記憶力はそこそこいいと自負している私ですが、それでも覚えるのが苦手なものがいくつかあります。その内の一つは、月ごとの日の数。「九月は三十日までで、十月は三十一日で・・・」というのが、本当に苦手なんです。<西向く士(にしむくさむらい)→二、四、六、九、十一月は日数が少ない月>という語呂合わせを考え出してくれた人には、感謝してもしきれません。
この日の数、サスペンスやホラーの分野では、意外と重要な要素となることが多いです。登場人物が異世界に迷い込んで、三月のカレンダーが三十日までなのを見て「あ!ここは現実世界じゃない!」と気づくというような展開、今までに何度か見ました。それから、今日ご紹介する作品でも、日付がキーワードになっているんですよ。真梨幸子さんの『6月31日の同窓会』です。
こんな人におすすめ
女子校を中心に展開するイヤミスが読みたい人
必ず、必ず、同窓会にお越しください---――お嬢様学校として名高い蘭聖学園の卒業生達のもとに送り付けられる、六月三十一日の同窓会案内状。存在しないはずの日付に開催される同窓会案内状を受け取った卒業生達は、一人、また一人と謎の死を遂げていく。これは、まさか、学園に伝わる伝説が現実のものとなったのか。不品行な生徒は六月三十一日の同窓会に招待され、<お仕置き>されるという伝説が・・・・・女の園で繰り広げられる憎悪と妄執の行方を描くイヤミス長編
数年ぶりの再読です。とはいえ、人間関係や時系列がかなり複雑ということもあり、細部をばっちり忘れていたため新鮮な気持ちで読むことができました。一応、終盤で主要登場人物が事件を整理してくれるのですが、不安な方はメモを取りながら読むことをお勧めします。労力をかけるだけの価値はあると思いますよ。
神奈川県某所に存在する名門女子校・蘭聖学園。そのOGたちのもとに、六月三十一日に開催される同窓会の案内状が届き始めます。六月は三十日までのはずでは?当然、誰もが訝しむのですが、事態はただの悪戯では終わりませんでした。なんと、案内状を受け取った女性達が次々と不審死を遂げていくようになったのです。蘭聖学園OGであり、やはり案内状を受け取った弁護士・松川凛子は、困惑する同窓生達の相談を受ける羽目に。実は学園には、<行状の悪い生徒のもとには六月三十一日の同窓会案内状が届き、お仕置きされる>という伝説がありました。まさか、あの伝説は本当だったのか。不安に苛まれつつ、学園関係者達とコンタクトを取っていく凛子ですが・・・・・果たして六月三十一日の同窓会とは、一体何なのでしょうか。
序盤から真梨節全開で、次から次へと人が死んでいく本作。しかも、その死因の多くにフッ化水素酸(皮膚に触れると激痛や壊死を引き起こし、最悪、死に至る危険のある劇薬)が関わっているので、痛々しさも半端ありません。そこに、学園に伝わる<六月三十一日の同窓会>の伝説、その伝説をもとに脚本が作られた劇のエピソードが絡んで混迷していく様子は、まさにジェットコースターのよう。終盤の謎解きはちょっと力技のような気もしますが、真梨幸子さんだと、これが持ち味と感じられるのだから不思議です。
ただ、私としては、そうしたミステリー部分よりも、作中で描かれる女同士の負の描写の方がインパクトありました。傍目には異様に映るほど結束が固い伝統校OG達とか、内部進学組と外部入試組の水面下の隔たりとか、容姿や口癖からあだ名を付けてしまう女子高生の幼さとか、なんだかんだで学生時代の人間関係・ポジションを引きずってしまう女性心理とか・・・「あー、あるかもあるかも」と思わせられる場面の連続で、いい意味でげんなりさせられること請け合いです。そんな中、中盤から登場する<おひぃさま>こと雪乃は、真梨幸子さんの作品にしては珍しいくらい真っ当なキャラクターで、逆に印象に残りました。だって、他はあんなのとかこんなのとかばっかりだもんなぁ・・・
なお、主要登場人物の一人である松川凛子は、今後、他の真梨作品にもちらほら登場します。本作以外では基本的に脇役ポジションですが、弁護士として順調に活躍中の様子。それを踏まえた上で本作のラストを読んでみると・・・・・こ、怖っ!!
女子校という舞台に活かし方がすっごく巧み度★★★★★
各自のあだ名は要チェックです度★★★★☆