、これまでとは違った形のイヤミスが楽しめそうです。
コミカルなイヤミスとは非常に興味が沸きました。
映像化に向いた作品というのも良いですね。
倍賞美津子さんや尾野真知子さんなどいかにもイヤミスに合いそうな女優さんが出てくる雰囲気が想像出来そうです。孫があまり登場しないというのは読む前から物足りなさを感じますが作品にどう影響するのか楽しみです。
昔よくドラマで観た山口智子さんや鈴木保奈美さん、鈴木杏樹さんもイヤミスに登場したら面白そうです。
イヤミスというか、女同士の微妙な心理状態を描いた家族小説です。
もともと上品な文章を書く作家さんなので、後味の悪さは一切なし。
山口智子さんがイヤミス・・・いいですね!
快活でポジティブなイメージのある女優さんですから、180度雰囲気の違うドロドロ作品に出てほしいです。