学校というのは、良くも悪くも<閉ざされた場所>です。もっとのびのび開放的な場所であってほしい・・・と願う反面、成長途中の子ども達の個人情報と喜怒哀楽が入り乱れる場所である以上、あまり自由気ままというわけにもいかないのだろうなとも思います。この特殊性に馴染めればいいのでしょうが、受け入れられない生徒にとって、学校はただただ辛いだけの場所になりかねません。生きていくからには、誰しもある程度の我慢は必要なものの、図書室でも保健室でもいいから、悩める生徒の救いの場が一つでもあってほしいと心から思います。
もっとも、学校を辛いと感じる可能性があるのは、何も生徒に限った話ではありません。場合によっては、教師だって同様です。むしろ、賃金を得る立場だからこそ、生徒とは違う意味で過酷な状況に晒されることだって十分あり得ます。もちろん、どんな職業だって、遊びじゃないのだから、ある程度の受容と忍耐は不可欠。だけど、いくらなんでもこんな学校に勤めるのはかなり嫌かも・・・・・今回は、くわがきあゆさんの『先生と罪』を取り上げたいと思います。
こんな人におすすめ
学校を舞台にしたどんでん返しミステリーに興味がある人
トロい奴、弱い奴、みんな死ねばいい―――――赴任してきたばかりの市立中学で、晴(はる)は衝撃的な出来事を経験する。同僚教師・結衣が、晴と電話した直後、交通事故死を遂げたのだ。死の直前の電話によると、結衣はあおり運転の被害に遭っていたらしい。捜査線上に加害者は浮かばず、釈然としない思いを持て余す晴。そんな彼女を追い詰めるかのように、様々な事件が起こる。問題行動を起こす生徒たち、身勝手な保護者、校内に貼られた中傷ビラ、晴の周囲を嗅ぎまわっているらしい謎の男。私を追い詰めようとするのは一体誰なのか。混乱しながら夏の宿泊合宿に臨む晴だが・・・・・この真相、見破れますか?謎が謎を呼ぶジェットコースター・ミステリー
タイトルといい、清楚な女性がにこやかに教壇に立つ表紙絵といい、「絶対に不穏なんだろうな」というフラグがビンビン立っている本作。いざ読み始めてみたら、予想に違わぬ強烈な作品でした。思えばくわがきあゆさんの作品で、こんなに表紙が爽やかなことって初めてな気が・・・この方の場合、「看板が爽やかだからこそ、中身はエグいに決まってる」と思ってしまいます。
主人公は、教育困難校で三年間勤め上げた後、別の市立中学へ赴任したばかりの女性教師・晴。前任校と違い、新たな勤務先の生徒たちは落ち着いていて、ほっと胸をなでおろしたのも束の間、事件が起こります。同僚教師・結衣が、運転中にあおり運転の被害に遭い、死亡したのです。一体どうしてこんなことになったのか。動揺から立ち直る間もなく、晴は結衣が受け持っていた三年五組の担任を任されました。不登校の生徒やモンスターペアレントと向き合う、めまぐるしい日々。そんな中、晴の祖父がかつて死亡事故を起こしたことを中傷するビラが校内に貼られます。時置かずして、晴が対応していた保護者(モンスターペアレントとして有名)が事故で急死、実家周辺に家族情報を聞き出そうとする不審者の出没と、晴の周りで立て続けに不審な出来事が勃発。もしかして、私は何らかの悪意の標的になってしまったのでは・・・嫌な予感を覚えつつ、夏の恒例行事である宿泊合宿に出向く晴。そこで晴を待っていたのは、想像をはるかに上回る衝撃的な真実でした。
くわがきあゆさんの作品には様々な犯罪が登場しますが、本作で大きく描かれるのはあおり運転。許されざる悪質な犯罪なのは言うまでもないとして、印象的なのは、加害者側の視点が複数回出てくる点でしょう。加害者が被害者の車にイラつく心理、攻撃的な運転を仕掛ける様子の描き方が臨場感たっぷりで、読みながらずっとハラハラしていました。現実のあおり運転の加害者も、こんな心理状態なのかと思ったら、暗澹たる気分にさせられます。なんなら、「自分は不愉快な思いをさせられている被害者」くらいの意識でいるんだもんな・・・
あおり運転場面の悪質さとは裏腹に、学校の場面は意外なくらい穏やかに進みます。晴はモンスターペアレントに悩まされこそするものの、一番タチが悪そうだった保護者は早々に事故死。不登校の生徒は間もなく登校するようになりますし、陰湿ないじめ描写もなし。晴の身内を中傷するビラが貼られる、ロッカーに置いておいた私物が燃やされるといった嫌がらせはありますが、周りの教職員が一丸となってフォロー体制を取るため、あまり胸糞悪さは感じません。この手の作品で、学校が舞台となると、これ以上ないくらい陰々滅々とした展開になりがちなので、ここはかなり意外でした。
だからこそ、夏合宿で、ドミノ倒しのように判明していく真相が衝撃的です。タイトルからして、教師側に何らかの罪があるのだろうなと思っていましたが、まさかこんなことだったとは。面白いのは、単に学校の秘密が明らかになっただけでは終わらず、そこからさらに二転三転していくところでしょう。終盤の車を使ったスペクタクルシーンなんて、凄すぎてもはやシュールと言えるレベルです。犯罪が出てくるのに不謹慎だとは思いますが、この場面はぜひとも映像で見てみたいです。
ただ、不思議と本作、イヤミスという印象は受けませんでした。他のくわがき作品と同様、主要登場人物全員のクセが強すぎて、<か弱い被害者がやられっぱなし>という感じではないからかもしれません。ということで、読後感はさほど悪くないです。晴の、そしてこの学校の今後を思うと続編が読みたい気もしますが・・・展開上、難しいかしら。
作品全体のスピード感がハンパない度★★★★★
教職の裏事情がなかなか興味深い度★★★★★







