幼稚園受験、小学校受験、中学受験、高校受験、大学受験・・・学生時代には受験が何度かあります。<中学まで公立に行って、卒業後に就職>という進路を選ぶことも可能ですが、現代日本の事情から考えるに、割合としては少数派でしょう。どこかのタイミングで一度は受験を経験したという人の方が多いと思います。
これらの受験のうち、<親・家庭の負担>という意味では、中学受験が一番大変だそうです。中学どころか高校レベルの問題が出題されることもあり得る上、年齢的にも不安定で難しい時期。この時期の子どもに、受けないという選択肢もある試験へのやる気を出させ、長い時間をかけて膨大な量のカリキュラムをこなさせ、ベストコンディションで本番に臨めるよう伴走するのは本当に大変なんだとか。本人と同じくらい、親の馬力も試される場なのでしょう。今回は、お受験が大きく絡んだ作品を取り上げたいと思います。秋吉理香子さんの『修羅の桜』です。
こんな人におすすめ
中学受験が出てくるミステリーに興味がある人
愛する我が子は、一体何をしてしまったのだろうか---――難関中学への合格を目指し、勉強漬けの日々を送る四人の少年たち。各家庭とも緊張と疲労に苛まれる中、ダントツで優秀だった少年が失踪する。自発的な家出か、不慮の事故か、何らかの事件に巻き込まれたのか。有志の捜索隊が組まれるも、少年の行方は分からない。そんな中、ある家庭で、失踪事件への関与を疑わせる物品が見つかる。そんな馬鹿な。まさか、あの子の失踪に息子が関係しているとでも・・・・・受験という場で翻弄される親と子の人間模様を描いたヒューマンミステリー
秋吉理香子さんは、言わずと知れた人気作家であり、新刊が出ると本屋の新刊コーナーの目につく場所に並べられることが多いです。ですが、うちの近所の本屋がたまたまそうだったのか、それとも私が気づかなかったのか、本作は刊行されていることをしばらく知りませんでした。とても面白い作品だったので、見逃したままにならなくて良かったです。
同じ小学校から、中学受験に強い有名塾に通う四人の男子小学生がいます。ある日、その中でも抜群に成績優秀な少年・多聞が姿を消しました。当初はただのサボりかと思われていましたが、間もなく事故ないし事件の可能性が浮上。警察が出動し、ボランティアの捜索隊が組まれ、周辺は物々しい雰囲気に包まれます。と、ここで、一人の少年の自宅から多聞の物と思しき血痕付きのジャンパーが、また別の少年の自宅からは多聞誘拐を匂わせる脅迫状が発見されました。まさか、息子は多聞失踪に関与しているのか。驚愕し、どうにか隠蔽できないかと悩む保護者たち。しかし、真相は彼らの予想をはるかに超えたところにありました。
序盤から繰り返される中学受験描写はハードの一言。今一つ勉強に身が入っていないように見える息子に対し「不合格だったら、これまでかけたお金をどぶに捨てたことになるんだらね!」と絶叫する親、息子が夜尿症やチックを発症しているのに「もう受験やめて休みなさい」と言えない親、成績トップの多聞が消えたことで「このまま戻ってこなければ、枠が空く。うちの息子が入れる」と喜ぶ親、「レベルの合わない子とは遊ばせなくない」という理由で成績不振の友達との付き合いを禁じる親・・・前述した通り、中学受験は親の伴走が物を言う部分が大きいです。だからこそ、受験する子ども本人ではなく親の方が焦ってしまうというのも、十分あり得る話なのでしょう。この親たちが、別に悪人などではなく、普段は常識ある一般人だと分かる描写にしてある分、受験を巡って目の色を変える様子はかなりキツかったです。
ただ、この手のお受験小説はやり様によってはいくらでも陰鬱にできるのですが、本作はそこまででもありません。それは恐らく、キリキリ舞いまくる大人たちに対し、健やかな子ども達の姿もちゃんと描いてくれているから。作中、少年の一人が大人に対し、「これがスポーツなら、必死でやることを健全だと言われる。なのに、勉強だとがり勉扱いされてからかわれたり、『犠牲ばかりで可哀想』と同情されたりする。僕らはたまたま、勉強というフィールドで競技することを決めただけなのに」と語るシーンは印象的でした。確かに、勉強が好きで、点数を上げることが楽しくて、受験勉強に励む子がいるならば、それはそれで十分健全なんですよね。私自身、無意識に<お受験小説=過度のプレッシャーをかけられて気の毒な子ども達>という先入観があったと気づかされました。子ども達が関わる場面が全体的に真っ当なので、本作の雰囲気も暗くなりすぎないのだと思います。
そして、本作はミステリーとしても秀逸です。公式あらすじに堂々と記載してあるので書いてしまいますが、本作には叙述トリックが出てきます。目新しいタイプの仕掛け方ではないものの、描写が自然なので普通に読み進めてしまいました。というかそもそも、このトリックに気づいたとしても、真相到達にはさらに一ひねりあるところが心憎いんですよ。終盤はとにかくスピード感満載なこともあり、「え、その人!?おまけに、そういうこと!?」と驚きっぱなしでした。
タイトルが物々しいこと、子どもが絡むこともあり、バッドエンドだったらどうしようかと思いましたが、最後は救いがあって一安心。暴走気味だった親の視野も広くなったようで良かったです。ところで、作中で子ども達が通っていた塾、こういうお受験作品の名門塾にありがちなガッチガチにシステマチックなものではなく、生徒一人一人に寄り添った指導をしてくれるところでいいですね。こういう塾があるなら、私も子ども時代に通ってみたかったです。
ピリピリしていく人間の描写がリアル度★★★★★
子どもたちの未来が幸多いものでありますように度★★★★★








最近は受験に関する小説やドラマが少なくなった気がしますが、自分が見ないだけでしょうか。受験に秋吉理香子さんが描くとなかなかスパイスが効いた内容になりそうです。図書館で検索したら予約が入っていないので借りてこようと思います。
アミの会で秋吉理香子さんの短編がありますが、流石にスパイスが効いたオチでした。中山七里さんの「正義の銃弾」読み終わりました。最初から波乱の展開で徐々に落ち着いているイメージでも最後までハラハラしました。東野圭吾さんの最後の作品も読み終わりました。
受験を巡る人間模様は生臭かったですが、読後感は良いです。
そういえば、受験を巡る小説を読んだのは、角田光代さん「森に眠る魚」以来かもしれません。
中山七里さん、刊行ペースが速すぎて全然追いつけず、嬉しい悲鳴を上げています。
やっと能面検事シリーズ最新刊が図書館に入ったので、大喜びで予約しました。